72-昼食の私達

 今回のリュックさんの揺れは指輪出来ました! だった。


 指輪は黒白混合。

 反転は自由自在。オセロの駒に似ている。私にも装着可能。何故? と思ったらリュックさんが色々改造というか教育と言うか、とにかくたくさん何かをしたらしい。


 寿右衛門さんでさえ、

『リュック殿が何をされたかは秘密とさせて頂きたく。しかしながら、装着に全く問題はございませんし、これはもう別物です。主殿の意思に反してご自身や他者を操る事は絶対にございませんので、ご不快でなければお持ち下さい』

 と言うばかり。

 要するに、聞かないで、って事だね。


 指に擬態する事はできるみたいだけど、気に入ったからこのままで。良く見たら、中が透けて時計の文字盤になってるの。あれ、これ、私の腕時計? 黒い面だと白く透けて、黒の面だと白抜き。面白い。


「リュックさん? 私の時計、使った?」

 背中のリュックさん、何だか慌ててる気がする。揺れまくってるし。

 いや、怒ってないよ。この世界はまだ懐中時計が一般的だから、使っていいか寿右衛門さんに確認してから、と思ってそのままだったし。ある意味ありがとう。


 あ、今はお昼ご飯の為に外に出ています。


 魔馬インディゴ(さん、はやめてほしいと寿右衛門さん経由で言われました)も厩舎でご飯と水分補給とブラッシングだって。

 さすがは中央冒険者ギルド。対価を払えばかゆいところに手が届く。


「主様、あそこなんかいいんじゃねえ?」


 緑簾さんが野生の勘で良い店を見付けたらしい。


 ハンダさんは久しぶり過ぎて分からねえ、すまん。だって。

 いえいえ、どういたしまして。


 千斎さんは先に転移魔法で戻りました。

 騎士団上層部、聖教会本部と共有したい情報が多すぎるらしい。

 もしかしたらまた顔を出すかもしれません、だって。


 どちらにしても私達も二の都市中心部に戻ったらまた会合をしないといけないしね。


 そうだ、

「ナー嬢、普通の食堂は平気ですか?」


「ニケ様、ご心配には及びません。我が国は諸国でも指折りの食材が豊富な国です。一般の方の食堂も良い物を出してくださいますよ」

 平気ですか? は、私の事じゃなかったんだけど、大丈夫みたいで安心。


 ナーとニケ。この呼び方、お忍びっぽくていいよね。

 できたら個室がいいね、と寿右衛門さんに言ったら、カバンシさんと一緒に先に聞きに行ってくれた。


 ギルドマスタースコレスさんはギルドにいるし、千斎さんは一足お先でいないからこのコンビが最適。


『奥の個室を取りましたのでいらして下さい』

 やっぱり念話は便利。


 えーと、昼間は普通に食事ができる居酒屋さん、って感じ。藁葺き屋根な所がいい。


 メニューは木の板と、本日のおすすめは板に留められた紙1枚。注文は直接厨房近くのカウンターに頼むみたい。


『食べ過ぎてもいけませんから、お二人はこちらからお選び下さい』

「ハンダ、緑、酒は二杯まで。酒樽は禁止。先に食事をしろ」


 寿右衛門さん、カバンシさん。

 てきぱき執事さんが二人いるみたい。カバンシさんは子連れのお父さんかな? 飲み物はお酒だけど。


「ナー嬢、お先にどうぞ。私はお水を」

 テーブルごとに水が入ったピッチャーみたいな大きな木製の入れ物と、幾つかの木のコップが置かれている。


 冷却魔法が掛かっているらしい。暖かい水(白湯?)はタンクに取りに行くシステムだった。


「はい、はい、はいっと」

 全員分のお水を操作系魔法で入れて、それぞれの場所に。

 あ、問題のないお水かどうかは確認してから魔法を掛けましたよ。これ位はできる様になりました。


「千斎殿がいらしたら合格を出されましたな」

「本当に。ありがとうございます、ニケ様」


 カバンシさんのお言葉とナーハルテ様の和やかなお顔。

 十分過ぎるお褒めの言葉。


「わたくしはこちらを」

 ナーハルテ様は小魚とジャガイモのフライと野菜たっぷりのスープとパン、食後のお飲み物のセット。


「あ、いいで……ね。わ、僕もそれを」

 こういう所では僕か俺かな、と思って変えてみたら


『主殿、良いご判断です』

 寿右衛門さんが言うなら間違いない。


「俺達は暴れ牛のステーキセット五人前と酒を大杯で二杯。それを二人共で」

「では私はそれを二人前と大杯一杯で」

「わたくしは先ほどのセットに食後はコーヒーを」

「あ、同じセットに僕は紅茶を」


『分かりました。そして私のサラダ大盛りですな』

 伝令鳥寿右衛門さんに注文をお任せなんて、贅沢だなあ。


『厨房が少し覗けましたが、きびきびとした良い働きぶりです。良い食事を提供してくれるでしょう』

 寿右衛門さん、そんなチェックもしているなんてさすがです。


 お水を飲みながら、少しのんびり。


 食べ終わったら、ハンダさんに試験の事を聞いてみようかな。


「うわあ、君、かわいらしいねえ! 俺は銀階級直前の冒険者なんだけど。俺も個室を押さえてるからあっちに行こうよ」


 まあ顔が良い部類なのかも知れないけどこのメンバーに良く声を掛けられるなあ、という感じの冒険者の青年だった。


 私達全員、魔力はわざと抑えめにしているけれど、遠くにいる明らかに実力がありそうな人達から笑われてますよ。

 あの一群に声を掛けるかよあの魔力で、って。この人絶対気付いてないな。


 あと、銀階級直前? それって。


「銅階級って事だろう? それに、こちらの方々はてめえなんぞと話す必要は一切ないお人達だ。早く去れ」


 ハンダさん、かなり控えめな対応にしてくれてありがとうございます。 

「ボディガードには話していないよ。そちらの白金しろがねの美しい方に話しているんだ」

 はあ? 白金? ナーハルテ様の美しい可愛らしさを差し置いて、私?


 そのまま外に転送してやろうか、と思ったら白く美しい手に阻まれた。


「こちらの方はわたくしのご婚約者です。ご聡明さに溢れた美しくもかわいらしい外見をしておられる事は否定いたしませんが、それのみでこの方をお分かりになった様に仰るのはおやめ下さい」


 ナーハルテ様! 嬉しい! 惚れます!

 いや、とっくに惚れてました。何なら前世からですね!


『主殿、埃が舞いませんよう、防御壁を展開いたします。……出来ました』

 

「俺は女性には興味がないけど傷付けるつもりはないんだ。白金の方、君も俺との運命を感じたろう?」

 

 はい?どちらに目を付けておいでなのかな?


『主様、茶色殿、いいな? 店には迷惑かけねえよ』


「『許します』」

 緑簾さん、頑張って!


 上手くナーハルテ様と私の分も加味しつつ、上手に手抜きをしてほしい。


「どうしたの? 照れているのか……な!」


 一瞬で床に叩きつけられ、しかも緑簾さんのごつい指が目潰しの射程ぎりぎり。


 何が起きたかなんて、銅階級の人には分かるはずもない。


「や、やめろ! 俺は中央冒険者ギルドの者だぞ!」

「だから何だ? ギルドマスターをお呼びして、己の愚かさを悔いるのか? 証拠はあるぞ」

 カバンシさん、静かにお怒り。

 既にペンダントから映像水晶の一部音声を流している。これはかなり恥ずかしい。


「あの、そいつは外に投げておいて、うちの料理を召し上がって頂けませんかね。第三王子殿下とそのご婚約者様、召喚獣さん達、邪竜斬りさんとその召喚竜さんに食べて頂くなんざ、誉れもいいところなんで」

 え、このムキムキの料理長さん?

 何でそこまで分かるの。

 あと、ハンダさんだけ、野郎?


「あ、お前かあ。坊っちゃん、つうか殿下、こいつは大丈夫です。カンザンって言って、現役ん時には諜報活動だけで銀階級までいったくせに夢は料理屋を開くこと。ある意味すごい奴です。てかお前、まだ情報くれるから現役だと思ってた!」


「お前の所に開店通知を出したら花束贈ってくれたからありがてえなあ、と思ってたんだが。贈ってくれたのはやっぱり奥さんだったか! 諜報活動は趣味だから、情報はお前みたいな奴にだけ、選んで渡してるんだよ。あ、さっきのあいつは今、お前の竜と王子殿下の伝令鳥さんがギルドマスターの所に飛ばしたぞ。多分あれ、映像水晶の複写付きだわ。エグいことするなあ、あの可愛い鳥さん」


 店長さんは元ムキムキ諜報員(少し現役)。しかもハンダさんのお馴染みの方でした。


 気の置けない感じ。


『ただ今戻りました、主殿。どうでしょう、一つ、ここで第三王子殿下の雅量をお示しになってみては』

 優雅な仕草の寿右衛門さん、雅量って何?


 カバンシさん、うんうんて。


 あ、二人共、お疲れ様でした。


 ギルドマスタースコレスさん、ご迷惑とは思いますが、あの多分銅階級の人の事、よろしくお願いします。

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