70-怪しい指輪と私達
「よし、起きたなテルル。この指輪をはめろ。それから俺と戦え」
「は、はあ? 受付窓口の俺がなんで邪竜斬りのあんたと?……あ、これ、あの指輪か!」
一応刻印を入れてあるから私が起きなさい、と命じたらテルルさんは目を覚ました。
軽い刻印だからこの程度。できれば重いのは使用したくはないなあ。
指輪は黒が一時的な魔力体力の増強系で白が相手の意識を操る系みたい。
「ジ、ギルドマスターは治癒魔法の名人だから大丈夫だ。簡単に腕相撲でいいから」
「そう言われて俺、昔あんたに腕の骨折られたんだけど……」
何だかその様子が分かるなあ。
たのもう! の少年時代ハンダさんに危ないから帰りなのつもりの青年テルルさん。
悪意じゃないのが分かるから腕相撲で! で、ぽっきり、だ。
どうしようかなあ。
黒白の指輪はテルルさんの意思で付けて欲しいんだけど……。
いや、駄目だ!
「ごめん、テルルさん、また寝て! カバンシさん、気付いてますよね? やりましょう! 映像水晶ペンダントを!」
「はい、第三王子殿下!」
「寿右衛門さん、物理防御を皆さんとこの部屋に! 千斎さんは魔法防御を!」
『「分かりました」』
寿右衛門さんに物理防御壁、千斎さんには魔法防御壁の展開をお願いした。
壁か、窓、天井まで、室内全て。完璧だ。
「スコレスさんはテルルさんをお願いします」
「分かりました。どうかお気を付けて」
『主様、俺は?』
「駄目です、緑様。第三王子殿下は貴方様が操られたらと離されたのです」
ありがとう、ナーハルテ様。その通り。
多分、ハンダさんとカバンシさんはこの指輪に耐性がある。
使うことはできるみたいだけど。耐性がある理由は後で聞こう。
私は……多分
「俺には何ともねえんだけど、やっぱり俺がはめるか」
「そうしてもらえますか。とりあえず黒い方からお願いします」
「よし」
ハンダさんが鍛錬の塊、みたいな指を大きく開いて、パーの形にする。
すると、黒指輪の方から待ってました、とでも言いたげに形状を変えて、ハンダさんの左手の親指に擬態した。
これは、知らないと疑いもしないレベルだ。鍛えられた指にしか見えない。
「カバンシさん、映像水晶ペンダントを着けたままでハンダさんと戦えますか? あと、亜空間展開は必要ですか」
「どうでしょう。とりあえず、ハンダ、何かしてみてくれ」
「おう!」
ヒュッ。
多分、軽く振りかぶっただけのハンダさんの指先から竜閃斬が出た。
天井のエルフさんの言語なのかな? の文字の細工が美しいステンドグラスが無事だったのは寿右衛門さんの物理防御魔法のおかげ。
この威力で魔法ではない所がハンダさんのもの凄さだ。
「うわ、凄えなこれ。本気出すならこんな場所じゃ亜空間展開をしても厳しいな。聖魔法大武道場みたいな所じゃねえと」
そう言って、ハンダさんが
「ほら、指輪よ、外れろ。指ごと切られたいか?」
と脅したらすぐに外れた。
この指輪、思考回路を組み込まれているのかも知れない。
「どうでしょうか、千斎さん。これはそのまま預かって頂いて、騎士団魔法隊と魔道具開発局とで検証されるのがいいのでは?」
「仰る通りです、第三王子殿下。カバンシ殿、王国騎士団魔法隊大将、千斎・フォン・クリプトン、その責をもって黒指輪をお預かりする事を誓います」
「よろしくお願いします」
あ、待って。リュックさんが開いた。
何か出してくれるのかな?
「これに入れてお持ち下さい」
多分、元は冷蔵冷凍バッチリのジッパーバッグ。
何か特殊な皮っぽい密封可能な皮袋になっていた。さとりお姉ちゃん、ありがとう!
