47-転生したら大学准教授秘書だったので取り敢えず働く所存な俺

 転生をしたら大学准教授秘書だった。


 転生前は異世界の第三王子ニッケル・フォン・ベリリウム・コヨミ(王太子ではない)だったが、こちらの世界では飲酒喫煙不可に該当する年齢(19歳)故に飲酒不可(喫煙は今はとりあえず必要を感じない)である事が多少辛いくらいしか今のところは困っていない。


 こちらの酒は甘露だと白き高位精霊獣殿が言っておられたので心待ちにしてはいるのだが。


 転生した先は26歳の女性だったから良いのではないかと抗議したが、一応教職員としては認められないと保護者殿(姉君)の恋人殿(俺の雇い主。大学で教鞭を取っておられる)に言われた為、本来20歳になるはずだった来年の春までお預けとなった。

 少し時時間軸がずれてしまっていて、多少待たされてしまうのだが、致し方ない。


 今の俺の名前は暦まとい(本当なら殿を付けたい)。大学准教授秘書という職に就いている。


 俺の愛する故郷、異世界コヨミ王国に転生され初代国王となって下さった方、全ての国民の大恩人コヨミ様の末裔のお体に魂の転生をさせてもらえたので、正直、不満などは存在する筈もない。


 この間、俺がチュン右衛門殿と外出、姉君と恋人殿が家におられた時、俺の姿のまとい殿が白昼夢の様に現れたという。次があれば是非とも会話をしてみたい。


 そうそう、あの成績で、普通クラス一組のくせに、と俺を知る人間からは言われそうだが、実のところ、俺は座学は意外(これは認める)と得意だったので、まとい殿の知識を受け継いで更に増やしていく今の生活は楽しい。


 特に、魔力が異様に少ない体質の為、召喚魔法を得意(他もおしなべて優秀)とする婚約者に引け目を感じていた俺からすると、魔法ではなくて科学が発達しているこの世界は実に居心地が良い。


 そうそう、転生した直後、マジックバッグの亜空間が使えなくなって、王子が常に身に付けている貴重品がそのままザラザラと出てきてしまい、姉君に


「こんなに大量の超貴重品、持ち込むな!」

 と、叱られてしまった。

「これらは王子の個人資産で国庫に迷惑はかけていませんが」と伝えたら、

「そういうことじゃない!」

 と、また怒られた。


 結局、金や宝石(他にも色々)は初代国王陛下を異世界にお連れする手助けをされた栄誉ある鳥、協力鳥の子孫であられるチュン右衛門殿が人の手に渡らない場所に隠して下さった。


 他にも、嘗ての武将の宝物等、本来持つべき者が現れるまで保管されているものがある場所らしい。


『獣だけの秘密の場所です』

 チュン右衛門殿は、どうやら俺とだけは念話で会話ができる様だ。

 姉君とチュン右衛門殿に呼ばれていた恋人であられる方、一輪先生にはチュンチュンチュンと聞こえたと言う。


 それでも、チュン右衛門殿は動作も大きくパソコンやスマホ(俺も色々覚えた。乙女ゲーム『キミミチ』も全てのルートを攻略した。感想は機会があればいずれまた)のキーボードも嘴で押す。

 お二人とのやり取りは、実に多彩だ。


 雀という鳥は野鳥なので飼ってはいけないというこの国のルールに従い、巣を別に持ち、姉君と俺の家(と言って良いらしい。有難い)に通って来られている所も尊敬にあたいすると思う。


 チュン右衛門殿と会話ができる事もだが、もしかしたら、俺の魔力はこちらの世界で開花するものだったとしたら、とふと考えた。


 それならそれで、面白い。

 魔法などはこちらの世界ではめったなことでは使えないものだし、わざわざ確認する必要もなかろう。必要な時が来れば、そうなる筈だ。


「あねぎみ、じゃない。お姉ちゃん、チュン右衛門どの……違う! チュン右衛門さん、行って参ります……あ、きます、だ。行ってきます」


「行ってらっしゃい」

『お気をつけて』


 転生したら、異世界の大学准教授秘書だった。


 取り敢えず、今日もで働く所存だ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る