63-ゲーム後の反省と展望の私達
「……良かった、目を覚まされましたね」
あれ、ナーハルテ様のお顔、不安そうだったのに、安心されたお顔になってる。
「目を? 私、目?」
ああ、そうか、私、気絶していたのか。
それにしては何だか柔らかくて頭が幸せな感じ。
柔らかくて、暖かい。
もしかして白様? じゃないな。猫属の獣の姿で隣に立って下さっている。
あと、天井が高い。ここ、何処?
あ、でも、待って。何だか既視感がある。
幾何学模様が綺麗に彫り込まれた石膏細工が印象的な天井。そうだ、
「聖魔法大導師様のもう一つのお部屋です。ここには
『マトイが気を失った時のナーハルテの落胆がひどくての。まあ、我と
「お二人共、ご心配お掛けしました」
そう言いながら気が付いた。
頭。ナーハルテ様のお膝に乗ってる。
良かった、あの時スズオミ君の膝枕、私が代わった事に間違いはなかった!
あと、これ、あの沈み込むふかふかソファーみたいだ。
『我がソファーベッド、という品に変化させた。其方のリュックは良き魔道具に育ったものよ。我にこの様に、と教えてくれたわ。さすがは我の弟子候補』
え、リュックさん白様の弟子候補扱い?
じゃあその内寿右衛門さんの弟弟子、リュックちゃんが妹弟子になるのか。そう、これソファーベッドだ。すっごい上質な。
広いマットの上、高級ホテルの様に大きな枕にもたれたナーハルテ様が正座をされ、私の頭を乗せてくれている。
足、痺れてないですか、と伺ったら白様が魔法を掛けて下さっているんだって。良かった。
『意識せずに魔力を使いすぎた事で起きた魔力欠乏じゃ。まだ魔法を使う事に慣れていないから当然。良い形で倒れたから外傷も無い。今日中には動ける。むしろ、これだけ魔力が流れたら次からはこの様にはならぬだろう。しかしながら、ナーハルテ。其方には言わねばならぬ。まあ、マトイの頭はそのままで良い』
え、ナーハルテ様に、なの?
叱られるなら私じゃないの?
「はい、取り乱しました事、深くお詫び申し上げます」
ナーハルテ様が頭を下げようとしたら。
『そうではない。其方がマトイを大切に思うのは良い。当然とも言えよう。だが、己がこれから全ての事からマトイを守ろうと思うていよう。もしもの時はその身を挺してでも。それを我は諫めるぞ。召喚大会の時の様な事はあってはならぬ。それは其方が一番理解しているであろう? そもそも、マトイは異世界できちんと生活をして、家族と親しみ、日々の仕事をこなしておった。其方以上に年を重ねた大人。そこをはき違えてはならぬ』
え、それ、今と同じで周りに良い人が多かったからですよ!
白様、チュン右衛門さんに憑依して見ておられたでしょう?
『マトイ、其方は其方で、己を過小評価するでない。姉君はご存知だったぞ。其方が助けられていると思うていたのと同じ。周りも其方に助けられていたのじゃ。我もそうじゃ。其方を選んだ。其方であるから、この世界に連れて来たのだ。例えコヨミの血統とは
ありがとう、白様。嬉しいよ。
『あの黄緑色のものは確かに心技体の心に課題が残るが、直感力が良い。マトイ、其方はコヨミの末裔であるから皆が其方を評価していると思い込んでおる。その認識を改めよ。そして、ナーハルテ』
「はい。」
頭、まだ置かせて頂いてます。
幸せだけど、少し申し訳ない。
『其方はあの召喚大会の幻を見た時、マトイを知った。コヨミの面影を見た。』
「はい」
『あの黒曜石に惹かれたのはコヨミの面影故のみか?』
「……いいえ、決してそれだけではございません。わたくしの為に泣いて下さった事、周りを頼れと仰った事。いずれも、わたくしの心に響きましてございます」
そうなの? うわ、嬉しい。
『そうであろう。今の其方はどうじゃ。また全てを一人で背負うものになろうとしている。其方は一人ではない。思い出すのじゃ、まだ暦まといであった頃のマトイに言われた事を。そして、其方はまだまだ学院という学び舎の中で生きておる若きものに過ぎぬ事も忘れるでない』
ええと。そう、そうだよ。
ナーハルテ様はまだ王立学院生。
私が働いていた大学の学生の子達のほとんどよりも年下の存在。
うん。私、ナーハルテ様の大ファンだけど、大好きな人をお守りしたくて転生した社会人なんだ。
前世では、お姉ちゃんや先生、チュン右衛門さん達からもらってばかりだと思っていたけれど、私も何かを返せていたのかも知れない。
こちらでの生活はまだ始まったばかりだから、間違える事もあるかも知れないけれど、それでも何かを私ができる事は必ずある訳で。
「白様、私、自信を持てる様にします。勿論コヨミさんがこの世界で特別な人、すごい人で、皆さんから尊敬されているのは確固たる事実だけれど、私は私、と思える様に」
とりあえずは、私の目の前の事に集中できる様になろう。
『良くそこにたどり着いたの。さすがはナーハルテよりも年長のものであるな』
「マトイ様、白様、マトイ様はわたくしよりも年長であられたのですか?」
え。今更?
