幕間-4 コヨミ様とあたし

 『コヨミ殿がついに旅立たれたそうだ』


 人と関わる事を好まないものも少なくないこの精霊界でも、あのものなら、という精霊や精霊獣が多かった異世界からの転生人、コヨミが寿命を終えてしまった。


 この事実はあっという間に皆が知る事となり、彼の人はコヨミ王国初代国王陛下となった。


 元々、異世界での人の生と、更にこの世界での転生の後の生を加えれば、人とすれば相当な年数だ。

 それでも、精霊獣であるあたし達からしたら、あっという間。


 あたしは朱姫しゅき仮名かりな朱々しゅしゅ

 コヨミが教えてくれた異世界の鳥、孔雀に似た朱色の鳥の精霊獣。


真名まなを渡せなかったのう』

『白様。いいのよ。お別れはちゃんとしたもの』


 精霊王様直参であられる白い鳥の高位精霊獣のこの方は、血統が良いとされるあたしの一族でも突出した高位の方だ。

 コヨミが異世界からの魂の転生をした際にも関わりを持たれているという。


『コヨミの魂は半分こちらの世界に、半分は亡骸と共に元の世界に帰った。精霊王様のお心遣いじゃろう』


 白様はそれ以上は何も仰らない。

 本当に好きになった人間には素直になれない、コヨミに対しても最後までそうだったあたしを慮っておられるのだ。


『コヨミの召喚獣だった鬼族は賢き竜の下で学び、コヨミ王国に残るそうじゃ。朱色のものはどうする?』


 あたし。あたしはどうしよう。


「朱々さんが大好きです。どうか、そのままの貴女でいらして下さい。名前をありがとうございます」

 いつかコヨミに言われた言葉が頭に浮かぶ。


 そうだ、

『貴方は異世界の人だから、頼りないの! 誰かに騙されたらいけないから、あたくしが伝令鳥になって差し上げるわ! 仮名は朱々よ!』


 なんで、真名を貰って下さいと言えない失礼なあたしに、あんなにコヨミは優しかったのか。

 分かってくれていたんだ。全部。


『白様、あたし、人型の修行をします。一番上の方を紹介して下さい』

『うむ、よく言った。狐族の、厳しいが超一流のものに推挙しよう』


 コヨミが作った国なら、あたしが真の名前を渡したいと思える人が必ず現れる筈。


 その人は、あたし達からしたら割と早くに現れた。


 あたしは、賢明に練習した人型のままで、

『あたくしの真名は朱姫よ! 覚えなさい、いいわね!』

 とやってしまい、白様と白様の直弟子に苦笑いをされたけど、白金色の筆頭公爵令嬢ちゃんは驚き、そして綺麗に笑ってくれた。


 背中を押してくれたのは、コヨミ様の末裔で、黒曜石色の髪と目を持っていた女の子。


 そしてそれは、あの方にとても良く似た色だった。

 その子は今、魂の転生により、コヨミ王国第三王子殿下としてこの世界にいる。


 まぬけでへっぽこだった王子様は、あたしの大好きな人間のもう一人になった。


 黒曜石のあの子は多分、あたしがナーハルテちゃんの召喚獣、伝令鳥になった事を婚約者彼女が嬉しく感じてくれたという事実、それだけで、きっと心から喜んでくれるのだろう。


 ただ、それでは由緒正しき精霊獣として、承服しかねるのよね。


 待ってなさいよ、いつか必ず、全力で恩返ししてやるんだから!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る