45-催眠魔法と私

「ナーハルテ様、格好よかった……」


 もっとたくさんお話したかったけど、授業に出席される為、ナーハルテ様は白様と学院に戻られた。先ほどの凛々しきお姿は召喚魔法の実戦の為でした。


 「早く大豆を食したり育てたりしたいです!」と仰る大導師様にもきちんとご挨拶をして、寿右衛門さんと一緒に元の部屋に転移して頂いた。

 大導師様の秘密の執務室(公式のお部屋はまた別らしい)なので、毎日転移陣が変化するらしい。すごい。勿論、魔馬車のメンテナンスは完璧にしてくれるって。


「ナーハルテ様の召喚魔法、見学したかった……」

 選抜クラスは少数精鋭、皆様既に三年次の予習中な位だから、自習が推奨されている。

 計画を立てて成果を出せればよし、とは現世の大学院みたいだね。

 これより上の専門部、上級専門部はやっぱり研究機関かな?


 ナーハルテ様は二年次の残りの日々を召喚魔法レベルの更なる向上に充てられるとのことで、高位精霊獣白様のご指導は、正に鬼に金棒。


 何でも、ナーハルテ様直筆の計画書を確認された召喚魔法の先生が感動されて、お二人に映像水晶の撮影許可を頂いたらしい。

 映像の写しが召喚魔法の題材として使われ、大元は超貴重な資料として図書館の重要保管対象になるそうだ。そんなの私も見たいし欲しい。


 あ、部屋に戻ってきてからため息ばかりだね、私。


 でも、私はまだ召喚魔法の教科書を少し読んだ程度、見学させて頂けたとしても、お邪魔もいいところだ。

 今年度の召喚大会、まだまぬけだった頃の第三王子ニッケル君みたいになってしまったりしたら、取り返しがつかない。


『主殿、今日は元々休みの筈です。お疲れでしょうから、読書も禁じます。安全な催眠魔法を掛けますから、食事と入浴をお済ませ下さい。明日の昼に目覚めるように致しますから』

「分かりました、寿右衛門先生」


 私の体調を考えてくれているのが分かるから、わがままは言えない。

 食べたい物は何でも食べていいと言われたので、たまには現世のジャンクフードっぽい物が食べたいと言ったら、あっという間にフィッシュアンドチップスとよく似た(というかそのもの!)魚のフライとフライドポテトとおいしそうな新鮮野菜のサラダを持ってきてくれた。


『主殿、リュック殿にお手を入れてごらんなさい。我が師から聞いております姉君なら恐らく』

 え、あ、うん。あ、すごい。


「お姉ちゃんありがとう!」

 リュックさん(何だか、さん呼びしたくなる雰囲気なんだよね)に手を入れてみたら、すごい。

 嬉しい! 私が大好きな銘柄のビールと、旅行のお土産の地ビールとおつまみ。それに、大好きな銘柄のごまドレッシング! 

 ビールとドレッシングは瓶容器に変化していて、おつまみは全部紙袋に。

 すごいなリュックさん!


 お姉ちゃんありがとう、大好き! 

 遠い異世界まで届いて、私の感謝の気持ち。


「あ、でもお風呂に入ってからの方がいいよね」

『それでは、今日は私が清浄魔法をお掛けしますから、明日にしてはいかがでしょう。大浴場も必要でしたら指定予約を致します』


 大浴場! 行ってみたかったんだよね。

 でも、騎士団のどなたかと一緒になってしまうと、なんか、こう…ね。

 覗いているみたいで申し訳ない感じが……と思って躊躇していたから嬉しいな。


 あ、第三王子の体にはすぐ慣れました。

 正直、向こうも私の中に入ってるから、お互い様って感じ。


 あれ、でも一応王族だけど護衛とかはいいのかな。この部屋は近くにたくさん騎士団の方達がいらっしゃるし、寿右衛門さんが伝令鳥兼執事兼護衛兼先生みたいになってくれてるから平気なんだけど。


『私は全施設に入場可能な立場でございます。それでは明日の夕刻に』


「あ、そうだ、この世界の飲酒可能年齢は?」

 危ない危ない。確認大事。


『18歳です。乙女げーむには食事の場面しかございませんでしたか』

 こんなときは、超豪華設定資料集ハイパー。


 ……王立学院について。あった!

