58-ゲーム当日の私達

「じゅったん様、私の聖魔法も受けて下さい。」

「あら、では私も」

「でしたら私も、重ね掛けをさせて下さい」


 あらら、モテモテだね寿右衛門さん。

 七の街と八の街の聖女候補の皆さんに囲まれている。


 1週間が経ちまして、ナーハルテ様の講義も無事終了しました。

 分かりやすくて素敵なお声。ずっと聞いていたい内容でしたよ。

 聴講したのかって? もちろんです! ノートもしっかり取りました!


 そして、今日はついに、の狩猟ゲームの日です。


 あ、はい。

 いくら聖女候補さん達だから、セレンさんのお父さんハンダさんと緑簾りょくれんさんが仲良し筋肉友達になったから、とは言え、たくさんの女の子達を連れてきたら危なくない? って思われますよね。


 ご安心を。あの方もおられます。


 白様? はい、おられますがその方だけではなくて。


「ほらほら皆の者、第三王子殿下の伝令鳥殿が困っておられますよ」

「「あ、すみません、じゅったん様、聖魔法大導師様」」


『大丈夫ですよ。ただし、皆さんは大導師様のお側を離れてはいけませんよ』

「「はい!」」


 そうです、地上一(仮)の聖魔法使い、実は元コヨミさんの鬼の召喚獣、聖魔法大導師様こと浅緋うすひさん。

 来ちゃいました。


 八の街の司祭さんは聖魔法大導師様がこの地方に! と、感動の余り熱を出されてしまった(体調自体は健康体)そうで、代わりにセレンさんが八の街の聖女候補さん達を連れてきてくれました。

 七の街の皆さんは私達と一緒に転移。


 そうそう、セレンさんの魔力で簡易転移陣を使ったんだけど、それは聖魔法大導師様のお力という事になっている。


 セレンさん自身もさすがにもう自分の聖魔力量が普通と違う事は理解してくれていて、詳しい話は聖教会本部に戻ってから浅緋さんと大司教様から伝えるって。


「ナーハルテ様と王子様の応援団です!」


 転移早々、キッパリはっきりなセレンさんのこの言葉で、ハンダさんの心は多分、ゲーム前だけれど折れまくっている。


 七の街の司祭さんは、

「王子殿下が聖魔法大導師様にご来訪を説得して下さいましたそうで! いや、本当に噂とは当てにならぬものです!」

 と数日前に到着した聖魔法大導師様を前にして笑顔、笑顔。


 今朝も、ニコニコしながら七の街の聖女候補さん達が転移していくのを見送っていた。


 しかも、聖魔法大導師様浅緋さんは有難い講話までして下さったのだ。


 聖教会が信仰する聖霊王様と精霊王様の友情、人とも共に在れという崇高なお話。


 ナーハルテ様はハンカチで目元を拭われ、セレンさんを初めとする聖女候補さん達は感動の号泣。

 私もじんとしました。


 コヨミさんが救った頃の王国の王族や貴族は精霊王様をないがしろにして聖霊王様、聖霊さん、聖霊獣さんのみをよしとしていたらしい。

 そして、聖女様が顕現された国、聖国? をかなり敬っていたみたい。

 その国は獣人差別が甚だしい国で、獣や獣人から精霊、精霊獣へと上られることも多い精霊さん、精霊獣さん達としては許せない国だ。精霊王様は言うまでもなく。

 そこから精霊を敬う心も失っていったんだって。

 乱れた国とよろしくない『気』。それを正したのが、異世界からいらしたコヨミさん。

 それを助けてくれたのが、学院長先生と高位精霊殿、そして初代大司教様達をはじめとした良心的な当時の人々。


 聖霊王様と精霊王様は仲良しなのに、コヨミさんや学院長先生、高位精霊殿が新しい国の基を築かれたあと申し訳ないとばかりに聖霊王様は聖霊界に籠もられたまま、精霊王様でも百年に数回みたいな回数でしかお会いになれなかったみたい。

 元々何らかの事情で籠もられがちだったみたいなのだけれど、更に、だって。


 それでも、近年はお二人のお話し合いの回数が増えてはいるらしい。それは良かった。


 また、聖教会が聖霊王様を信仰する事は嬉しく思って下さっていて、コヨミさんが来る以前、横暴な者達から聖教会に避難していた平民の人達を聖霊王様のご指示で聖霊さん達が守って下さったという言い伝えもある程。


 自分達は聖霊王様に選ばれた存在だとしていた高位連中としては知られたくない話だよね。


 コヨミさん達のお陰で安定してきた頃、国として聖教会をどうしていこうかという話になった時にも、実は……と声を上げてくれた聖霊王様や聖霊さん、聖霊獣さんに助けられた人達が多かったから、今もこうして聖教会はコヨミ王国の皆さんの支えになっているんだって。すごくいいお話。


 聖霊王様も聖霊さん、聖霊獣さん達も、人間を避けているというよりは、精霊王様や精霊さん、精霊獣さん達を通じて人間のお話を聞いたり、遠くから見守るのが好ましいという性質をお持ちなのだって。

 そういう守り方もあるよね。素敵だ。


「精霊王様のお言葉によれば、聖霊王様も聖霊達、そして聖霊獣達も、我々の祈りを聞いて下さっているそうです。これからも、聖霊王様、そして精霊王様を敬う気持ちを忘れずにおりましょう」


 聖魔法大導師様の講話の最後のお言葉。

 いいお話だったなあ。


 とてもじゃないけど、亜空間の中で雷撃飛ばしながら、


つがいとは人に対してはあまり相応しくはない言葉と教えたろうが!』


『召喚して頂いたその日に邪竜斬りと酒場の酒樽を空にして心配した巾着財布に転送されるとは何事じゃ!』

 と緑簾さんを叱り飛ばしていた方には思えません。


 浅緋さん、天候を自由に操る鬼さんでした。雷様かな? 

 多分操れるのはそれだけじゃないけれど。


 七の街の司祭さんはめちゃくちゃ感動してた(あと千斎さんもそうだったけど、第三王子の噂、本当にどこまで広まってるの?)けど、聖魔法大導師様がいらしたのって、緑簾さんの身柄の返還と私達の前での公開説教をする為だったんだよね。


 まあ、でも皆さん感動してるし喜んでるし、いいのかも。

 いいんだよね、うん。


 そんな訳でゲーム当日まで番! のお話は聞けずじまいのままだけどレベル食いと呼ばれるマイコニドの話はしてもらわないとね。


「ああ、あいつは嫌な奴でな。ぐるぐる回ったり、色々な所を走ってたろう? それが魔力の充填じゅうてんで、その後に人間の体力とか魔力とかを奪う胞子を撒き散らかすんだ。しかも、一時的じゃなくて本当に奪い取る。だからレベル食い。王子様達がやっつけてくれて、本当に助かったぜ。素材もきれいだった。本当にありがとうな。そう、あともう一匹、そいつを片付けたら後の奴らはおとなしくなる筈だ。狩猟の狙いはレベル食いとそいつだったんだよ」

 さすがは元邪竜斬りのカーボンさん。

 愛娘セレンさんの応援がなくてへこんでいても、魔物の事はすぐに教えてくれた。


「もし、狩猟で暴れ足りなかったら俺対緑ちゃんでもいいなあ! 他にも召喚してもらってさ!」


 爽やかに笑ってますけどハンダさん、多分本気ですよね? 


 ちゃん呼び。本当に仲良いな。


 それから、他にも召喚、って。


 少し離れた場所の簡易結界の中、白様に見守られながら召喚の為に集中されているナーハルテ様のお耳には、絶対に! 入れられませんよ!

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