40-非日常な日常と私
『はい、宜しいです』
よかった。何とか形になってきたらしい。1週間勉強漬けというと苦行の様だけれど、大好きなキミミチの世界の事を学ぶのは私には苦ではなく、むしろ楽だった。
愛読書、超豪華設定資料集ハイパー(我ながら……な名称だけれど何故か寿右衛門さんには褒められた)を熟読したら歴史や人物はばっちりだった。
その内容は、ゲームのキミミチの章と現実のコヨミ王国の章と別々に章立てされていて、興味深かった。(ゲームの章は勉強だから流し読み。いつか趣味娯楽で読破します)
すごいのは、これからどんどん新しい頁が自動で増えていくって事。
他にも、秘匿魔法とか所有者への帰還魔法とか、色々掛けてくれているらしくて、ひと言で言うとすごい本に進化を遂げたらしいよ、ハイパー。
『主殿にとっては良い魔法しか掛かっておりません』
寿右衛門さんがそう教えてくれたから、
「じゃあ、私以外には悪い魔法とかも掛かってたりして」
なーんちゃって、のつもりで言ったんだけど。
『左様でございます。さすがは主殿! 貴方様に害をなす輩に自動反応する魔法等もございます。まあ、それは追々』
追々なんだね、そうか。まだまだ秘密な魔法はたくさん掛かっているらしい。
……すごいね、超豪華設定資料集ハイパー(感心したからフルネーム)。
そうそう、意外と王子の勉強の地頭はかなりのものなんじゃないかな。
正直数学はばっちり、物理に似ている魔法理論なんかも普通にいけたけど、親切丁寧な寿右衛門先生の教えがあっても、理系科目以外は自力では厳しかったと思う。
……現世で、王子の才能が開花していたらいいな。お姉ちゃんとチュン右衛門さんならきっと王子を助けてくれてるよね。
『あとは魔法と召喚魔法の実践ですな。ただ、今日は休養日に致しましょう。食事と睡眠と軽い運動と休憩以外はほぼ勉強をしておられたのですから。お疲れ様でございました』
優しいな寿右衛門さん。
軽い運動で許可が出ている範囲内を色々見て回らせてくれたり、休憩の時に魔力で癒してくれた(何故か肌がピカピカになったよ)し、食事やおやつは美味しいし、睡眠時間は必要な分ちゃんと取ってくれていた。
これをお疲れ様と言っていいのかという内容だったのに。
『これから何が起こるか分かりませんからな。休める時は休んでおきませんと』
何かが起きる前触れっぽいけどお言葉に甘えますか。何しようかな。
試験勉強の対象ではないからさっと流し見ていたハイパーのキミミチの項目を読むとか。
視力回復と目の保護の魔法を寿右衛門さんが掛けてくれてるから息抜きにしてもいいよね。
勿論、今回は特別。私は魔力循環がまだ完全にできていないから、なるべくたくさんの魔法を体験した方がいいんだって。ただし、あくまでもきちんとした計画(白様作成)と術者(寿右衛門さん)がいるからできることなんだって。
だから、休むのも大事なんだけど。
あ、寿右衛門さんと街歩きとか駄目かなあ。
「ねえ、寿右衛門さ……ん?」
珍しい。いつも冷静で紳士然とした寿右衛門さんが固まってる。
あれ、いつの間にか目の前に小柄な人影。
騎士団員のどなたかのお子さんとか? いや、でもいきなり入室はおかしい。
ノックも気配も無かった。ただ、この世界ならいきなり転移で入室、はありなのかもしれない。
寿右衛門さんがぴしっと礼をしている(羽で敬礼!)から、相当な方のご子息、ご息女?
こういう単語がすっと出てくるのは第三王子様々だ。
いや、それにしてもきれいな子だなあ!
角度によっては金にも銀にも見えるきらきらした肩で揃えられた美しい髪の毛、同じ色合いの輝く瞳。つつきたくなるけれども我慢、のぷにぷにほっぺと色素は薄くてもつやつや健康的な肌。
かわいいとか愛らしいとかを全部足したらこんな感じなんだろうか。かっ、かわいい!いや、愛らしい? 絶句……。って感じなんだよ本当に。
あ、いや、ナーハルテ様のお小さい頃なら……って、私、今は妄想しないの!
目の前のかわいいさん(とりあえずこれで)は、伸びやかな肢体に上等な白の礼服をお召しになっている。
白い絹(だと思う)の靴下が少し覗いていて、黒の皮靴はきれいに磨かれていた。
こんな方がお一人って、まさか、騎士団が保護して騎士舎にお連れしたお子様とか? 急いで転移したから座標を間違えたとか?
「大丈夫、危ない事はされてないよ。座標はここで合ってるの。お友達に頼まれたから黒曜石の子、君を迎えにきたよ。紫の子を助けるお手伝いをしてほしいの」
声もかわいい! 鈴を転がすような、っていうのかな。あ、でもこれ女性の美声を例えてるんだっけ。
……あれ、黒曜石って、
『お待ち下され精霊珠殿! それならば、あ、主殿だけではなく、私もお連れ下さい!』
「うんいいよ。茶色ちゃんも一緒に行こう」
……せいれいじゅどの。
え、今なんかすごい言葉が聞こえた気がする。あと、寿右衛門さん、前世と転生後の修行年数も数えたらかなりのお歳のはずなのに、ちゃん呼び。
本当にコヨミ王国の至宝のうちの一玉、いや、今はお一人? とりあえず、普通に話していいの?
一応、私、今は王家の者だからいいのかな。あと、そう言えば私、初代国王陛下の血族だった。
「あ、あのう、お友達のお名前は?」
「お名前は直接お聞かせしたいから内緒にしてねって言われてるの。お仕事の役職は教えて差し上げてねだって」
「あ、お仕事をされている方なんだね」
これは王立学院学院長先生に続く大物か? 王家の方だったら必ず告知があるはずだからこれだけは安心だ。
知識はあるけど実際会わないと人物と脳内のデータ(第三王子の記憶と私の知識ね)が結びつかないんだよ。ハイパーが成長したらその辺りも助けてくれるのかも知れないけれど。
「うん。聖魔法大導師さんだよ。それじゃ、行くよー! あと、転移中は念話にしてね。舌をかむと痛いし危ないよ。聖魔法の瞬間転移陣だからすぐだけど」
それは危ない。
寿右衛門さんは雀さんだから舌には特に気をつけて。
……いや、舌切り雀じゃないんだから!寿右衛門さんは大丈夫でしょう。
それより、せいまほうだいどうしさん、って言った! 聖魔法大導師様のことだね、うん。
聖教会本部の大司教様と並ばれる聖教会の最高峰。王国のみならずこの世界随一の聖魔法の術者とも言われているお方。
まだ超豪華設定資料集だった頃に読んだ項目にあったなあ。
そうだ、思い出した、超豪華設定資料集、コヨミ王国の至宝、精霊双珠殿の項目。
……人に変身されたお姿は筆舌に尽くしがたいかわいらしさ、って書いてあったよ。その通りだった!
イラスト付きじゃなかったから、分からなかったよ!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます