53-移動の私達
イケ猫属の仮のお姿の白様早い。
景色を見ようかなと思ったのに視界に留まらない。それでもほとんど振動なし、日本で一輪先生のお供をして地方公共団体に行った時に送迎で乗せてもらった国産高級車並み。すごい。
これは私の動体視力に問題があるのかと思って寿右衛門さんに訊いたら、高い魔力持ちで、更に視力がすごく良い一般の人が聖教会の魔馬車が通ったかな? 気のせいかな? 位の意識が持てる早さで走っているらしい。
国境はないから停止の必要もなし。七の街までノンストップ。
クッションは座りやすいし、真正面にナーハルテ様のお顔。不満なんてある筈も無い。
締まらない顔をしない様に気を付けていたら、お話をよろしいですか、とナーハルテ様が言われるから勿論と答える。
お声が聞けるのが嬉しい。
「リュックちゃま、わたくしのマジックバッグを」
寿右衛門さんにリュックちゃん使用説明を受けた時にナーハルテ様がリュックちゃん様、と言われたのを
『水くさいと思っておられます。ちゃま、でいかがでしょう』
と寿右衛門さんに勧められての呼び方だ。
何だか良いよね。美しい方と雀さんとかわいい魔道具の触れ合い。和む。
リュックちゃんの力で、ナーハルテ様に相応しいレースのポーチ(多分手編み)に変化したマジックバッグさんから出されたのは、明らかに高級な紙だと分かる手紙。印は獅子の文様。
「普段はライオネアはこの様な事はしないのですが。聖女候補様のご意志が強ければ渡してほしいとの事でした」
やっぱり、ゴールド家の家紋だった。
普段は伝令鳥にお礼を託すだけのライオネア様にしては稀な事。
勿論、ナーハルテ様やイケメン令嬢の皆様方とは普段からカードも手紙も伝令鳥も頻繁にやり取りされている。
獅子騎士様のファンの人達に形に残る物を渡してしまうと、それが予期しない事に繋がりかねないのだろう。
争い、嫉妬、その他色々。あとは付与魔法対策もあるかも。
応援会が配布している獅子騎士様の姿絵にはセレンさんが鑑賞以外他用不可の聖魔法を掛けているし、剣術大会で花束を頂いた事務局の男爵令嬢サマリ・フォン・ランタンさんは応援する人の鏡の様な学院生だ。
スズオミ君との婚約も、仮に穏便に解消されても今のところ、周囲への告知は早くても高等部卒業時。
同性婚が可能なコヨミ王国では、ライオネア様の場合は公爵家当主の座を狙う男性よりも、彼女と結婚を望む女性の方がむしろ厄介なのかも知れない。
だから、婚約解消が進んでいる事を私にポロッと漏らした副団長さん、団長さんに吊られたんだね。
そう言えば婚約解消の条件の一つ、二人の決闘。副団長さん大丈夫なのかな。
あ、でも地上一(仮)の聖魔法使いさんが審判だから平気?
場合によっては鬼さんに戻って参加しそうだったけど。……考えるな、忘れろ。
「マトイ様とわたくしに、聖女候補様が真にこちらにお戻りになりたいかを確認してほしいそうです。本心ではご実家近くにおられたいのであれば、それを妨げたくはないと。ただ、彼女から頂いた金色のお守り、あの聖魔力はただ事ではないと。そして、こちらです」
それは、使い古した、という程ではないものの、少しだけ使用感がある王立学院高等部の教科書。1年生の物だ。
『これは、かなりの聖魔法ですな』
寿右衛門さんが感心している。
破損がひどい物に復活の聖魔法を掛けた上に、悪意を持って触れた者が触った場合のみ、その箇所に痒みをもたらす。
しかもその痒みが絶妙で、日常生活に支障をきたさないギリギリなんだって。要するに、すごい高レベルの魔法。
「これ、セレンさんがやったん……だよね」
そうです、とナーハルテ様のお話が続く。
今回の断罪で、平民差別を行っていた貴族の学院生は学院の一般寮生が多かった。
その内の一人は、セレンさんの隣室の下級生に持ち物への因縁をつけた者で、それを咎めたセレンさんへの逆恨み。
けれど当時はまぬけ王子達が傍にいた上に平民とは言え聖女候補なセレンさんへの報復は無理なので、
下級生の教科書を破損→セレンさんキレる→補修と報復の聖魔法がスズオミ君に見つかるが内緒(この頃にスズオミ君恋を自覚)に→断罪→平民差別の犯人達の周囲を調べる→セレンさんの聖魔法はすごい→スズオミ君の話とライオネア様のお守り→教科書とお守りの魔道具開発局の調査→やっぱりセレンさんの聖魔法桁違い! ←今ここ。
因みにスズオミ君もお守りをもらっているものの、所持していて問題がない程度。
釈然としなかったみたいだけれど、まあ、頑張れスズオミ君。君とセレンさんの関係はこれからだ。
そして、第三王子が無茶をした召喚大会のあれこれも、もしかしたらセレンさんの魔法の為に鼓舞されてしまった為かも知れないのだという。勿論、セレンさんはただ応援したかっただけだ。それは知の精霊珠殿(まだ呼び方考え中)がきっぱりと認められた為、セレンさんへのお咎めはなし。
そして、またまたナーハルテ様のお話の続き。
「聖女候補様に冒険者崩れ達を差し向けたバリウム家の本家は取り潰し。勇気ある告発者である聖女候補の男子生徒の生家、バリウム家分家を準本家とする方向へと動いております。教科書の学院生達、同様の行為者の学院生は家が関与していないと確定した者は皆一般寮からの退去と謹慎数ヶ月間の処罰です。他の該当者にも身分の上下関係なく、適正な処罰が与えられます。遺憾ながら、断罪の対象者は上クラスの学院生もおりましたから」
貴族でありながら一般寮に入寮ということは、格安の一般寮にしか入れない経済状態という事。その人達の実家には二の都市での物件購入や賃貸は無理だ。
そもそも、王立学院での謹慎処罰というだけで評判は落ちる。付き合いがある貴族階級等が初代国王陛下を敬愛している家なら尚更。まあ、当然のことだ。
要するに、平民差別を断罪された時点で積んでいるのだ。
もしも、上クラスの学院生等で、お家がきちんとした教育をしている家系なら、学院生だけが切られている可能性もある。
冷たいようだが、コヨミ王国はそういう国なのだ。
他国ならば、上の階級の者程罪など無かった事にされるのだろう。むしろ、冤罪として
「もしも、一緒にまた学べる様になったらセレンさん、と呼んであげてくれますか」
「セレン様、でしたら喜んで。わたくし、さんでしたらマトイ様の事をお先にそう呼んでみたいのです」
この国に転生できて良かった。そう思ったら、ナーハルテ様にお願いをしていた。
セレンさんはナーハルテ様の事をいつも素敵な方、第三王子ニッケル様には勿体ないと褒めて(?)いたから。
「あ、はい。セレンさん、喜びますよ。私の事も、いつか機会があったらそう呼んで下さい」
マトイ様と呼んでもらえるのも、限られた場所だけ。さん呼びは、難しいかも知れないけど、やっぱり嬉しい。
「はい。心に留めておきます」
ああ、やっぱり私はこの方が大好きだ。綺麗で賢くて優しくて強い、そして少しだけ儚い人。
私もいつか貴女に言いたい。
貴女の為に転生する事ができて良かった。大好きです、ナーハルテ様。
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