「これは、素晴らしい保護魔法材ですね。本当に頂いても?」
「どうぞ。作成者、じゃない、作成リュックも是非にと」
基本的にリュックさんもリュックちゃんも、渡してはいけない物や駄目な人には出さないし渡さない。
禁書庫カードに名前を書いてもらっていたから、リュックさんはきっと、千斎さんにお礼がしたかったんだね。
「ありがとうございます、お預かりします。リュック殿」
揺れるリュックさん、嬉しそう。良かったね。
「さあて、次は相手の思考を、ってやつか。これは俺よりも第三王子殿下かカバンシに掛けたらいいんじゃねえか。俺は単純だからな」
自分でそう言えるのはさすがです、ハンダさん。
でも多分、私には……。
白い方の指輪を手にしようとしたら、指輪が跳躍した。ポーン、て感じで。そしてカバンシさんの手の中に。
「逃げた!」
ハンダさんは叫んでいるけれど、正直なるほど、という感じ。
やっぱり、私は指輪に嫌われている。ハンダさんは指輪に恐れられている。
「ふむ。それなら私が。ただ、王子殿下には多分効かぬな、この思考操作は。仕方ない。ハンダ、お前が掛かれ。もうお前は指輪に恐れられているからはめることはできまい」
「そうだな。何かやってみてくれ。ほれ、白いの、カバンシにはまれ! それで俺の思考を歪ませてみろ!」
白い指輪、あっという間にカバンシさんの右手中指に擬態。ハンダさん、本当に配下に置いたね。
「ふむ。それならば。ハンダ、お前、セレンお嬢の婚約者に心当たりはあるか?」
「はあ?セレンの婚約者? いやそりゃ考えなきゃいけねえけど、聖女になるかならねえかなら、侯爵以上の爵位持ちの令息とかか、とは思っちゃいるが……」
ふむふむ、そんな場合じゃないけどスズオミ君よかったね、可能性があるぞ。
「そうか。特に誰、という事はないのか?」
「ああ? お前はセレンは家族だから駄目だ! って言うし、緑ちゃんはかわいいけど妹みてえだよなあ、って! 第三王子殿下はいい方だが、傍目から見ても両思いでお似合いの婚約者様がいるし無理だろう? むしろ俺が聞きてえよ、誰かいるか? って! つうか、指輪、てめえ、やり過ぎだ! こんな事言わせるな! 第三王子王子殿下、筆頭公爵令嬢様、俺はお二人の仲、応援してますからね?」
うわあ、ええと。
両思い? お似合い? ありがとうございます!
ああ、ナーハルテ様のお顔が見られない。
「もうよいでしょう。それもこちらにお預かりしましょう。映像水晶は大丈夫ですね」
「はい、きちんと記録しました。ハンダ、ご苦労だったな。次は王子殿下、これを外してみて下さい」
え、はい。ありがとうございます、千斎さん。やってみますね、カバンシさん。
「ええと、白い指輪、カバンシさんから外れなさい。外れないと、私の魔力をぶつけますよ」
私の魔力、までで白い指輪は逃げ出して、助けてとでも言いたげに千斎さんの皮袋に入り込んだ。
すぐに封をして、簡易封印。鮮度も落ちない便利な袋だね。
「とりあえず、これで安心、とはいかねえが、まあ一応、ってところか。あとは、俺とカバンシにあの指輪の耐性がある理由、か。見当は付くよな、カバンシ。第三王子殿下が嫌われている理由は持ち帰り、だろう?」
カバンシさんが肯く。
私が嫌われている理由はここでは話せない。持ち帰り、という事にしてもらえた。
ありがとう、ハンダさん、カバンシさん。
「茶も出さずに申し訳ない。カバンシ殿の話を伺うのはそれからにいたしましょう。あと、テルルを救護室に置いて参ります」
亀の甲より年の功、ギルドマスタースコレスさん、良いタイミングです。
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