81-居酒屋関山の私達

「カンザン、まだ騒いでたんだな」


「おお。昼の営業時間はとっくに終わってんだがな。まあ、めでたい日だから仕方ねえ。第三王子殿下、筆頭公爵令嬢様、おめでとうございます」 


 ここは、中央冒険者ギルドに近い商店街の一角、居酒屋関山。


 元銀階級冒険者のカンザンさんのお店。


 一応、第三王子殿下が皆さんに奢って差し上げて雅量を示したのだけれど(だからまだ夕方前なのに騒がしい)、そんな事がなくてもお客さんがやってくるであろうおいしさのお店。

 絶対また来ます。できたらナーハルテ様とのデートで。


 あ、カンザンさん、祝辞ありがとうございます。


「カンザン様、ありがとうございます。あと、その、え、ええと。お誘い嬉しいです。楽しみにしております……ニケ様」


『もうこの辺に宿取って泊まって行けよ主様』

 そう言った緑簾さんに朱々さんの炎が襲撃。

 ピンポイントで狙って周囲に被害無し。さすが。少しだけ焦げた匂いがするけれど。


「ごめんなさい朱々さん。わ、僕が願望を口にしたから。口に出てたんだね」


『貴方様は良いのよ。ナーも喜んでいるし。ただ、この緑に品性が足りないのですわ』

『確かに。朱色殿、ついでに少しでも品性の矯正を』


『いやいや、もういりません、反省しました! あ、ハンちゃんカバちゃん!俺もそっち手伝うぜ!』


 緑簾さんが逃げていった。


 あ、千斎さんは何かの準備、とかで少し外しています。


 今、ハンダさんとカバンシさんがしているのは居酒屋関山を拠点とした指輪装着者の摘発。

 まさか、中央冒険者ギルドのお膝元に、って感じだけれど念の為。

 実は、一人引っかかったんだよね。しかも、既視感ありまくりの人が。


「テルルよう、あいつで間違いないな?」


「ああ、銅階級合格でさえぎりぎりだったくせに粋がるわ、カンザンさんの店で迷惑行為をするわだったあげくの果てに王子殿下をナンパって……。いや、俺も失礼ぶっこいたけど。すんませんした!」


