34-ありがとうとさようならとこれからと俺

「ナーハルテ公爵令嬢、聖女候補に対する平民差別とは愚劣なる行い! ここで第三王子たる僕との婚約破棄を……」

 このままではナーハルテへの断罪劇場が本当に始まってしまう。

 それは困る。頼む。間に合ってくれ。

 ……そう、俺がまだコヨミ王国第三王子ニッケル・フォン・ベリリウム・コヨミで在る間に。


『そうじゃ、それで良い。

 やった! 白き高位精霊獣殿のお声だ。


 ……間に合った!


『ナーハルテ様、こよみまとい、貴女の為に異世界から参りました!』

 初代国王陛下のお名前を持つ方は、コヨミマトイ様と仰るらしい。

 ……この方は、本気でナーハルテを助ける為に遠い異世界へといらして下さったのか。


「婚約破棄……する訳ないでしょう! ナーハルテ様のこの美しさ! 賢さ! 白金プラチナの髪の毛は綺羅星の如く、白金の瞳はその気高きお心を映して輝いて! そんな方と婚約できただけでも幸甚なのにお願いした立場で破棄? どこのまぬけ野郎ですかそいつは!」


 笑ってしまった。

 痛快なことを仰る方だ。


 ……これは多分、第三王子おれに転生することは理解しておられないな。転生された体が俺だと知ったら、さぞや驚かれることだろう。


『第三王子殿下、わたくしの婚約者であられたニッケル・フォン・ベリリウム・コヨミ様。良き旅路をお進み下さいますことを祈念申し上げます。わたくしは、貴方を信じております。ありがとうございます』


 俺の婚約者人、ナーハルテ・フォン・プラティウム筆頭公爵令嬢は、つくづく素晴らしい。

 会話をしなくても、ある程度を理解してくれている。


 そうそう、異世界の方。

 まぬけ王子こいつに言われても、という感じだろうが、礼を述べておこう。


『あー、すまない。俺の代わりにこれから宜しく。異世界の君の周りの方々は俺が守るから! ナーハルテを宜しく頼む。できたら俺の友人達も。この世界に来てくれてありがとう。第三王子ニッケル・フォン・ベリリウム・コヨミが礼を言う。コヨミ王国初代国王の血縁のお方』


 当然だが、異世界からの転生人殿は仰天されていた。


 白き高位精霊獣殿が説明がなかったことを釈明されている。姉君へのご説明もまだのようだ。まあ、これは何とかしてもらわないとな。


 ああ、この国との別れの時に、実に面白いものを見せてもらった。ナーハルテが異世界の方の言葉で赤面しているとは。

 ほとんど分かる者はいないだろうが、俺には分かる。あれは動揺している表情だ。


 もともとこの国のために役立てるならば、と思って決意した異世界転生だが、あの方の体に転生するのが楽しみになってきた。

 ……俺にも、何か新しい出会いがあると良いのだが。


 白き高位精霊獣殿は、道中、俺には異世界の説明をして下さるのだろうか。


 どちらにせよ、この旅路は良いものになりそうだ。


 皆、ありがとう。

 ……そして、さようなら。


 皆のこれからが、安らかでありますように。

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