50-支度の私

『では、図書室のぬし殿に会われたのですか。よい方と知り合われましたね』


「やっぱり寿右衛門さんは知っている方なんだね。禁書庫の開閉カードを頂いたよ。今度一緒に行こうね。寿右衛門さんは連れて行って良いよね」

『直接の面識はございませんが図書館の主殿は存じております。是非に、いずれお連れ下さい。ここ、こちらに私とリュック殿の名もございます』


 寿右衛門さんが羽で指す所に、本当だ、ニッケル・フォン・ベリリウム・コヨミの下に寿右衛門(漢字!)、リュック! って記載がある。


 あれ、でも、頂いた時は確かにニッケル以下略(ニッケル君、ごめんね)の名前だけだったような。


 まあ、いいか。訊かないといけない時がきたらで。


 そんな感じで洗濯した物を寿右衛門さんと畳みながら、色々お話。


 結局、大浴場の予約時間の少し前に寿右衛門さんは戻ってきた。私はその間に召喚魔法の勉強を進めた。

 お昼の代わりに、休憩の美味しいおやつとお茶(お煎餅とほうじ茶も!)をリュックさんが適宜出してくれていたから、入浴を済ませてから早めの夕食、そして今に至る。


 結果、明日の支度が今日最後の用事になった。


 そうそう、魔道洗濯機は二槽式洗濯機というやつで、洗濯と脱水が別々。


 レトロな感じが良かったよ。


 洗濯前、リュックさんが自分からファスナーを開いてくるから手を入れたら、洗濯ネットが入っていた。

 お姉ちゃんとリュックさんへの感謝が止まらなかった。(材質を後から寿右衛門さんに訊いたら蜘蛛の精霊さんの特別な蜘蛛の糸製だって!)魔道乾燥機は皺にもならず、素早い乾燥。

 かなり気に入りました。


 ちなみに水の魔力と雷の魔力を使うか、水の魔石と雷の魔石を用意して使用するかのどちらかで、魔力が少ない人は硬貨で魔石を買える仕組み。

 ありましたよ、自動魔石販売機。


 他にも色々販売機はあるらしいから、八の街に行く楽しみが増えたよ。


 あ、魔力が少ない騎士さんはその分補助金が出るんだって。福利厚生すごい。

 魔力が高い騎士さんは、特別な副業として魔石作成は認められているんだって。


 勿論、その場合は必ず騎士団に回収してもらう事が条件。私は問題なく自前の魔力でいけました。やっぱり、王子の内なる力がすごいのかな。


 寿右衛門さんと二人で占有させて頂いた大浴場は雰囲気があった。


 騎士さん達の憩いを邪魔しない時間帯を選んで是非また行きたい。タイル絵(何故か富士山ぽい山。どこかにあるならいつか本物を見たいな)とか、色とりどりのレンガ組みの浴槽とか、洗面器とか(プラスチックっぽいけど多分材質はスライムか何か)、暦家(実家)の近くにはまだある銭湯に似ていた。

 無いのは番台さんとコーヒー牛乳とかの物品販売だけ。

 水分補給はセルフの給水(冷たい)・給湯(ぬるめ)魔道具で。


 氷の魔石と光の魔石で微調整しているらしい。火の魔石だと熱くなりすぎるからだって。

 これは大浴場と一緒で魔石が不足したら騎士舎用務員の方達に補充してもらえます。


 そして、話は召喚魔法の授業についてに。

『召喚は上手く行きました。教師殿も、召喚学を学ぶ若い学院生も喝采を叫んでおりました。映像水晶の複写も、頼んでおります』

「朱々さんは素直になれましたか?」

『素直と言います……主殿が仰いました事とさして変わりませぬ』


 ああ、あの感じ。

『第三王子殿下の勧めで、という方向になりました。高貴な精霊獣殿と交友があるとは、やはり王子殿下は優秀なお方だった、という様相を呈して参りました』


 第三王子殿下の形だけの休学は、やはり選抜クラス受験のための学習に専念するおつもり故と解釈されたらしい。

 実は、という事は、今までは……。推して知るべし。


 まあ、それなら聖女候補セレンさんの為に八の街に赴いても、さぼりとは思われないかな。

 ナーハルテ様は大役お気を付けて、で済むだろうけど、元まぬけ王子は注意しないと王家の怠慢だとか言われそう。


『明日は騒がしくなるといかんのでこっそりと参るぞ、との我が師からの伝言でございます』


 見送りも聖魔法大導師様のみのこじんまりとした物になるって。

 見送りの人物が超大物なんですが。良いのかな。良いのか。


『そうそう、リュック殿は他の亜空間収納達よりも高位ですからな。持ち込み不可の場所が可になるという事もこれから更に増えましょうぞ。さて、それでは荷造りを。あ、ハイパー殿は今回はどうされますか』


 どうされますか、って、私じゃなくてキミミチ超豪華設定資料集ハイパーそのものに聞いてるよね寿右衛門さん。


 ハイパーは返事代わりに薄ーい本に変化した。

 豪華な革表紙は残っている。いや、少し控え目かな。

 何だか、豪華な旅日記みたい。ていうか、変化した!


『さすがはハイパー殿。そうそう、主殿、朱色殿がお礼を言われていました。機会がありましたら是非お話をと仰っておられましたよ』


「お礼かあ。ナーハルテ様が喜んでおられたらそれで十分なんだけどね」

『それはもう! ナーハルテ様は驚かれたのち、破顔して感激しておられましたよ。我が師も、気難しいあのものをよく御したと主殿を褒めておいででした。私も鼻が高い思いでした。優秀な第三王子殿下の益々のご向学のおん為にということで映像水晶の写しも頂けることになりましたし』


 何だろう、この第三王子殿下の持ち上げられ方。

 本当に明日、しっかりしないと急上昇中の評価に傷が付きそう。とにかく慎重に、だ。


『主殿、リュック殿が』 

 あ、リュックさん、また揺れてる。


 開いて、よいしょ。

「あ、完璧……」

 男性用の着替え、洗面キット、その他諸々。お泊まりセットかな、と思ったら、正にその通り。

 要は、リュックさんをきちんと連れて行くのが大事という事だね。了解しました。


『お召し物は私がご用意致します。そして最後にこちらは、ナーハルテ様からでございます』


 寿右衛門さんのふわっふわの羽毛から出てきた物は。こ、これは!

「これ、召喚大会のお見舞いにナーハルテ様が財務大臣令嬢様から戴いた特別なカード!あ、直筆!」


 特別な魔法加工で、書かれたものが色褪せない高級品。

 大切な盟友のお一人からの頂き物。それを使って下さるなんて、感激!

 カードには、朱々さんの件のお礼と、第三王子殿下のお役に立てますよう、明日の聖女候補様の説得に尽力致しますとのお言葉。ああ、お美しい文字!


「寿右衛門さん、ありがとう! 今日はこのカードを傍に置いて寝るね!」


『いや、主殿、明日ご本人と会われますのに』


 さすがの寿右衛門さんも呆れる位の私のテンション。

 でも、多分今日は寝付くまでこんな感じだと思うから、諦めて我慢してね。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る