44-亜空間なリュックと私
『七の街までは都市部からは馬車で大体10日。そこから八の街へはまた馬車で3日、急ぎでなんとか2日半。それが一般の移動方法じゃから、我がいきなり中空から出たら騒ぎになろう?』
皆が揃ったので、まずは移動方法の確認。
今解説をしてくれているのは、精霊王様直参の高位精霊獣、白様。
異世界に転生した雀さん、寿右衛門さんの末裔のハイスペック雀チュン右衛門さんに憑依して私を異世界転生させてしまえるすごい魔力の持ち主さんだ。
確かに、異世界転生に比べればいきなり遠い街まで、くらいは楽勝なのだろう。
だからこそ、一般の移動方法からはかけ離れ過ぎているんだよね。
セレンさんは乗り合い馬車より速い聖教会関係者専用の魔馬車を使って5日間、七の街の聖教会へ。そこを起点として、特別に許可された転移陣で実家に行くことを認められていた。
ちなみに、お父様の無双があったのは彼女が七の街の聖教会に着いた日。かち合わなくて本当によかった。
とりあえず、出発は明後日。
移動は無事に帰ってきてくれた魔馬車を魔馬さん達の代わりに白様が引いてくれることになった。
あのものすごく格好いい豹に似ている白い高位精霊獣さんのお姿で! やった! 魔馬さんにもいつか会えたら会いたいな。寿右衛門さんを介したらお話できたりして。
『我とマトイとナーハルテと茶色とでよかろうな』
「白様、私も参ります! マトイ様の召喚獣ということでいかがでしょう?」
人員確認をしていたら、聖魔法大導師様が挙手された。やっぱり本気だったの?
『聖教会の最高責任者が一人である其方が出てどうする。もし必要ならば精霊界に近いものがおろう。あやつなら第三王子を守護するだろうて』
「もしかして、あのお方でしょうか。」
え、ナーハルテ様、ご存じなの?
「あれですか……まあ、心技体のうち、技体は良いのですが、いかんせん、まだ未熟ですぞ?」
あ、大導師様、やっと赤髪紳士に変化された。やっぱり、どっちも格好いい。
『そもそも、いくら邪竜斬りとは言え、人の子。我と我が弟子の茶色がいて、これ以上は必要ない筈。ただ、朱色のものには一応声を掛けておこうかの。大導師よ、近いものには其方が告げるか?』
「そうですね、聖女候補セレンには聖魔法大導師と分かってしまうでしょうから。仕方ない、あやつには
うーん、そのお方、無事でいられるのかな。よーく、の中に何か色々入っている気がする。
『まあ、とりあえずこんな所か。明後日聖教会本部正面の初代大司教の石像前に朝10時に待ち合わせで良いか? ナーハルテは我と移動じゃ』
『了解しました』
「分かりました」
「宜しくお願い申し上げます」
「では私は見送りですね。魔馬車の点検と確認その他を徹底させておきます」
寿右衛門さん、私、ナーハルテ様、大導師様。待ち合わせ、ってなんかいいな。
『よし、あとは魔馬車の中で念話でよかろう。そしてマトイ。待たせたの。』
さっと風が吹いて、私のお気に入りのリュックが登場。色は濃い黒、お気に入り。あ、素材が微妙に変わってる。布がテント素材みたいに分厚くなってる。でも軽い!
『中身を全て確認するのは自室に戻ってからにしておくれ。とりあえず、何か一つ、出してみよ』
本当、相変わらずめちゃくちゃ軽いの。ノーパソとか入ってる筈なのに。
ファスナーとか金具はそのまま(っぽいけど素材はこちらの物なんだって!)で、ブランドロゴが白様に変わってる。シマエナガさんぽい! かわいい!
よいしょ、とファスナーを開いて(めちゃくちゃ滑りが良くて開けやすい!)中に手を入れて、出てきたのは…大豆!
