71-指輪の由来と誓いの私達
「この指輪は、恐らく、この国の禁地に関係した物だと思う」
カバンシさんの話は、やっぱり、と思えるものだった。
禁地とは、かつて、コヨミさん、学院長先生、精霊王様直属の高位精霊さん達によって成敗された元王族他、コヨミ王国(正確に述べるならば王国になる以前)最大の咎人達の墓地の事だ。
カバンシさんも、若い竜族は飛行が禁じられているそこを飛行中に誤って通ってしまい、その地の邪気にやられて自分の意思に反して邪竜になってしまったのだという。飛行を誤った理由は分からないそうだ。
飛行ミス。カバンシさんが? と信じられない思いがした。
そして、邪気にやられて、というのが。
考えながら飲む、煎れて頂いたお茶がおいしい。
緑茶。よろしければコーヒーもありますよ、と言ってもらえたけれど、私の今の気分は緑茶だった。何だか思考が研ぎ澄まされる感じがする。
「一応、俺は邪竜斬りとされているが、勲章を頂けたのはカバンシを邪竜呼ばわりして私腹を肥やしていた胸くそ悪い連中を処罰できる証拠を法務局に提出した事が一番の理由だ」
それでも、竜を斬る事ができる程の冒険者が同時代にいたら人々の安心感が違う。
だからこそ、納得できない部分もあったがハンダさんは邪竜斬りの称号と平民としては最高位の勲章を受けたのだ。
そもそも、一介の冒険者の陳情を正しく受け入れ、適切に対応してくれた国からの頼みだった為、無理強いされてではなかったのだという。
「一応ではない。ハンダが本気なら私は斬られていたし、お前は私の邪な部分を無くしてくれたのだ。お前程邪竜斬りの称号にふさわしい人間はいない。勲章の話が出されたあの時もそう言ったろう。逆鱗の姿だったが」
「だああ! 俺そっくりな顔して恥ずかしい事言うな! とにかく、その後は聖教会本部と王立学院が浄化を頻繁に行ってくれているから、カバンシの様な事はなかった筈だよな」
「ええ、騎士団魔法隊も折に触れて調査に行っております。少なくともこの十数年間、異様な気配の報告等はありません」
そうなると、どうしてこんな物が。
あと、逆鱗は竜の一番大切な鱗だよね。あの盾の中で特に目立って、そして守られる様に飾られていた鱗の事かな。
そこに、仮説に過ぎませんが、よろしいでしょうかとナーハルテ様。
「この指輪がカバンシ様が邪竜になられる前から存在していた、とは考えられませんか?」
あ、そうか。それなら。
「……そうですね。私も記録書を確認しないとはっきりとは申し上げられませんが、その可能性を考えますと、禁所に接近した存在を国内のものだけに限定しない方が良いかも知れません」
そして、考え深げに千斎さんがリュックさんに何かお願いをした。すると、リュックさんも了解して、自ら開いて一冊の本を出してくれた。
「ハンダ殿、カバンシ殿には不快かと存じますが、ご了承下さい。例えば、この国等は聖女候補が毎年一定数生じる我が国をよしとしないと周知の所にございます。そしてこちらはそれらの国と関係の悪い国々です」
本の名前は『世界国名大辞典』。分厚い。その本から必要な国名をさっと導き出す千斎さんはさすがに図書室の主さんだ。
「やっぱり、あそこが絡むか。しょうがねえ、ジジイは情報通だから知ってるだろ? 俺の娘が聖女候補だって事」
ハンダさん、もう言葉遣いは直さない。寿右衛門さんも突っ込まない。
「それ以上になりつつある事も知っておるよ。そもそもハンダ、先ほど白の指輪のせいで自ら話しておったぞ。気を付けよ」
「あ、そうか! あの指輪! やっぱりぶち壊してやれば良かった! って駄目か。
『まあ、気持ちは分かるから、ハンちゃん、抑えろ』
緑簾さん、ハンダさんを落ち着かせている。偉いよ。召喚主として嬉しい。
「ああ。悪かったな。まあ要するに、聖女信仰の厚い国と、その国と敵対する国、だな」
「推察ではありますが、ハンダ殿のご懸念とも重なる部分があるかと。特に、聖国。聖女様が顕現された唯一の国……とされていますが、怪しいとする書物もございます。実際、現在の聖教会本部は我が国にございますからな」
「確かにな。この国は聖女候補も格段に多いし、聖教会も民の為に、ってところだ」
やっぱりコヨミ王国はすげえなあ、と今度はハンダさんが話し始めた。
聖国、と千斎さんが言われた時にハンダさんの魔力がちょっとだけ、ゆらゆらした? いや、私の気のせいかな。
それよりも、ハンダさんのお話だ。
最近のセレンさんのご実家への襲撃も、もしかしたらそれらの国の画策かとも考えていたけれど杞憂で良かった。しかし、安心はできない事。
あの事件で私達と縁ができたのは正直ありがたかったが、まさか聖魔法大導師様まで見えるとは良い方に予想外だった事。
「あと良い方に予想外だったと言えば、第三王子殿下が噂と真逆だった事だな。筆頭公爵令嬢様はさすがの方だったが。それに、第三王子殿下はまだまだ底が知れねえ」
「それは儂もですな。かつての噂の通りであれば、テルルが申しましたご無礼も余り外れてはおらぬかも知れませぬ。正直、感服いたしました。第三王子殿下、我が中央冒険者ギルドは貴方様に心からの敬意を持って、有事の折には全面的に協力申し上げます事を誓いますぞ」
スコレスさんが膝を付いて礼をされたので、慌てたけど急がずにその礼に手をかざして受け止める。
「中央冒険者ギルド、ギルドマスタースコレス。コヨミ王国第三王子ニッケル・フォン・ベリリウム・コヨミ、その礼をしかと受けた。ありがたく頂戴しよう」
「ありがたきお言葉」
スコレスさんが一層深くお辞儀。
私は大義であった、と声を掛けて終了。……いいよね?
