52-本当に出発の私達

「ごめん、ごめんなさい金ちゃん! どうか、我が愛する妻と金ちゃんの薔薇ちゃんには言わないで!」


 えーと。何だろうこの光景は。

 線が細くて美形の騎士さんが、イケメンだけどごつくてでかい騎士さんの首根っこをつかんで、

「とにかく反省しろ! 奥方と我が薔薇に伝えるかはその後だ!」と良く通るいいお声で叱っておられます。

 多分前者が185センチ位で後者が2メートル超え。カオス。


 因みに私はスズオミ君を膝枕しております。

 第三王子と副団長令息。黙っていたらものすごいイケメンと涼やかな美青年(自分をイケメン呼びなのはご了承下さい)の組み合わせ。これもなかなかのカオスかも。


 二の都市から転移陣なしで馬車なら30分くらいの距離を走って移動したのに激しく格闘している騎士団団長副団長イケオジコンビさんと、ナーハルテ様のリュックちゃんが出してくれたミネラルウォーターの瓶を、

「リュック嬢、素敵な心遣いをありがとう」と優雅に飲み干して、魔道具(だよね?)リュックちゃんを照れさせている(厚い布の白色がさあっと朱色に!)ライオネア様。

 獅子騎士様、すごい。


 あの三方向突っ込みの後、スズオミ君がやはりお疲れだったので椅子を代わろうとしたら、王族にお譲り頂くのは、となり、ナーハルテ様が譲ろうとするもこれも不可。

 リュックさんとリュックちゃんが追加を出そうとしてくれたんだけど、


「そんな軟弱者は転がしてやって下さい!」

 と、それどころじゃない副団長さんが吊られながら仰るので、これならと出してもらった元ピクニックシート、今は皮の敷物の上に寝てもらった。


 何故私が膝枕かというと、さすがのリュックさんにも枕はなかったので、ライオネア様が、

「自分の膝を枕にするか? ただ硬いな」

 と、ご自分の筋肉を心配された為、ナーハルテ様がではわたくしが、と言い掛けたのを慌てて

「いや、私が!」

 と止めた為だ。


 多分、同性の婚姻が普通の事であるこの国では当たり前の光景なんだろうけど、スズオミ君複雑な表情。ごめんね。

 あと王族の私、一応座ってます。正座で。あ、椅子はライオネア様に座ってもらったよ。


 でも、おかげで色々聞く事ができた。


 今回のセレンさんの八の街からの帰還の件で、スズオミ君はセレンさんの窮地を救う立場にない事を自覚したんだって。

 そこで、意を決してお父上にセレンさんを本気でお慕いしている事、ライオネア様に勝てる自信は正直ないものの卒業までには必ず勝負しても死なない体力を付けるのでゴールド公爵家に婚約解消のお願いをして頂けまいかと直訴したんだって。

 副団長さんに骨の二、三本折られても仕方ないという覚悟だったらしいけど、逆に、良く言ったと褒められ、あれよあれよと婚約解消が進行中。


 私達がセレンさんのお父さんを説得している間に話を詰めて、できれば王宮に報告できれば、という事だったらしい。

 あ、薔薇ちゃんはライオネア様のお母様。社交界の薔薇と言われるお方。いつかお会いできるかな。


「第三王子殿下、申し訳ございません。父があの様に……」

 スズオミ君、少し息が落ち着いてきた。良かった。

 私の傍らのリュックさんが、ミネラルウォーターの瓶とストロー(寝たまま飲めるやつ!)を出してくれた。枕がなくてへこんでたもんね。大丈夫、リュックさんは素敵なリュック。ちゃんと声に出して褒めるよ。


 スズオミ君も、

「助かります、リュック殿。ああ、冷たくて美味しい!」と感謝している。

 良かった。血色もいい。追加効果だね。


 話を戻すと、私以外の皆さんはある程度婚約解消の状況を把握していたけれど、第三王子まといがきちんと手順を踏んで対応する最初の行動の前にお伝えするものではないから、今回はあくまでもお見送りの筈だったのだという。


 確かに断罪劇場はいきなりすぎたからね。

 あれはニッケル君(やっぱり、こう呼ぶ事にした。たまに王子とか第三王子になるかも)のお手柄だし。


『そろそろ許してやったらどうだ、獅子の血統のものよ』

 白様がこう言われると、団長さんはぱっと手を離し、騎士の礼を取る。ドスン、とすごい音がした。


「は、精霊王様直参、白殿の仰せとあらば!」

 獅子の精霊獣さんの子孫さんだから、団長さん的には白様は超偉い方になるんだね。

 それに今は猫属の仮のお姿。ますます威厳が、なのかも。


「まあ、騎士団長金紅きんこう殿の気持ちも分からぬでもない。悪しき意図はないにせよ、コヨミ様の末裔であられるマトイ殿のご足跡の第一歩を邪魔するとは、金紅殿がつるし上げねば、私が攻撃魔法の10や20、飛ばしていたかもしれぬ」

 浅緋さん、聖魔法大導師様らしからぬお顔になってます。

 あと、大導師様って攻撃魔法使っていいんだね?


 団長さん、寿右衛門さん、分かる分かるしないで!

 あ、リュックさんが浮いてる。賛成! だねこれは。良いのか?


「浅緋殿、ご安心下さい。婚約解消の条件の一つに、父同士の決着もございます。マトイ殿のお帰りまでに、しておきます故」

「そうか、それは重畳。ならば、聖魔法大武道場を使うと良い。審判は私がやろう」

「ああ、あの! 魔法使いのみならず、一般の武道家も憧れの存在! 自分も見学させて頂いて宜しいでしょうか、聖魔法大導師様」

「騎士団長令嬢、自身の婚約解消に関わるのだから是非いらっしゃい。そこの令息も」


「ほ、本当ですか!」

 スズオミ君、起立。完全復活だね。

「良かったなあスズオミ! 自分達も婚約解消のをさせて頂けるように努力しよう!」

 にこにこ笑顔でイケメン度が更に増したライオネア様。


 何だか、副団長さんが動かなくなってる。まあ、見送り組が和気あいあいで良かった良かった。話し合いって、やっぱり剣術かなあ。


 椅子に清浄魔法を掛けてからリュックさんとリュックちゃんに返そうと思ったら、飲んだ瓶とかその他全部と一緒に吸い込まれた。浄化と再利用も任せなさい、って事みたい。


 ライオネア様とスズオミ君が空瓶を欲しいと言ったら、ライオネア様にはリュックちゃん、スズオミ君にはリュックさんが中身入り(紙製ストロー付き)のを出してくれた。ライオネア様には瓶2本。スズオミ君は瓶1本。ひいきではなく1本は多分ファンとしてのリュックちゃんからの贈り物。

 二人とも喜んでいた。


『よし、それでは本当に出発じゃ』

 今度こそ、きちんとナーハルテ様をエスコートして魔馬車に乗って頂けた。

 今日は素手。艶やか。

 その魔馬車を引くのは精霊王様直参の高位精霊獣白様(猫属バージョン)。魔馬車の中には筆頭公爵令嬢ナーハルテ様、お膝にリュックちゃん、そのまた上にちょこんと寿右衛門さん。第三王子な私の膝上にはリュックさん。


 見送りは、聖魔法大導師様、王国騎士団団長さん、副団長さん、団長令嬢、副団長令息。団長さんは公爵、副団長さんは侯爵。

 改めて考えると、すごいメンバー。

 副団長アタカマさんが何だかやつれてる気がするけど、息子さんスズオミ君は体調が回復しているからいいよね。


 八の街で会う方は、聖女候補セレンさんのお父さん、邪竜討伐経験者で元伝説の冒険者、邪竜斬りのカーボンさん。現在は、強すぎる薬師のハンダ-コバルトさん。

 こちらを説得してセレンさんを学院と聖教会に戻すのが目的。セレンさんのお母さんとセレンさんには、中継地点の七の街の聖教会で落ち合えそう。


 お父さんとは、話し合いではなく召喚獣対人類になりそうだけど、できたら話し合いで済むといいな。


 そう思ったんだけど、


『多分、そうお考えなのは主殿だけです』


 寿右衛門さんに言われてしまった。

 やっぱりそうなの?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る