 いや、テルルさんもういいですよ、今度からは同性にも優しくしてあげてね、と伝えたら、

「何というお心の広さ! さすがは邪竜斬りのカーボンを配下にされた第三王子殿下!」

 へへえ、って、世直し時代劇じゃないんだから。


 あと、カーボンさんじゃなくてハンダさんは仲間です。

 まあ、ハンダさん爆笑してるから良いのかな。


 それよりも、テルルさんが反省の証と奉仕の為に自主的に指輪探しに協力してくれたのはありがたい。


 そう、ハンダさんとカバンシさんはこちらに少し残って、禁地の指輪探しをしてくれる事になりました。

 あとは、偽物の邪竜斬りも出没しているらしいから、それの退治も兼ねて。


 やり口としては用心棒とか言って飲食を奢らせる、かなりせこいやり方。本物はそんな事絶対にしません。

 貧しい方や善良な方からは何も頂きませんし、場合によっては逆に奢ったりする方達です。


「んな善人じゃねえって! だが偽物は潰すからな」と、ご本人は言っていたけれど。

 カバンシさんは苦笑していたから多分私の予想は外れていないと思う。


「イオウの野郎、本当に。ギルドマスターがすぐに解放して下さったのも自分の魅力のお陰とか思ってんじゃねえかなあ」

 カンザンさんが苦々しげに言う。


 イオウ。さん付けしたくない人。


 何しろ、私に運命を感じたとか何かでナンパしてきて、ナーハルテ様の麗しいお顔を引きつらせた。

 それが一番許せない。


 緑簾さんの瞬間退治劇、鮮やかだったなあ。


 その人が懲罰対象として中央冒険者ギルドの詰問室に入れられていた時に、たまたま隣の休憩室にいたテルルさんが嫌な音を聞いたのだ。

 それはあの、例の指輪の音。


 私がギルドマスタースコレスさんの許可を得て、銀階級と編入試験の合格後にテルルさんの刻印を反省による自然解除にしたから、目が覚めたらしい。

 本当に反省したんだね、テルルさん。それは良かった。


 一応もう一度注意を、と確認に見えたスコレスさんにテルルさんが話し、スコレスさんは私達の正体を話し、テルルさんが更に深ーく大反省、という訳。


 そこで解放されたイオウ、懲りずにまた運命の探しに現れた。


 スコレスさんから話を聞いていたカンザンさんが上手く居酒屋関山に誘導してくれて、後はイオウに指輪を渡した奴の情報でも取れたらなあ、と言っていたのはハンダさん。


 関山の従業員さん、多数はアルバイト、そして本業は冒険者さん、とか荒事に理解がある方達。

 本職さん達もカンザンさんお墨付きの武力体力持ちの方々。


 そういう意味でも、居酒屋関山良いお店。


 カンザンさん曰く、イオウは豪農の長男なんだけど、農作業に忙しい農夫さんにしつこくせまったり、色々と問題を起こして勘当された身らしい。

 それでも他人に迷惑はかけられないと親御さんが渡した手切れ金で割と自由にしていて、中央冒険者ギルドでも特にしゃれにならない問題は起こしていなかったらしい。


「家は妹が継ぐ予定らしいぞ。何でも、王立学院に在籍していて、平民いじめから庇ってくれたどっかの聖女候補と、平民差別をしていた連中をまとめて断罪してくれたどっかの王子殿下とその婚約者さんにめちゃくちゃ心酔してるから平民なのに上クラスの編入試験を目指せる位に勤勉なんだと。将来有望だなあ。実家の親御さんにめちゃくちゃ謝られて、たくさんの良作物を頂いちまったよ。この際法律上でも縁を切ります! 是非とも皆様のなさりたい様になさって下さい! だそうだ」

 うわ、そうなんですか。


 農夫さんを守るあたり、ご実家は良い大農家さんなんだね、きっと。

 それにしても、妹さんが憧れる存在。一体どこの聖女候補と王子と超素敵な婚約者様でしょうねえ。


「いや、もうカンザンは大体情報握ってるからな、王子殿下。とりあえず、イオウが殿下を見付けて馬鹿をやっても、ふん縛る位にする事。皆、色々我慢してくれよ。特に緑ちゃん」


『へいへい。とりあえず、折ったりはしねえよ』

『あたくしも、焦がすだけで消し炭にはしませんわ』

『私も、まあ、体の自由を奪う程度にしましょうか』


 うわ。高位精霊獣お三方、静かに怒り心頭。


 特に、ナーハルテ様から事の次第を聞いた朱々さんが、

『何故その場にあたくしを呼ばないの!』

 と、叫んだらしいからなあ。


 まあ、かっこ良く啖呵を切ったナーハルテ様のお姿を見逃したのが悔しい、ってのもあると思うよ朱々さんの場合。内緒だけれども。


「まあ、殿下もお嫌だろうが、一応対象の相手をして下さい。ハンダ、万が一もないように」

「分かった。んじゃあ始めるぜ、カンザン、頼まあ」


「あいよ。……おーい、イオウ、良くすぐに戻れたなあ?」

「あ、カンザンさん。それに、僕の運命の君! どうだい、ついでだから君に紹介するよ。こちら、あの有名な邪竜斬りのカーボンさん、そして召喚獣の竜殿だ。僕の身辺警護だよ。君のその、外見ばかり美しい連中よりも遥かに役に立つと思うよ?」


『主様、俺、あいつらの骨折らねえ自信なくなった』

『ナー、あたくしも奴等を燃やしたくなりましたわ』

『主殿、私は地中深くに穴を掘り、埋めてやりたいです』


「茶色殿、奇遇だな、俺もだ」

「ふむ、カンザン殿の店が無事ならいいのでは?」

「それならば、わたくしが防御壁を」


「うーん、こりゃ止めづれえなあ。店主としては店とまともな客が無事ならいいや」

「俺、先に逃げていいっすか、王子殿下」


 緑簾さん、朱々さん、寿右衛門さん、ハンダさん、カバンシさん、ナーハルテ様、カンザンさん、まあ、そうですよねのテルルさん。


 いやいやいや。


 あのイオウって人、本当に、ろくな事しないね!





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