54-七の街の聖教会と私達
『主殿、そろそろよろしいですか』
寿右衛門さんに言われて、え、と思う。
外を見たら、知らない街。と言っても王都と二の都市もほとんど外出してないんだけど。えーと、ここは。
『七の街の聖教会に着いております。お降りになられまして、ご覧下さい』
聖教会? え、でもまだやっと夕方? かな、位の日差しだよ?
「あ、あの、マトイ様。ご確認の前にお手を」
ナーハルテ様、お手。おて。……あ。
「す、すみませんでした! なめらかで艶やかなナーハルテ様のお手を、許可なく握っておりました!」
慌てて握っていた私の手を外す。
大好きです、といつか言いたいとか爽やかな事考えていてこれかい私、と自己内省。
「いえ、大丈夫です。それよりも参りましょう」
『大丈夫ですが、時と場所をお考え下さいという事ですな』
ええと、大丈夫なのは大丈夫なんだよね? 寿右衛門さんが笑ってるから大丈夫、な筈。
馬車は私が先に降りる。ナーハルテ様に手を差し伸べるのは……
「朱……朱紅さん!」
「こんにちは。皆様お揃いよ」
前とは違う、お仕事できる女性な感じの黒のパンツスタイル、でもスタイルの良さは丸分かりの人型朱々さん。
このお姿の時は
見渡すと、聖教会本部の様な荘厳な建物ではないけれど、落ち着いたレンガ造りの建物がほのぼのとしていていい感じ。
「こちらが七の街の司祭さんで、お隣がネオジム-コバルトさん。聖女候補さんのお母様よ」
『我は馬車置き場に魔馬車を置いてくるので、茶色のものよ、後は頼む』
高位精霊獣白様は魔馬車でも5日はかかる距離を走って移動したのに、全く疲れが見えない。それでも、5時間位は経ったのかな。速いぞすごいぞ、ピンクのぷにぷに肉球。
「第三王子殿下、筆頭公爵令嬢様、高位精霊獣の弟子殿、ようこそおいで下さいました」
「娘がお世話になっております」
二人が深く頭を下げてくれた。頭を上げて下さい、と言うのは違うのだろう。
ここはナーハルテ様と朱々さんと寿右衛門さんにお任せ。
多分、丁度いいタイミングなのだろうという時に、朱々さんの人型朱紅さんが皆を転移させてくれた。
音声遮断等、諸々の結界を張ってくれたのは寿右衛門さん。
白様とは思念魔法で繋がっているから、場合によってはすぐに転移してきてくれるらしい。念話も使えるし。
診療所はお父さんとそれからセレンさんの聖魔法で何とか大丈夫みたい。
「親としましては、せめてこちら、七の街の聖教会に所属してほしいのですが、セレンの魔力の大きさを
ネオジムさんが話を始める。
知性的な美しさと、派手さはないのに印象的な耳飾りが素敵な方。
セレンさんのお母様はそもそも、医師になる勉強の為に王立学院専門部医学専攻に入学、修了された程の方だった。
そんな方から見ても、セレンさんの聖魔力は桁違いだと言う。
「あの子が残していってくれた聖魔石、本当に良質な物が大量で。診療所を病院に変えられる位でした」
土地代、建築費、設備費諸々、田舎とはいえ相当な金額だ。
それを、診療所に便利な魔道具が増やせたらいいなあ、のノリで作成できるセレンさん、やっぱりすごい。
「とりあえず地元とこちらの聖教会とご相談しまして、診療所レベルで備えられる最高の設備投資を行い、残りは聖教会に寄付致しました」
「正直、七の街と八の街の聖教会の数年分の寄進に当たる金額です。両方の街共に、中々に街の皆様からのご寄付がございます所なのですが。無論、聖教会本部にも連絡済みです」
善良そのもの、な感じの司祭さんも何とも言えない表情。
本当に、これは聖教会本部にお願いするしかないのだろう。安全面等も含めて。
「セレンの意思は私も確認しました。正直、最初の頃ならこちらに居たかった、と申しておりました。でも今は、もっともっと勉強と修行がしたいそうです。第三王子殿下、筆頭公爵令嬢様、どうかあの子の父親を
あれ、今、ボコボコに、って聞こえた様な。えーと。
「そうですか、それならば、このお二方にお任せ下さい。方法はどの様に?」
秘書さん朱紅さんがネオジムさんに聞く。
「ぜひ、ゲームを共にお願いしたいと考えております」
まあ、とナーハルテ様。
ほう、と寿右衛門さん。
いいわね!と朱紅さん。
えーと、な私。
ゲーム。『キミミチ』じゃないのは分かるよさすがに!
でも、いったい何のゲーム?
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