79-監査さん達と私

「まあ、もう何となく分かってると思うけど、俺達が全員、選抜クラスの試験監査担当なんだわ。俺はカバンシと組まないと資格無しだけどな」


 コヨミ王国王立学院選抜クラス試験監査官。当然ながら希望制ではなく選任制。


 こちらの皆さんの場合、当てはまる条件はギルドマスター、王国騎士団隊長または大将格以上、金階級冒険者等の有資格者。


 資格だけ有していても建国の英雄、学院長先生の厳しい審査をクリアしないといけない。


 王立学院の威光からして、相当な名誉職だ。


「叙爵から逃げる後ろ盾になる代わりに、って事だったんだがな。まだ殆ど寝てたカバンシに言われて引き受けたのは正解だった。こんなに面白えの、隕石をぶち壊して以来だ」


 からからと笑うハンダさんが、天井を仰ぐ。

「千斎殿が教えてくれたんだが、セレンは聖魔法大導師様に認めてもらえたらそこで合格だとさ。まあ、あいつは王子殿下と違って行儀とかをまだまだ学ばねえとだから、厳しくして頂いたらいいや」


「行儀作法についてお前がセレンに言える事はないだろうに。しかし、これは面白い戦法だったな」 


 人型に戻ったカバンシさんも同じく天井に視線を移した。


 天井には、ついさっきまで行われていた試合の様子が。


 ギルドマスタースコレスさんが試合場内の蔓を上手く誘導して閉めた天井をスクリーンにして、千斎さん撮影の映像水晶の映像を流しているのだ。

 臨場感がすごい。

 あと、カメラワーク(って言っていいと思う)が凝りまくり。


「最後の技は、何度拝見しても良いですね。まさか、御身を飛ばされるとは。本当に、将来はご夫婦で騎士団魔法隊にいらっしゃいませんか。即時将官待遇でお迎えいたします」

 千斎さん、ご夫婦で、って。


 いや、騎士団魔法隊の将官ナーハルテ様の隣に立てるのは非常においしい。

 うん。しかも、お、夫さん。

 いやいやいや。

 今はさっきの試合の検証! 銀階級合格と編入試験合格、取り消しになったら大変!


 あ、そうだ、最後の技。


 実はそうなんです。さっき、白面経由で伝えて大きくなってもらったカバンシさんスリングショットで飛ばしたのは、私自身。


 飛ばして、は黒面で魔力体力を増強して、瞬間移動魔法と防御魔法を同時掛けした自分が弾になって、ハンダさんにぶつかったのです。


 いや本当、一か八かでした。

 自分がスリングショットもといカタパルトで発射してもらっちゃった。


 体力増強は、万が一、ハンダさんが避けた時の保険。


「正直、受け止めて下さるとは思ったのですが、カバンシさんにも助けて頂いていたし、魔力体力増強も黒白のお陰だし」


 そう言ったら、白面がバタバタ。あ、ごめん。


「ごめん。白面のお陰で土の防御壁、かなりの時間ハンダさんの猛攻撃に耐えてくれたよね。すごかったよ。ありがとう。それに、地面を整えてくれてありがとう。スコレスさんのご負担になるといけないからね」


 あ、良かった。パタパタに戻った。

 念話も使えるけれど、黒白的にはこっちのやり取りの方が好きなのかな。


「いやいや、年寄りの魔力使用量を思いやって下さるとは。ハンダとは大違い。ただ、まだまだ若い者には負けませんよ。これもありますしな。そうじゃ。王子殿下の健闘を称えて、特別に差し上げましょう。あの優秀そうな袋の魔道具殿ならば、再現できましょう」


 ギルドマスタースコレスさんがマジックバッグから取り出して渡してくれたのは、見慣れないハーブたくさんと、あの木のコブのカップに似た別のカップ。


「魔力体力増強を助ける儂の里の秘伝の茶。再現できたなら、殿下のお好きにして良いですぞ。ただし、そのカップで飲ませませんと、ハーブ達が機嫌を損ねます。お気を付けて」


 え。何かすごい感じがしますけど。

 しかも、リュックさん、多分再現しちゃうよ?


「ああ、大丈夫ですよ。万が一、王子殿下を謀って使用する者がおりましたら、てきめんに作用いたしますから。あくまでも、殿下の意思を尊重しますので、ご安心を」


「要するに、ハンダがうまそうだな、もらうぜ! と勝手に飲んだら。」


「そうじゃ。渋ーい味になったり、体調を崩したりする訳じゃ」

「いやだからカバンシ、何で俺だよ!」

「いや、貴方か緑殿で想像するのが早いかと」

「千斎殿、ひでえ! 魔法隊隊長殿がそれでいいのかよ?」


「いいのです。ここにおります私はあくまでも図書室の主。コヨミ王国王立騎士団魔法隊隊長は謎の存在、とされていますから」


「またまた。上級大将昇進を50年以上でしたかな? 拒んでおるのはどなたですかな。儂はギルドの情報ルートで聞き及んでおりますぞ」


「そうそう。先代の邪竜討伐者、千斎殿がそうだ、ってその筋では専らの噂っすよ。俺が邪竜斬りなら邪竜封じ、ってな」


「さあ、何の事でしょう」

「いや、これは私も一言言わせて頂こう。その逸話は、竜族にも知られた話ですよ」

「全く見当も付きませんね」


 邪竜封じ。聞くだけで凄そうな二つ名。


 やっぱり、千斎さん、今までに色々やらかしてますよね絶対。


 あれ、何か光ってる。

 財布(私のあちらでの愛用品。それをリュックさんがこちら仕様にしてくれた物)に入れておいた禁書庫カードだ。


「おや、丁度良いですな。それを資格証明書としましょう。こちらに皆さんが戻られましたら、更新いたしましょう」 


 え。スコレスさん、リュックさんみたいな事もしてしまわれるエルフさんなんですか!

 更に凄みが増しました!


 どうやら、合格! って、ほっとしたり喜んだりするのは、もう少しだけお預けみたいです。







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