78-ダブル試験の私

「そろそろでしょうか」

 千斎さんが言う。


 ギルドマスタースコレスさんは試合場内の地面をきれいに整えてくれた。

 ある程度水を吸った土達も元気になった様だ。

 適度に乾いていて、足を取られない、でも埃まみれにはならない、動きを妨げない感じ。


 手の平の剣ダコを治しましょうとも言ってもらえたけど、試験の後にしてもらう事にした。


 元指輪、現在は時計を兼ねた魔道具になった黒白こくびゃくとも作戦を話し合った。白黒しろくろ黒白くろしろと呼び掛けたらどちらかの面がバタバタと抗議してきたけど、これだとパタパタ。


 双方納得で、話し合いも多分上手く行った。成功するかは分からないけれど。


 改めて考えると、命のやり取りとか普通はない異世界ところから来た人間が、危険と隣り合わせの世界で生きていた金階級冒険者さんと試合をする。すごい事だ。


 でも、私は強要されて来させられた訳ではなくて、自分で選んだ訳だし。


 まあ、大好きな方の婚約者に転生できるとは思ってもみなかったけど。

 でも、もし。最初からナーハルテ様の婚約者、まぬけ王子(ニッケル君ごめん。今は全然印象違うからね)に転生すると分かっていたら、どうだったかな。


 多分、辣腕女騎士さんに転生すると思っていた時よりも悩んだろう。私で、いいのかな、と。


 でも、きっと。

『『助けにみえましたよね』』

 え。誰。黒白?


 何、またリュックさんみたいに素敵に賢い魔道具が増えちゃうの?


 いや、まあ。そうですね、うん。

 ナーハルテ様の断罪、許せないし。


 断罪の為に必要な劇場、って分かった今でも、あんな風に乗りこんで、言い切れて、よかったと思ってるし。


 あれ? 結局そうなるのか。


『そう。単純な事です。ほら、始まりますよ』


 カバンシさんにまで言われてしまった。


 それに何だか、硅達の土地の浄化の時と違う。

 今はきちんと、私が何をしたらいいかが分かる。全身に力を。


 さっき、スコレスさんのハーブティーがしてくれた、呼吸しているみたいな箇所に魔力を巡らせるイメージが持てる。


「王子殿下、先に言っておく。俺の1番の得意は、雷魔法。若い頃はたまに、雷パンチ、とかやってた。覚えといてくれ。確かに伝えたぞ。千斎殿、よければ合図を」


「分かりました。では始めましょう。位置に付いて下さい」 


「はい」 

「おお」 


 明確な立ち位置とかがある訳ではないけれど、それなりに双方で距離を取る。

 さっきのスコレスさん対ハンダさんもそうだった。


「……始めて下さい!」

 千斎さんの声がしたら。


 ハンダさんが、消えた。

 ……様に見えたけど、違う。

 視覚だけに魔力を注いだら他の動きに対応できないからしない。だけど、感じる事なら何とか。


「黒白、いくよ!」


 腕輪から指輪に戻った黒面が、輝きを見せて、私の魔力を一時的に押し上げる。


「……見付けた! そこ!」


 ハンダさん、何でただの跳躍で天井を超えるの。

 しかも、いつもよりも制限されてるのに。


「良く見たな! いいぞお!」

 ハンダさんが白い歯を見せたかと思ったら、雷撃が飛んできた。

 と同時に、地面に大きな穴が空く。


 あ、危な……い。

 我ながら良く避けた。


 白面を使おうにも、多分ハンダさんを操れても相手の力が強すぎて、暴れ回られたりしたら手がつけられない。

 しかも、カバンシさんまでいるのだ。


 蔓達はスコレスさんが既に使用しているから、ハンダさん程の人に同じ手を使える筈もない。となると、白面で操れそうなのは。


「考えてる時間が長いぞ!」

 うわ、雷撃がすごい。


 あ、カバンシさんを枠にして、元邪竜革のベルトと組ませてパチンコみたいにして雷弾を打ちつけてきてる。

 スリングショットだ。革のベルトを一時的に物質変換させてゴム状にして雷弾と一緒に引っ張り、飛ばす。

 ただこれ、スリングショットというよりカタパルトだよ。

 この威力なら、お城だって攻められそうなんですけど。


 とりあえず、防御壁。

 試合場の地面を硬化させて、壁にする。反魔法作用を付与したから、これで時間稼ぎをしよう。


「面白い。俺が遠距離で倒せなかった!高得点じゃねえか? ジジイに千斎殿!」


「じゃな」

「ですね」


 ハンダさん、すっかり楽しんでるし。


 やっぱり、私も反撃しないと駄目だよね。


『どうなさいますか、王子殿下。降参ですか? もし、この場に守りたい方がいらしてもこのままなのですか?』


 カバンシさん、この状況でアドバイスしてくれていいの? 


 いや、そうだ、私だけじゃなくて誰かがいたら。それが守りたい人で、その人が私を失いたくないと思って下さるなら。


「よし、白面。あれを!」


 くるりと入れ替わり、指輪の白い面が防御壁を操る。


 塊のままひゅるひゅると伸びて、スリングショットのカバンシさんを捉え、何とか抑えた。 


『いいご判断です』

 カバンシさん、分かってるのに避けなかったの?

 ねえ、もうこれ操られてないよね、協力じゃないかな?


「カバンシを抑えたか。やるねえ!」


 シュッ。


 うわ、風圧で飛ばされそう。

 雷パンチじゃなくて雷キックでしょそれ!


 しかも着地、天井からドスン、悠々着地、って。身体強化したの? してないの?


「……10分経過。ダイヤモンド階級冒険者に対してこの時間を稼いだ。銀階級合格、十分過ぎてお釣りがきますわい」


「きちんと記録もいたしました」

「良かったな、王子殿下! 続けて編入試験だ!」


 ありがとうございます、スコレスさん。


 でもハンダさん、祝砲が雷パンチなのは、どうかと思います。しかも何発も。

 風圧で防御壁の凹みがすごい。


 それでも一応、防御壁のお陰でしのげているけれど、これからどうしよう。


『まだ手はあるでしょう?』


 え。

 あるけど、その手を使っていいんですか?


『『『使いましょう』』』


 え、カバンシさん、黒白。


 ……分かりました。もし使って反則になったら、王立学院で再度選抜クラス編入試験を受けさせて下さいってごねます! 

 それくらいはやりますよ!


「白面、カバンシさんを離して! 黒面、、私の力を増やして!」


 白面が抑えていたカバンシさんを離して、私は黒面で魔力と体力を大幅に増やす。


 そう、さっきは魔力しか増やしていない。これが最大限。


「カバンシさん、大きくなって! そして、をハンダさんにぶつけて!」


『いきますよ!』

 もう完全に、操られているのではない。とりあえず、やらせてもらいます!

「いけえ!」


 上手く行った感触はあった。

 でも。

 ……思わず瞑っていた目を開けたら、ハンダさんが笑っていた。


「面白えなあ。すげえのが飛んできた。もういいだろう? 。まあ、俺らもだけどな」


「うむ」

「はい」


「おめでとう、第三王子殿下。編入試験合格、文句ねえよ」


『勿論私も異存などございません』

『『おめでとうございます』』


 ありがとうございます。


 魔力と体力の使用量は今までにないほど。


 だけど、ちゃんと意識があるし、立っていられる。私も少しは、成長しているのかな。


 ……あれ、監査さん達? って?












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