 高等部は入学時が大体18歳。4月から翌年3月までが一年度。卒業時はほぼ20歳。

 ちなみに中等部は15または16歳から18歳までの三年制で初等部は10歳から15歳までの六年制。なるほど!

 初等部と中等部は家庭教師という貴族のご家庭も多くて、中途入学者も多数。ふむふむ。


 そうそう第三王子の誕生日、あれ、記載がない。


『生年月日は何らかの魔法のよすがになってしまう可能性がありますので公になってはいないのです。故に、季節のみございます。ナーハルテ様のものも、その様にお考え下さい』


 そうだった。

 超豪華設定資料集の端から端まで探しても、イケメン令嬢様方の生年月日、記載がなかったんだよ! 

 季節は書いてあった。ナーハルテ様は冬生まれ、王子は春生まれ。ライオネア様とスズオミ君とセレンさんが夏生まれだった。


 だから、二年次の終わりの今、王子は少なくとも19歳。飲酒可能。良かった。

 コヨミ王国は一応四季があるけれど、気温とか湿度とかが一年中快適で、なんとなんと、花粉症がないの! 素晴らしい!


 あ、春は4、5、6月。夏は7、8、9月。秋は10、11、12月。冬は1、2、3月。

 今は冬の初めかな、位の日付だけれど、私からしたら梅雨のない気持ちいい初夏みたいな感じ。最高の過ごしやすさです。


 それからたくさん飲んで食べて、寿右衛門さんも意外とビールにも付き合ってくれて、楽しく飲食することができた。


 とりあえず、全身に清浄魔法を掛けてもらってすっきりさっぱり。


 もう一度リュックさんに手を入れたら、いつも飲んでいたミネラルウォーターと愛用の歯ブラシ歯磨きとコップが二つとデンタルフロス。至れり尽くせり。


 ミネラルウォーターは瓶で、歯ブラシとフロスはプラスチックっぽい何か。寿右衛門さん曰く、魔獣のトゲとか皮とかスライム(!)を固めた物とかじゃないかって。


 ちなみに食べたり飲んだり使ったりした物は全てリュックさんが責任持って回収してくれている。

 回収のタイミングもいつの間にか自然に、で気が効いている。

 回収物はきれいにして再利用してくれるらしい。もうすごすぎて何がなんだか。


 そうそう、歯磨きは皮の袋。でも形はきちんとチューブ。蓋は硬い何かの実かな。コップは木製。手に馴染む感じ。


「今までは歯磨き代わりにも清浄魔法を掛けてもらってたから寿右衛門さんがたいへんだったよね、ありがとう」


『何ともございません。ゆっくり眠りについて下さいませ。催眠魔法には良い夢を見るまじないも含まれております故』


「ありがとう。じゃあ、着替えてみるね」


 今日は、寝間着への着替えを魔法で済ませてみた。普通に自分の手で着替えるのと違って、少しくすぐったい。

 洗濯は、魔道洗濯機に任せてもいいし、自分で魔法を掛けてもいいんだって。


『お上手です。瞬時に着替えねばならない場面などもこれから出てくるやも知れませぬから、こうした魔法は少しずつお体に慣らしていって下さい』


 寿右衛門先生に魔法を褒められると嬉しい。


 洗面を済ませたら、あくびが出てきた。やっぱり、疲れてたのかな。


 ベッドサイドにミネラルウォーターとコップを置いて、横になって柔らかい布団を掛ける。


「お休みなさい」

『お休みなさいませ。良い眠りを』


 寿右衛門さんの眠りの魔法を見ていたかったけど、すぐに眠気がやってきた。


 お……や……す……。













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