82-偽邪竜斬りと偽召喚竜と私達

「カバンシよう、そもそもあれ、竜じゃねえだろ」

「ああ。けいの様に半竜でもない。……指輪の力であれが竜に見えているのか?」


 そう。珪とは似ても似つかない、普通の大トカゲ。


 私達にはもしかしたら、の姿が分からないから、試しに訊いてみた。

「テルルさん、あれ何に見える?」

「竜に見えなくもないけど、よく見たらやっぱり大トカゲ、って感じです。俺は偽物、って知ってますからね。ああ、嫌な音はあの偽物から強く出てますよ、王子殿下。俺はギルドに戻っていいですか?」

 お疲れ様、テルルさんありがとう。


 テルルさんの耳は、指輪の力を使われた人の音が判別できるんだね。

 相手が術を自覚していたら指輪の効果が薄くなるっていうのも立派な成果だ。


 テルルさんには危害が及ばない様に、カンザンさんが示してくれた緊急避難口から退場してもらった。


 土壁で上手く隠れていて、避難口とは一見では分からない。これも元諜報専門冒険者ならでは、なのかな。


「イオウは術を掛けられた方か。相変わらず耳はすげえなテルルは。そうなると、指輪は壊さずに奴らだけボコる! だな?」

「だったら、亜空間を作ってそこで行いましょう。カンザンさん、どこかお客さんと従業員さんが入らない所はありますか」


 外には一般の人もいるし、ギルドには下級資格保持者さんやテルルさんみたいな冒険者有資格者とは言え事務担当の人やもっと心配な専門職の事務担当の人達もいる。


 だから、一番安全なのはここ、関山店内だ。


「さっき殿下達が食事をしてくれた個室、全部空いてるよ。さすがにどんちゃん騒ぎはフロアだけにしてるからな。なるべく壊さないでくれや」

「ありがとうございます。万が一がありましたら必ず弁償します」


「王国騎士団も補填に協力いたしますからご安心を」

 現れましたよ千斎さん!


 この方、本当に事件を見逃さないね。

「こんな面白……、重大な案件は、王国騎士団大将としましては王子殿下のお側にてお守りしませんと」

 面白い、って言ったよこの人!


 もう、人でいいや。

 しかも、大将とか言いながら、騎士団分室騎士隊服に着替えてるし。用意周到だ。


「まあ、大将閣下に先に亜空間を作って頂いておけば、カンザン殿の店への被害が減るかも知れませんから。ハンダ、お前が時間を稼げ。いきなり邪竜斬りに襲いかかってもいい。とにかく殺すな。思考ができれば声帯もどうでもいい。あと指輪を守れ」


「カバンシ、指輪はともかく、殺さねえのはなあ、難しくねえか? 努力はするが、俺だけじゃねえもん、あいつらボコボコにしたいのは」

「理解できるが、努力しろ」

「まあ、なあ。とりあえず、行くか」


 そして、皆で普通に徒歩移動。

 千斎さんの亜空間魔法、時間はそんなに掛からないからだって。

 あと、連中に不信感を抱かせない為。さすが。


 居酒屋関山のお客の皆さんがイオウ達に上手く絡んでくれている。

 そうでなくても、よく顔を出せたな! って感じらしい。


 店主のカンザンさんが殿下の作戦だから手を出すなよ、ってお客さん達に言ってくれていなかったら、多分あいつら皆さんに殴られていると思う。


 どこが竜だ、かわいい大トカゲじゃねえか、とか、邪竜斬りならあそこにいるぜ? 良く本人前にして言えるよな、とか言われてるのも気にしていないイオウ、神経は別の意味で強いな。


 あと、指輪の影響を受けていない、魔力が高い冒険者さんが多いのが分かって、私としては安心感が強まった。


「皆、こちらの方々がそいつらに話をなさりたいそうだ。道を空けてやって、通してくれ!」

 カンザンさんが叫んでくれた。

 そのお陰で、イオウ達はスムーズに私達の所に来る事ができた。


「初めまして、雇い主イオウ様の運命のお方ですね。俺は邪竜斬り、ハンダ-カーボンです。こちらは俺の竜。元邪竜ですが、もう危険はありません」


 うわ。何だかなあ。

 イケてる、って言う人もいるかも知れないけれど、ハンダさんとは似ても似つかない感じの人。

 何より、爽やかさがない。

 魔力体力はそれなりだけど、上手く使えていない。緑簾さんなら指1本で滅、ってところかな。


『いや、指1本もいらねえ。気だけで飛ばせる』

 そうですか、緑簾さん。


 できたら、大トカゲは無傷で捕獲してあげたいな。多分、利用されているんだと思う。

 洗脳だったら解除してあげなきゃ。あ、黒白がパタパタしている。当たりだね。


『ありがとうございます、第三王子殿下』

 え、誰。高い声。


『主殿、あの大トカゲかと。珪の気配を感じ、念話を試みたのでは。大トカゲにしては魔力も高い、賢いものです』

 そういうことか。いや、ここにいない珪の気配が分かるって、すごいよね?


 二人には聞こえていないみたい。それに、多分あの二人合わせたよりも大トカゲの方が多分強い。珪のことが分かるくらいだし、間違いない。


 でも良かった。

 指輪の力はやっぱり万能じゃないんだ。


『今はイオウにしか指輪の力、使えていないよね? だったら、寿右衛門さん、事情を聞いてあげて。こちらの作戦も伝えて、協力してもらおう』


『良いご判断です。では大トカゲ、貴方の名前は?』

とちと申します。第三王子殿下の精霊獣殿』

『茶色殿、上手く後からその子といらしてね。こっちはあたくしが』


 できる朱色の精霊獣、朱々さんが怒りを隠して二人を上手く個室に誘導してくれた。


 イオウと偽邪竜斬りは、明らかに高貴な雰囲気の朱々さんに驚いていたけれど、緑簾さんが

『いやあ、さすがは邪竜斬り様と主様の運命さんだなあ、格が違うねえ! ほら、奥へ行きましょう!』

 と、かなり魔力を絞ってノリの軽ーいイケメン鬼さんの振りをしてくれたから何とかなった。意外と演技巧いね。


『ありがとよ、主様。こいつらの案内途中でぶん殴っても勘弁してくれ』

 あははは。まあ、何とか我慢してね。


「いや、別にいいんじゃねえ? うっかりなら仕方ねえ」

 真の邪竜斬りさんからのひと言。

 

「そうですね」

「そうだな」

「やむを得ません」


 ナーハルテ様、カバンシさん、千斎さん。


 皆さん、うんうんて。


 いや、分かりますけどね!







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