69-ギルドマスターさんと私達

「ギルドマスター、スコレスと申します。エルフの爺さん、1200歳でございます。たいへんに申し訳ない。テルルに受付窓口を頼んだのはわしです。狙いがありまして。無論、本当の初心者用受付窓口は二階にありますからご確認下さい、第三王子殿下、王国騎士団魔法隊大将閣下、筆頭公爵令嬢様。よろしければこの後にご案内を」


 赤みが鮮やかに映えた黄色い髪が素敵で、髪よりは抑えめの、けれどもとても生き生きと輝いた薄めの黄色い瞳。

 そして、長い耳が特徴的な若々しい美形のエルフさん、スコレスさん。1200歳!


 第三王子とか騎士団魔法隊大将とか、ギルドマスターさんには全てお見通しなんだね。


 ここの高度な防音魔法もギルドマスターさんが行ったものだ。

 ちなみに今はきちんとギルドマスター補佐さんが受付窓口に出ています。


「こちらこそ、刻印はギルドマスターさんからのお申し出があれば解除も検討します」


「ええ、ハンダ殿が大仰な振る舞いでこちらの一階に入りましたのは、この為だったのでしょう」

「ハンダ様と第三王子殿下、殿下の精霊獣殿にお任せいたします。また、今回は昇級試験申請をお受け頂き、ありがとうございます」


「寛大なご対応ありがとうございます。刻印は付けておいてやって下さい。筆頭公爵令嬢様は学院で冒険者ギルドの手続きを行われましたから、ご足労頂くのは初めてですね。この一階は、お察しの通り、銀階級相当者用の階にございます」


 それから、一、二階についての説明。

 魔力や体力が足りない人はあの開き扉の前に隠蔽された魔法陣が作動して強制的に二階受付窓口に転送、または二階にも行けない様な人は普通に弾かれるんだって。


 銀階級相当以上の人なら感知もしない程度の魔法陣。新聞記者さんとかは入口の防犯魔道具が対応してくれて安全な裏口へご案内。色々工夫されているんだね。


 さすがはコヨミ王国一の冒険者ギルド。ナーハルテ様が銀階級相当なのは当然だけど、私もいつの間に、という気がするけど平静を装う。

 ありがとう王子様スマイル。ニッケル君、そういう王族の訓練はきちんとしていたんだね。偉い。


 それで、このギルドマスター室内になぜ気絶しているテルルさんまでいるのかな。


「第三王子殿下、この者まで連れてきた事をご不審に思っておられるのでしょう。しかしながら、この者の耳が役に立つのです」


 耳。やっぱりこの人、耳が良いんだ。

「俺が金階級になって、最初にジジイに呼ばれた時に受付窓口にいたのがこいつ。第三王子殿下に言ったのと同じ様な事を言いやがるからてめえは階級持ちなのか、って聞いたら銅階級だっつーから俺は金だが、って言ったら笑いやがるから、つい腕を折っちまった。加減できなくてな」


「綺麗に折ってやっていたではないか。それに、ギリギリ何とか銀階級になれたのも、ハンダが推薦してやったからじゃ」

「まあな。あいつはもともと耳の良さを生かしてギルドの受付窓口をきちんとやりたいって言ってたから」


 ええと、あれ? じゃあ、あれ全部演技

 ? どうしよう、刻印消してあげないと。

「ああ、王子殿下、消す必要はねえよ。あれは坊ちゃんじゃあ危ないからお帰りになって下さいって言おうとしてのやつだから。相手の実力が分からねえのは駄目だ」


「あれ、でも、ナーハルテ様にはおかしな事を言わなかったですよね。銅階級持ちではあるけど、高貴で麗しくて聡明ななお嬢様にしか見えない方なのに」


『主殿、正しいですがお控え下さい』

 あ、寿右衛門さんの突っ込み。

 お帰りなさい。すみません。


「ああ、第三王子殿下、あいつは女性には紳士的に、という奴らしいです。ハンダにしてはかなり手加減していたのもその為だ」


「こいつ、先祖がコウモリの精霊獣らしくて。羽があるのに卵で子供を生まないから鳥の精霊獣達から疎まれて、出産を助けてくれたのが人間の産婆さん。それから人間の女性を大切に、というのが家訓らしい。だから耳がいいんだな。だからって、男に対応が悪いのはよくねえ」


