68-中央冒険者ギルドの私達

「おう、良く来てくれたな第三王子殿下、茶色殿に大将閣下も! 馬も良い色だなあ!」

「急なお願いにありがとうございます、第三王子殿下」

「わたくしの家の依頼に付き合わせる形になりまして申し訳ございません。第三王子殿下、学問に励まれるお姿の噂を方々から伺い、婚約者として誇らしく存じます。そして、名高き千斎・フォン・クリプトン大将閣下にお目にかかれまして光栄でございます」

 

 いつもの革服姿のお二人(予備はたくさんあるんだって)と、良いお家のお嬢様風ワンピースの上に明るめのワイン色のカーディガンを羽織られたナーハルテ様。


 この世界の気候の安定に感謝。モコモコ衣装のナーハルテ様も見たいけどね。

 今日は細かいご挨拶とかは無しでいいみたい。


 ナーハルテ様の代名詞、白金はっきん色の髪と瞳は金色に。これはこれでお似合い。

 私は白金しろがねのまま。第三王子殿下の印象って今までが今までだから、ほとんど気付かれないみたい(ニッケル君、私は意外と君が頑張っていた事を知ってるよ!)。


 あ、そうそう、まとい部分の黒色が実は一房だけある事に最近気付きました。目立たない箇所だからそのままにしてます。まといなニッケル君にも白金色、残ってたりして。


 勿論、このやり取りも簡易結界の中です。


「また会えて嬉しいです、ナーハルテ、さ」

「私こそ、第三王子殿下のご婚約者、ナーハルテ・フォン・プラティウム筆頭公爵令嬢様にお目にかかれました事、幸甚の至りに存じます。もしよろしければ、将来の進路の候補に我々騎士団魔法隊もお考え頂ければと常々考えておりました次第です」


 様、を付けてしまいそうになりましたが、騎士団魔法隊のナーハルテ様!

 そんなの、追加ディスクにもなかった! でも興奮しないぞ。頑張れ私。


「ほらほら、中に入るぞ! とりあえず、お二人の事はお嬢様、お坊ちゃまと呼ばせてもらうから。話が通じる奴に当たればいいけど、馬鹿な奴は本当に馬鹿だから」


 国内の最高峰ギルドがそれでいいのか、とも思うけど、荒くれさん達の相手もしないといけないからそういう人材も必要なのかもね。


 寿右衛門さんは魔馬さん改めインディゴさんを連れて厩舎へ。リュックさんは私の背中に。リュックちゃんはナーハルテ様のカーディガンのお背中に。


「たのもう!」


 両開きの扉をドガシャーン、みたいな感じで開けて入って行くハンダさん。


『王子殿下は俺の傍に。狐ど……千斎殿は筆頭公爵令嬢様をお願いします』

『分かりました』

 念話が使えると便利だね。


 受付の傍にいた人達がじろりとこちらを見る。


 正直、嫌な視線も感じるけれど気配で怖さを感じる事はない。


「ニケ様、わたくしは大丈夫ですから、ご安心下さいね。貴方様はいかがですか?」

 ニケ様。いいなそれ。


「大丈夫だよ、ナー嬢。はっきり言ってマイコニドやけいの魔力の方が強かったから」


「ああ、そこのやたらと綺麗なお坊ちゃま、マイコニドっておっしゃったか? どうせどっかの小物を手下に狩らせたくらいで調子に乗って冒険者ギルドに来た口だろう? 冷やかしなら帰んな!」


 受付窓口のスタンドには、ギルドマスター補佐代理と書いてある。

 ギルドマスター補佐代理ってギルドの代表、ギルドマスターの補佐さんのそのまた代理だよね。上の方々が不在なのかな。


 立場は何であれ、ギルドの看板を背負った受付担当がそんな事を言ったら駄目でしょう。て言うか耳は良いんだね、口悪いのに。

 いくら何でも駄目な人材だあれは。

 千斎さん、笑顔だけど減点してるよ絶対。


『ええ、かなりの減点です。あの男は確か』

「はあ? テルルさあん、てめえ様が銀階級に史上最低レベルでギリッギリで合格なさったくせに良くおっしゃいますねえ! ちなみにこちらのお坊ちゃまはあの八の街の平野のレベル食いクラスのマイコニドをご自身と召喚獣とで直接倒されたお方なんですがねえ?」

 うわ、そういう人か。


 ハンダさん、カバンシさんにこれくらいいいだろ? って目線でサイン出してるし。

 カバンシさんも、うむ、て。良いの? 