『マトイはあちらでは20と6。ナーハルテよりも8は上ぞ』
ナーハルテ様、え、というお顔。かわいらしい。
「そうなのですか……わたくし、働いておられる同い年か多少下の御方と思っておりました。」
へ。……いや確かに、前世でも学生に高校生っぽいって言われてましたけど!ナーハルテ様、こんな年上はお嫌いですか?
「いえ、竜族の方やエルフ族の方と結ばれましたら100歳200歳の差は普通ですから、気にはなりません。ただ、その……年下でも、よろしいのですか?」
あ、これ。
「当たり前です! 年上でも年下でも、ナーハルテ様なら! って言うか、私の魂、ニッケル君じゃないですよ? 中身26歳の異世界の同性ですが、婚約者でいていいんですか、私!」
『「え」』
え。て、お二人共。そこ大事ですよ!
とりあえず選抜クラスの編入試験に合格できたら確認したかったけれど、いい機会だから今お聞きします!
この国は同性婚普通にありますけれど、中身が異性なのは希でしょう?
あと、確認したくないけど、もしかしてニッケル君の事を好いておられたとかだと……ねえ。
『いや、まあ、な。ナーハルテ、分かったであろう。これがマトイぞ。其方も周りを頼り、マトイを頼る。分かったかの?』
「はい、白様、分かりました。そして、ご指導誠にありがとうございました。ナーハルテ・フォン・プラティウム、この心に刻みましてございます」
『良かったのう、マトイ。少なくともナーハルテからの婚約解消、破棄はないぞ。
え、どうして今の会話でそうなったの?
白様、すごい! でも、ありがとうございます!
ニッケル君の事もこの件については今後一切、気にしません。
「末永くよろしくお願い申し上げます、ナーハルテ様」
「ナーハルテ、です。マトイさ、さん」
あ、はい。
「末永くよろしくお願い申し上げます、ナーハルテ」
「謹んでお受け致します、マトイさん」
『こやつら、もう結ばれても良いのではないか? 我が祝福を授けそうになったわ』
白様、何か仰ったけど、今はお控え下さい。私には無理ですよ、まだ。
だけど、白様のご忠告、有難く思ってますよ! これは本心です!
『ああ、マトイが倒れた事自体は心配いらぬ。隠していた力を少しずつ解放している為と言うたら聖女候補達も納得しておった。紫色の聖女候補は苦笑しておったがの。ほんに、白金のものの噂のお陰で色々助かっておるのう』
「まあ、毛々様」
良かった、ナーハルテ様、笑みが柔らかい。
ごめんねニッケル君、でも君のまぬけのお陰だよ。もし夢で会えたらちゃんと謝ろう。
『では、我は魔馬車を引きに戻る。其方達二人は交代で現れる浅緋に任せるので、自由にして良い。私が弟子、茶色のものも共に現れよう』
「ありがとうございます。そうですわ、リュックちゃま、毛々様にあのセレン様宛の手紙を」
『ああ、成る程。よしよし、良い時に渡してあげようぞ』
あのライオネア様のお手紙ですね。セレンさんの喜ぶ顔が目に浮かぶ。
「ナーハルテ様も白様と一緒にお戻り下さい。皆さんが安心されます」
そう。今は安心して婚約者でいられるだけでいいから、未婚の婚約者同士が二人きりは良くないでしょう。
「でも、マトイさん。それでは……」
『いや、確かに。マトイが正しい。其方が戻れば皆安心する。なあに、我が魔馬車を引くのだから、夜までには会える』
「……分かりました。リュックちゃま、マトイ
私の頭がふかふか枕の上に移動。
様に戻ってしまったのは残念だけど、仕方ないよね。
いってらっしゃい、お二人とリュックちゃん。
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