 カバンシさん、ハンダさん、説明ありがとう。

 そうか、それで耳が良くて女性には割と丁寧なのか。


 確かにナーハルテ様に何か言われてたら、私も緑簾さんを躊躇せずに呼んで、おしおきしてもらってたかも。


『主様、俺的には十分仕置き対象だったぞ?』

 まあまあ。


「それで、本題だが。ジ……ギルドマスター、テルルの奴を一階受付担当にしたら、何が変わりました?」


 インディゴさんを厩舎に預けた寿右衛門さんが戻ってきたら、言葉遣いが丁寧になったね、ハンダさん。

 白様にお話がいくのが嫌なのかな?


「うむ。てきめんに変化した。特に、意味のない階級取得試験が極端に減った」


 スコレスさんが言うには、正にテルルさんが誤解したさっきの私達みたいに手下に狩らせた魔物をさも自分の手柄とでも言うように実績として試験申請をしてくる人間が多かったのだって。

 そして、その申請を受理してしまい、あげくの果てに合格までさせていたのだとか。

 さすがに普段からギルドマスターさんや補佐さんが受付窓口にいられないものね。


「あり得ねえ。中央冒険者ギルドだぞ? ギルドもどきとは訳が違うのに!」

 ハンダさんが拳を握る。 

 

 やっぱり、権威があるんだね。中央冒険者ギルド。

「中央冒険者ギルド公認の銀階級資格取得者というからゴブリン討伐を頼んだのに、逃げ帰ってきた、何とかしてもらえないか、そんな陳情が幾つか騎士団にもきておりまして。資格証の写しです。ご確認を」


「頂戴します。……拝見する限り、中央冒険者ギルドうちの証明の様です。儂とギルドマスター補佐がこういった事に対する予防魔法を展開していたのじゃが、申し訳ない。そこで、テルルの耳で探りました所、一時的に実力を格段に上にする魔道具を使用していた事が判明しまして。それから、思考を歪ませる魔道具も。一般の冒険者は勿論、貴族階級でも滅多に購入できるレベルではない品物でした。こちらにそれをご用意いたしました」 


 スコレスさんが淡緑色に染められたマジックバッグから取り出したのは、黒と白の二つの指輪。

 どちらもただのきれいな指輪にしか見えない。


 あれ、でも……。


『主殿、私が。ギルドマスター殿、よろしいですか』

「どうぞ、どうぞ」


『ありがとうございます』

 スコレスさんから許可をもらうと、寿右衛門さんがリュック殿、と声を掛ける。


 すると、リュックさんが自分から指輪二つを招き入れた。

 リュックさんが一瞬揺れて、寿右衛門さんの頭上に二つ、羽の上にも二つ。


 そして、寿右衛門さんが羽の上の二つの指輪をスコレスさんに返却する。


『お返しいたします。複製を作りましたのでこちらで実験を』

 寿右衛門さんが頭上の二つを木目が印象的な手彫りのテーブルの上に置く。


「ありがとうございます。それではハンダ、テルルを起こしてもらえるかの」

「分かった。ジ……ギルドマスター。その前に大将閣下は認識阻害魔法を解除して下さい。それと、カバンシはあれを」


「了解した」

「分かった。ハンダ、これだな」


 千斎さんが本来の姿に戻り、カバンシさんは胸元からペンダントを取り出して、皆の姿が映る様に位置をずらした。


 これは、聖魔法大導師様ご愛用の映像水晶ペンダント!


 ……やっぱり、中央冒険者ギルド訪問はナーハルテ様の銀階級昇級申請に伴う試験だけ、という訳にはいきませんでした。


 まあ、このメンバーならそうなりますよね。


『主様、普通に終わらないのは貴方もでしょう?』

 緑簾さんが言うと、寿右衛門さんもうんうん。


 緑簾さんと寿右衛門さんの意見が合うのは珍しい。 


 あ、リュックさんも浮いて揺れてる。その通り!って事ですね。


 はい、皆さんの仰る通りです。






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