すごい、ビニール袋から布袋になってる。巾着袋の大豆模様がかわいい。これは、おいしいおいしい国産大豆。毎週マンションの前に来てくれるお豆腐屋さんから買っていた。入れてくれたお姉ちゃんに感謝。
あとは絹と木綿のお豆腐と納豆もおいしかった。さすがに荷物には多分大豆だけ。
ふと覗いてみると、まだリュックの中に同じ布袋が入ってる? 一袋だった筈なのに。
『ああ、待たせた詫びじゃよ。マトイの荷物の消えものは全て、出した瞬間にまた増えるように設定しておいた。だから、状況が落ち着いたら我にも異世界の酒を馳走してくれるかの。増えはせぬが、すまほ、ぱそこん等は必ず其方の所に戻ってくるし壊れず、充電いらずじゃから心配ないぞ。どんな風に変化しておるかは少しずつ確認すると良い。たくさん入るようにしておいたから、亜空間収納はそうさの、山三つくらいは楽勝じゃ。そして、我の羽を付けておいたので、羽を使えばどこにでも持ち歩けるぞ。色や形、素材、我が付けた印も変化は自在じゃ』
山三つ分の収納。そして変化可能なリュック!
今は何となくだったから大豆が出てきたけど、これが欲しい、こんなのが欲しいと思いながら取り出したら、
すごい、ハイパーと同様、自動更新、進化もあるらしい。
今回はリュックがばっちりな場所だけど、例えば、他国のセレブリティがいらした時の出迎えに相応しい携帯品になってほしいとお願いしたら変形もしてくれるみたい。
うーん、キミミチ超豪華設定資料集ハイパーもリュックも、持ち主を置いて行かないでね。頼みますよ、本当に。
そして、白様の羽は存在自体が亜空間収納。すごすぎる。
実は、ナーハルテ様も既に持っていらして、常に身に付けておられるそう。
今までは学院長先生以外には秘密だったけど、白様曰く、ここにいる人達には話しても大丈夫。もしかしたら、また話してもいい方も増えるかも、って。
わーい、ナーハルテ様とお揃い!
そうだ、ナーハルテ様、大豆は召し上がるかな? とナーハルテ様繋がりでふと考えたら、
「だ、大豆!」
大導師様が叫ばれた。あ、まずい、鬼さんは豆は駄目?鬼は外になっちゃうのかな。
『違うぞマトイ。それは恐怖ではない、歓喜じゃ』
「そうです、マトイ様。聖教会本部にはコヨミ様が下さいました貴重な大豆が元となりました大豆畑がございます」
コヨミ王国、大豆はメジャーなんだ。
そういえば、勉強中に寿右衛門さんが届けてくれた豆腐も油揚げも美味しかったな。鍋いっぱいのお味噌汁、鰹出汁。
「そうなんだ。じゃあ、はい、どうぞ」
大導師様に差し上げる。リュックに手を入れて、もう一袋。すごい、本当に出てきた。
「これは、ナーハルテさ……ナーハルテに。そのまま食べても美味しいけど、おうちの料理人さんに活用してもらうのがいいかな」
「「は、はい……」」
お二人共、お目々まん丸。
めちゃくちゃ格好いい方とものすごくお可愛らしくお美しい方達なのでこれはこれで良いね。
『いや、茶色よ。マトイにこのリュックの使い方を教えておくれな。注意も忘れずに』
『はい、我が師。畏まりましてございます』
あ、あれ、駄目だった?
「マトイ様、この亜空間収納は、素晴らしい収納力と稀なる力を持つ様々な道具を有しております。頂いたこの大豆からも、力を感じますわ」
「……美味しいです。そして、これなら一粒で、軽傷なら治癒します。白様、何をされました?」
『我が師?』
『いや、ちょっとな。マトイが喜んでくれるかと思うて』
大導師様、寿右衛門さんの追求で、白様が答える。
なんと、リュックの中身全てに自動成長魔法が掛かる仕組みになっているらしい。
『大丈夫じゃ、中身達も空気を読めるからの、ここにいるもの達には全力を見せても大丈夫と知っておるのじゃ』
『そうですか、ならば、慈愛に溢れる我が主殿が例えば負傷した者に薬や包帯を、とお考えならば、ふさわしい効き目の物が出てくると?』
『そうじゃ』
「類い稀なるお心ばえのマトイ様が、召喚獣に褒美を下さろうとなされば、好みの飲食物等が現れる?」
『そうじゃ』
「深い好奇心をお持ちで活動的であられるマ……マトイ様が、もしも、ダンスを踊りたいとお思いになられたらば、そのご衣装が現出されるのでしょうか」
『マトイの持ち物に衣服が存在するからの。強く願えばその意に応えるであろう』
寿右衛門さん、大導師様、ナーハルテ様、皆様、私のことを過大評価し過ぎておられませんか?
私、何者? あと、中身さん達、空気が読めるの? そこはスルーですか?
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