49-図書室の主さんと私

 結論から言うと、リュックさんが浮いていたのは開けて開けて、だった。


 リュックさんのチャックを開けたら、吸い込まれて転移(!)して、図書室の召喚魔法の書棚の前。


 この図書室、禁止魔法使用者は弾かれたり騎士団魔法隊の騎士さん達に捕縛されたりするらしくて、


「第三王子殿下の転移魔法は素晴らしいですね。全く、噂とはあてになりません。よろしければこちらもお使い下さい」

 図書室の司書さんがお褒めの言葉と禁書庫の開閉カードをくれた。


 リュックさんは私の持ち物だから、魔法も私が自分で掛けたという扱いになるみたい。


 リュックさん、図書室は手ぶらで行かないといけない所なので、私だけを転移させてくれたんだ。

 確認したら私物は一部の筆記用具、本等以外持ち込み不可。

 袋とかを持っていたら、やっぱり弾かれるか、手荷物預かり庫に入れる事になるみたい。


 え、でも王立学院図書棟(棟一つ全部!棟の中に図書室がたくさん)も王立図書館も、勿論この騎士団の図書室も、禁書庫の解除って、王家の人間でも許可申請が通らない事があるんじゃなかったっけ。

 寿右衛門先生の講義にあったよ。それをはい、って、いいの?


 あと、第三王子の噂って何。

 聞きたいけど心構えができてからの方が良さそう。この方、かなりの魔力持ちさんぽいし。


「申し遅れました、私は図書室の主こと、千斎せんさい・フォン・クリプトンと申します。そのカードを使われたら、王立のみならず、国内の大概の図書関係機関はお入りになれる筈です」

『お待ちしておりました、コヨミ様の末裔様。』


 念話でやっぱりな、と思った。

 人型の精霊獣さんか、人型のままで人と家庭を持たれた方なのかな。

 麦藁むぎわら色の髪と目の穏やかな感じの容姿の方だけれど、ピリピリとした魔力の気配(多分今はわざと気配を出してくれている)を感じさせる方だ。


「私は先祖が精霊獣の者でございます。長寿の家系で、コヨミ様から数えまして五代目の国王陛下の御世からこちらに。騎士団での階級は大将。所属は騎士団魔法隊にございます」


 なるほど、そういう方もいるよね。

 じゃあ遠慮なく使わせて頂こう。あと、大将さんてかなり偉い方だ。


 騎士団最高位の元帥さんが団長さん、ゴールド公爵閣下。

 その下の上級大将さんが副団長さん、コッパー侯爵閣下とあと数人。

 以下、大将さん(千斎さんはここ)、中将さん、少将さん、准少将さん。

 ここまでが将官。大佐さん以下はまたいずれ。

 あ、因みに地方の騎士団の分室の室長さんが大体大佐さんです。


『図書関連で何かありましたら、いつでも私の名前と位をお使い下さい』

 ありがとうございます。

 また一人、大物(多分)さんのお知り合いが増えました。

 あれ、千斎さん、図書関連、って。色々伝手つてをお持ちなのかな。


 移動は寿右衛門さんがいないから、簡易転移陣ではなく、普通に階段移動。


 そこかしこに騎士さんがいて、礼をしてくれる。ご丁寧にありがとう、だけどお仕事中にお手間じゃないかな。いや、多分手間だよね。

 次は簡易転移陣を使った方がいいかも。


「ただいま、リュックさん。転移させてくれてありがとう、たくさん本を借りられたよ。召喚関連以外にもたくさん。七の街と八の街の解説本もあったよ。すごいよ。禁書庫の開閉カードも頂いたけど、寿右衛門さんと行く方がいいからまだやめておいたよ。あ、すごい!」


 テーブルの上にはレタスシャキシャキ、ベーコンカリカリ、黄身がぷっくりの目玉焼き入りで、きれいにカットされた大きなサンドイッチと、ポットにコーヒーと多分豆乳。

 机に本を置いて、リュックさんにお礼。


「ありがとう、朝ご飯だね。手、洗ってくるね」

 きちんと座っていただきます。

 あ、美味しい。

 またこれも適温。

 いつもこんな感じで、今日はパンがいいなあ、明日は白米が、と毎日きちんとしてくれている。

 たまには自分でも作りたいんだけど、寿右衛門さんがいたら大丈夫かな。確認しないと。


「ごちそうさま」

 食べ終わると、コーヒーと豆乳(私がソイラテ派だから)以外をリュックさんが吸い込んでくれた。


 洗い場所とか魔道食洗機とかがあればたまには私も食器なんかを洗ってみたいので、機会があったら頼んでみよう。

 あとは裁縫とか、ちょっとやってみたいかも。そんなにはできないんだけどね。軽い刺繍程度だけど。


「そうだ、洗濯魔法。…よりはリュックさんと一緒に魔道洗濯機の方がいいかな」

 リュックさん、また揺れている。分かったよ。


 チャック開いて、今度は吸い込まれないから手を入れて、だね。

 出てきたのは、愛用の洗濯洗剤の旅行用ミニパック、が小さい瓶詰めに。かわいい。

 今度は簡易転移陣で、リュックさんを背負って、汚れ物入れの籐かごと瓶詰め洗剤を持って、行ってきます。


 あ、その前に寿右衛門さんに伝言を残しておこうかな。


 あ、リュックさん、ペンケースとか、文具の愛用品を既にデスクに出してくれていた。私が図書室に行っている間に用意してくれてたんだね。


 ありがとう、さすが!




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