一応、寿右衛門さん相手に練習していたから、できている筈。できてるよね?
『すげえなあ主様。どんどん味方を増やして。召喚獣として鼻が高いよ。俺も礼儀とか気を付けないとな』
「そうだな、俺も第三王子殿下になら剣を捧げてもいいなあ、って俺小刀しか持ってねえ! なあ、千斎殿、手刀でも良いのかなあ」
「貴方は本当に手刀で隕石を落としたのですか? まあ、それ程の手刀ならば良いのではないでしょうか」
「ほう、ならば私もハンダの盾ということで旗下に入れて頂こうか。」
『主殿、もうよろしいですよ、素晴らしい礼の受け方であられました』
「本当に。わたくしも、貴方様のお側に立てる存在になれます様に、精進いたします」
「素晴らしいお言葉でした、第三王子殿下。この千斎、感心いたしました」
良かった。正直、脚、つりそう。
皆さんと、あと特にナーハルテ様が嬉しい事を言って下さった気がするけど、お褒めの言葉だよね。うん、嬉しい!
「ほらほら第三王子殿下、俺の誓いも受けてくれ。
スコレスさんが切り株椅子に座ったら、今度はハンダさん。それからカバンシさん。
「そういう訳にもいかぬだろう。第三王子殿下、済まないがまたお願いする。竜族たる私、飛竜カバンシも、
カバンシさん、やっぱり雄々しくて格好いいなあ。膝を付かれると、返さないと、って気になるよ。
「ああもう! 叙勲の時以来だ! 元邪竜斬りハンダ-コバルト、そして薬師たる私、ハンダ-カーボン、第三王子殿下、
うわ、ハンダさん。やっぱりやればできる人だった!しょうがない。うなれ、王子パワー!
「竜族、飛竜カバンシ、元邪竜斬りのカーボンにして薬師ハンダ-コバルト。コヨミ王国第三王子、ニッケル・フォン・ベリリウム・コヨミ、主従そして家族からの誓いを受けた事をここに約する。ありがとう」
出来た? 出来たよね?
「素晴らしいです、第三王子殿下。私はコヨミ王国に剣を捧げました身ではございますが、知識は貴方様に捧げましょう。千斎・フォン・クリプトン、個人として誓います。ああ、私には許諾は結構です。私が誓いました事がこちらに映してありますので」
千斎さん、首元に輝くネックレス、っていつの間に映像水晶ペンダント! 他の方達とのやり取りも映してたよね絶対!
あれ? カバンシさんは元々のを着けているから、リュックさん? だよね。作りましたね? 揺れてるもの!
『主殿、何かの折に国内最高峰ギルド並びに現役最強の冒険者とその盾殿、王国騎士団随一の魔法使い殿に誓われているという事は強みになりますから』
寿右衛門さんの言葉が染みる。
ただ、王位継承権最下位の王子殿下にこの戦力。個人なのと、大っぴらにしない事で何とかなるのかな。
いや、嬉しいよ、皆さんのお気持ちは! とても!
だから、当然だけど私自身の成長が不可欠なんだよね。
「オレはまだ戻ってねえけどな! まあジジイが許してくれたら戻る! どうだジジイ?」
「むしろハンダが戻ってくれたら我が中央冒険者ギルドも盛り上がるから万々歳じゃ。いっその事、カバンシ殿も申請したら良いのでは? これから筆頭公爵令嬢様の銀階級昇級試験もある事だしの。そうじゃ、第三王子殿下も是非」
「なるほど、良いな」
「良い事言うなあジジイ!」
「素敵なご提案ですね」
『良きに存じます』
『主様、俺も出番あるかな?』
「第三王子殿下の場合、推挙で良い気もいたしますが。ご提案は素晴らしいかと」
「では、決定ですな。昼を食べて、休憩してから再開いたしましょう。二階で召し上がられても、外に出られましても、ご随意に」
えーと。当事者はここです!
私には聞かないのは何故なんですか皆さん! いや、成長が不可欠とは思いましたけどね? 急すぎ!
リュックさん、揺れてるのは励ましと皆さんへの賛意、どっちなの!
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