 あと、レベル食いクラスのマイコニドて、そのものを倒しました、一応。

 でもそれを言うと、第三王子殿下だってばれるのかな。


 倒れた時にナーハルテ様のご指示でリュックさんが出してくれた新聞をたくさん読んだけど、第三王子殿下、八の街のレベル食いを圧倒! とか何かすごい事を書いていた娯楽系の新聞もあったからね。

 まあ、前世の家庭配達用のスポーツ新聞みたいな感じかな。

 勿論、娯楽が多いのは良い事です。


 それ以来、社会情勢に強い、とか経済に特化、とか様々な各新聞を図書室等で何紙も読む事にしているよ。

 足りなければ寿右衛門さんとリュックさんがお使いもしてくれます。


「お前、俺の名前を知って? ってまさか、カーボン、さん……?」


 カーボン! いや、邪竜斬りってあんなに若いの? そうだ俺見た事あるぜ! いやでも双子だったっけ? あれは分身じゃねえ? 何かあっちのは青いし賢そうだし!


 ザワザワザワ……と一瞬盛り上がり、その後、ハンダさんのひと睨みでめちゃくちゃ静かになってしまった。


「そうだ。紛れもなく元金階級最年少取得者のカーボンさんだよ。こんなガキがって、突っかかってきて俺に折られた腕、もう一度折ってやろうか、テルルさん? あと、教えてやった事も身に付いてねえなあ。人や精霊や獣達その他色々を見た目で判断するな、と何回教えてやったっけ?」


 瞬間移動みたいな速さで移動。

 そして、副団長さんよりは小さいけれど恐らくハンダさんよりは大きい中年男性を片腕で受付窓口から引き出した。軽々と。


 全然本気じゃないのが分かる。緑簾さんがいたら、笑うレベルだ。

 緑簾さん、今日は呼んだら来られるかな。精霊界で忙しいかな。


『へーい、という訳で参上!』

 まだ正しくは呼んでないです。けどまあいいか。


『おーいハンちゃん! 殺すなよ!』

「殺さねえよ! っと」

 

 ひょい、とハンダさんが緑簾さんに投げる。

 緑簾さん、指一本を立ててくるくる回し始めた。うわあすごい。お正月番組のコマ回しみたい。 


『それで、この主様の手下は俺様なんですが、こちらの主様が調子に乗ってる様に見えますかねえ?』

 あ、怒ってらっしゃる。

 精霊界で聞いてたんだね。


 うわすげえ、あの綺麗な兄ちゃん、鬼属を召喚するなんて、邪竜斬りの弟子なんじゃねえ? とギルド員さん達に囁かれてしまった。


 皆さんが静かにして下さるならもうなんでもいいです。


「で、どうなさるんだい。こちらのお方の実力をお知りにないたいんなら、こちらにおわす召喚獣の緑さんがお相手してくださるぞ? 遠慮なさらず銀階級ギリッギリの最低レベル合格者の実力をお見せ下さい!」

 くるくるくるくる指一本。

 あれ、相当怖いと思う。

 緑簾さん、もう飛んでるもの。あと少しで高い天井に届きそうな感じ。


「いえ、あの、申し訳ありませんでした。降ろして頂きたいのですが」


『降ろすのはいいけど、指が疲れたなあ。間違えて、降ろさずに落としそうなんだけど、主様のお願いなら、聞けるんだけどなあ』

 え、私?

 

 それなら、と一歩前に出ようとしたらナーハルテ様に止められた。

 小声でひそひそ。なるほど、了解しました。


「お願いしてもいいですが、詫びを要求いたします。私と、私の連れ全てに。それからもう二度と、ハンダさんの教えを破って人を見た目で判断しない様に。誓いを」


 詫びと誓いを刻んだ刻印を魔法で作り、ギルドマスター補佐代理さんに飛ばした。すると、


「お坊ちゃま、いいえ、こちらのお方のご主人様、皆様方、カーボ、ハンダさん、失礼をお詫びします! 心根を入れ替え、人を見た目で侮る様な事は二度といたしません!」


 半分涙声の誓いが聞こえ、刻印は補佐の右手に入った。


 ほくろよりも少し大きい位の点なので支障はないと思う。そして、刻印が認めたので、一応心からの叫びだ。


 あ、刻印に抵触する様な事がなければ、心身に影響はありません。誓いを守れていればその内消えますし。抵触しても、本人が今回の事を強制的に思い出させられるだけにしておきました。

 多分、恥ずかしくてのたうち回ると思うよ。


『主様、刻印だけで許してやるなんてお優しいな。しかも軽いし、さすがだぜ。ほらよ』


 緑簾さんがほい、と下に投げ下ろし、ハンダさんがキャッチ。 

 ギルドマスター補佐代理さんは気絶していた。


「おいおい。こんな奴に良く受付なんかさせたなあ、ジジイよ。そもそもギルドマスター補佐代理って何だよ。早口言葉かよ!」


「すまぬ。お陰で色々判明した事があってのう。ハンダ以外の皆様も、良くいらして下さった。歓迎いたしますぞ。中央冒険者ギルド、ギルドマスターの爺さんです」


 テルルさんの座っていた受付の後ろ、重厚な扉から出ていらしたのは、長い耳のお美しい方! 


 エルフさん! 


 あと、外見ものすごくお若いです!





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