66-カバンシさんと図書室の主さんと私

「第三王子殿下、すまないが、本日の午後、お時間を頂く事は可能だろうか」


 あれ、人型カバンシさん?

 人型の時は人見知りなのに、午前中から頑張ってますね。突然の転移魔法も、もう驚きませんよ。ただ、ここ……。


『邪竜殿、美しい転移魔法なので許しますが、ここではお静かに願います』

 あ、やっぱりいらした。

 騎士団魔法隊のお仕事は大丈夫なんですか、千斎さん。


 ちなみにここは騎士団官舎の図書室です。千斎さんは騎士団魔法隊所属の大将閣下です。

『うわ、いらしたのですか狐殿の末裔殿』

 へえ、千斎さんのご先祖様、狐の精霊獣さんなんだ。


 あれ、千斎さんの表情が、……どこかで見たお顔立ち。

 あ、思い出した!


「待ち合わせの初代大司教様の銅像!」

 ご自分の肖像を敬われるよりも祈り自体を尊いものとされる聖霊王様を信仰の支えとする聖教会の方々は、ご自身は遠慮されていた初代大司教様の銅像も実に控えめな物を本部にのみ建造されている。


 綺麗に磨かれ、とても大切にされているのが良く分かる素晴らしい銅像だった。

 その柔らかなお顔立ちに千斎さんはそっくりなのだ。


 実は、精霊王様も似たお考えをお持ちなので、王様同士はとても仲が良いそうだ。


 だからこそ、コヨミさんたちが潰した連中が聖霊王様と聖霊さん達を自分達のシンボルの様に使っていたのが許せなくて恥ずかしくて、で聖霊界からあまりお出にならなかった聖霊王様がますます聖霊界の中に、となられたんだよね。


 元々あまり外に出るお方ではなかったらしいけど。

 確か……少しずつ、精霊王様との顔合わせは増えておられるんだよね。


 私にも、何かできる事があればなあ。


『第三王子殿下は観察力が鋭くていらっしゃいますね。実は聖教会初代大司教は私の父なのです』

 ここだけの話をさせて頂きますよ、と千斎さんが結界を張った。


 初代大司教様は狐の精霊獣のご先祖様の血が大きく出ておられた方(千斎さんもだけどそれ以上)で、実は今の大司教様も千斎さんのお父上ご自身なのだと言う。


 コヨミさんとも親交がある方で、当時は司祭様。コヨミさん達が倒した連中が聖霊王様を敬う事にも心を痛めておられた方で、コヨミさんが国を立て直した時は聖教会を守る役目をコヨミさん達からお願いされた方なんだって。

 あ、この間の浅緋さんのお話!


 ちなみに、皆さんご存じの聖魔法大導師様も初代さんです。


 ご本人曰く、どちらかお一方だけでもと請われて、何かの勝負で敗北された大司教様の慎ましやかな銅像が建てられたそうです。


 何の勝負なのかは、怖くてまだ聞けていません。


『狐殿、私も千斎殿と呼べばよいのか?』

『そうですね、それなら私もカバンシ殿と』

 ああ良かった。仲は悪くないんだね。


 騎士団団長さんと副団長さんみたいな感じなのかな。


「それでは王子殿下、用件だが、ハンダあいつが筆頭公爵家からナーハルテ筆頭公爵令嬢の冒険者ギルドへの送迎と護衛を依頼されたのだが、どうも心許ないのでついてきては頂けないか? 勿論、あいつの腕は確かすぎる位だが、筆頭公爵令嬢様の眼前で行うべきではない事をしそうなので」

「え、ナーハルテ様の。それならむしろお願いします。付いて行きます!」


「冒険者ギルドですか。騎士団魔法隊大将としては抜き打ち視察に行きたい場所ですね」

「「え」」

 確かに私、お仕事は大丈夫なんですか、とは思いましたが。


 そういう意味ではなかったんですよ、千斎さん。


 あ、現在、寿右衛門さんはリュックさんとお出かけ中。


 色々な物を調達に行ってくれています。帰ってきたらびっくりするかなあ。それとも、もう慣れっこかなあ。

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