62-地竜と平野の色々と私達

 光の幕が平野に掛かり、反射した太陽の光と合わさって鮮やかな色彩となり全体を照らしている。

 地竜から排出された多数の魔石が浄化されて、練り歩く様に空中を舞っている。


 その様子は、地上でありながら雲の切れ目の中に陽の輝きを見付けたかの様だった。


 ただ、その輝きが。

 地竜を更に超えて、平野の彼方にまで続いているんだよね。


「うわーすごい、さすがは聖魔法大導師様!」


 しーん。

 あ、あれ?


『……主殿、お気持ちは分かりますが、さすがに現実を受け入れて頂きたく』


「そうですわ、第三王子殿下。素晴らしい浄化です」

 ナーハルテ様に褒めて頂けた! 嬉しい。

 嬉しいのだけれど。


「取り急ぎ、学院長殿には私が伝令鳥を飛ばします。倍以上の速度で向かわせましょう。ただ、この映像水晶の画像も添えませんと」

 聖魔法大導師様はそう仰ると、ペンダント型の映像水晶を懐から出された。


 大物さんが多いこういう場面こそ、きちんとした記録が必須なんだって。さすが。


「まあ、とりあえず、カバンシ、話を付けてくれ」


「了解した」

 それからカバンシさんが、小さくなった(とは言っても半分の5メートル位)地竜に話し掛けている。多分、念話だ。


 地竜もきちんとカバンシさんの話を聞いていて、たまに頷いている。


 あ、平野の動物とか生き物も戻って来た。


 大きな蜘蛛とかフクロウとか蛇とか鳥とか、さっき魔石を出して去って行った時より数が増えている気がする。


「よし、それでいい。話が付いたから、聖魔法大導師様、王子殿下、茶色の方、証人になって頂けますか。ほら、ハンダも来い」


「うむ」「あ、はい」『分かりました』

「俺にだけ雑じゃねえか? まあ行くけどよ」


 地竜は土の色と同化した、使い込んだ革製品、飴色(カレーとかを作る時のタマネギの色)みたいな味のある色合いの竜だった。


『皆様にはご迷惑をお掛けいたしました』

 あれ、話せるの?


「聖魔法大導師様の浄化のお力によるものだ。他の生き物はさすがに会話はできないものの、王子殿下に感謝している。自ら魔力を好み、害を為していた生き物達は全て消滅した。マイコニドがいなくなったから、こうなるのも時間の問題だったかも知れないが、それではこの地竜は安らげなかったろう。竜族として厚く御礼申し上げる」


 地竜とカバンシさんが、一緒に深く深くお辞儀。


 いえ、浅緋さん、聖魔法大導師様はともかく、私はたまたまですから。


 頭を上げて下さい……って、言っちゃだめなやつだよねこれ。


『主殿、良くご判断なさいました』

 だよね、寿右衛門さん。


『この平野の生き物は全て、自らは人の害になる事は二度といたしません。代表として僕が誓いを立てます故、できましたら名を頂戴したいのですが』


 地竜さん、一人称僕なんだね。

 ええと、誰に誓うのかな。


「どうなさいますか第三王子殿下。俺としては貴方に名前を付けて頂くのがよろしいかと」

「ハンダがまともな事を言っている……。できましたら私からもお願いいたします」


『主殿、この地竜に名を与えても、召喚した事にはなりませぬ。むしろ、この平野を守るという使命を人の害にならずに行える様になります。ただし、人の側から害を為された際には異なりますが』


「そりゃそうだ。そん時は俺かカバンシを呼びな。騎士団分室と辺境警備隊とこの辺担当の冒険者ギルドとか、必要なところには話を付けておくからな」


「ああ、聖魔法大導師自らが映像水晶をこの地に置きましょう。それでも何かをするような人間やその他の生き物達は、即刻退治すればよろしいかと」


 うわ、頼りがいあるなあ、皆さんの言葉。


 ええと、名前。うーんと。召喚にはならなくても緊張する。


 地竜、地……。そうだ。


「あの、けい、ってどうかな。シリコン、でもいいんだけど」

 ちなみに硅素、ケイ素は土壌の構成元素の中で一番多いものです。シリコンでも良いのですよ。


「「ほお……」」

 え、ハンダさんカバンシさん、どうしたの?


「いや、シリコン、って、俺がもらうの逃げた貴族の家名。懐かしいな。男爵? あれ、何爵だったかな」

「……位はともかく、その件で辺境伯殿にお会いした事も忘れたのか?」

「さすがにそりゃ覚えてる! 感謝もしてる! 位を忘れただけじゃねえかよ!」


『主殿、素晴らしい感性ですな』

 うーん、すごい偶然。


 それにしても、頂く筈だった爵位、覚えてないんだ。よっぽど逃げ出したかったんだね。


 それにしても、辺境伯殿にご縁がある程凄い人なんだ、ハンダさんって。


 あ、それじゃあ、こちらが良いね。

 もしかしたらハンダさんの爵位名だったものだと齟齬そごが生じるかも知れないから。


「硅、よろしくね。これからこの平野と、八の街を守るんだよ。」


『仰せのままに』

 硅が頭を下げる。生き物達も。


 あとは土地の所有者さんにこの子達は安全だって伝えないとね。


「大丈夫です。第三王子殿下、聖魔法大導師である私がこの地と生き物の事を保障いたします」

「俺も、土地の所有者に掛け合って、良い値段で買い取る様にしてみるよ。元々八の街の為に使ってもいい、って言っていた方だから何とかなるだろう。やっと邪竜斬りの報奨金、使えそうだな」


 パチパチパチパチパチパチ……。


 あれ、拍手?


 振り向くと、ナーハルテ様、朱々さん、緑簾さん、ヒヨコちゃん達、セレンさん、聖女候補さん達が皆で拍手をしてくれていた。


 とりあえず、やるべき事を少しだけでもできたのかな。


主殿あるじどの!』『おい、主様あるじさま!』


「マ……ニッケルマトイ様!」


 私だけに伝わる音声認識の多重掛けだね。ありがとう、ナーハルテ様。


 でも、安心して下さい。貴女が呼ぶ自分わたしの名前は、何であっても素敵に聞こえるんです。


 ……あ、嬉しい。ナーハルテ様のお顔が近い。不安そうなお顔。


 近いのに、私からは見えなくなっていく。


 あれ?






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