31-ダンスパーティーと第三王子殿下と断罪とわたくし
本日は、王立学院二年次終了前のダンスパーティーです。
わたくしことナーハルテ・フォン・プラティウム筆頭公爵令嬢の婚約者であられるニッケル・フォン・ベリリウム・コヨミ第三王子殿下は、わたくしの色、
王宮から頂戴しましたわたくしのドレスも王子殿下の色、
王子殿下のファーストダンスのエスコートも、パートナーとして行われたダンスのホールドも、意識を高く持たれた見事なものでした。
楽曲に合わせて、ワルツの3拍子のリズムに合わせて背筋を伸ばし、わたくしを丁寧に支え、ダンスを踊らせて下さいました。
そして、ファーストダンスの終了と共に、わたくし達は会場の拍手で送られたのです。
続くセカンドダンスはスズオミ・フォン・コッパー侯爵令息と聖女候補セレン-コバルト様が踊ります。
「ありがとうございました、王子殿下。素晴らしいひとときでした」
隣に立たれる殿下に、わたくしはつい、お声掛けを致しました。
すると、第三王子殿下はこのように仰いました。
「これから俺は、君を苦しめるかもしれない。だが、必ず君を助ける人が現れる。君はいつも、俺を信じてくれていた。最後にもう一度、信じてほしい。……尊敬する、貴女に」
真剣な表情であられます。
「……最後? 何を仰いますの?」
セカンドダンスの前奏が始まってしまいましたので、お尋ねする間もなく、わたくしは正面を向きました。
最後、とは何のことでしょう。
まさか……。婚約関係のことでしょうか。
確かに、わたくしと王子殿下の婚約は順風満帆だったとは言い難い関係ではありますが、それでも近頃は、ライオネアを交えた勉強会など、少しずつ穏やかなものになってきておりました。
殿下の勉学への姿勢も、以前のお姿とは比べるべくもございません。
もし、その真摯なお姿が、今セカンドダンスを踊られている聖女候補様の為であるのならば、きちんと筋立てをされてお申し出頂ければ、わたくしの生家、プラティウム筆頭公爵家は婚約の延期や解消など、諸々を検討させて頂くことでしょう。
今、お互いの家を挟まずに語ることではありません。
「ライオネア・フォン・ゴールド公爵令嬢。済まないが、サードダンスは譲ってもらおう」
「何を仰っておられるのかな、第三王子殿下」
わたくしが思案しております間に、コッパー侯爵令息と聖女候補セレン-コバルト様のセカンドダンスが終了していたようです。
第三王子殿下がこのように言われ、ライオネア・フォン・ゴールド公爵令嬢がそっとわたくしを引き寄せ、守護者のようにしてくれておりました。
その表情が、僅かながら、険しさを示しています。
聖女候補様が数ヶ月の間に王立学院で学ばれた礼法の確認と、獅子騎士様に憧れる学院生の為に、聖教会からの許可を頂いた上で、わたくしの親友ライオネア・フォン・ゴールド公爵令嬢は、本日は男性の礼装で女性達のエスコート役を請け負っております。
聖女候補様も、聖教会の礼装を召されています。
サードダンスをわたくしと踊り、あとは彼女の持つ手帳の順番で、数多の女子学院生と踊り出すことが決まっております。
この進行内容は、事前の打ち合わせで確認された筈です。
それなのに何故、第三王子殿下はサードダンスを譲れ、とライオネアに仰っておられるのでしょうか。
尋常ではない雰囲気を察して、サードダンスの前奏が幕間の曲に変えられました。有難いことです。
その間に、わたくしがこの場を収めませんと。
少しだけ、体が震えてしまいました。
『焦るでない。今すぐに、黒曜石のものがそちらに向かう』
この荘厳なるお声は、
確かにお声が聞こえました。
しかしながらそのお声は、わたくしにのみ、聞こえたようです。
黒曜石の御方が、こちらに!
それでは、王子殿下の仰った方、助けるお人とは、もしやあの御方なのでしょうか?
……あの御方は、幻の中に住まう御方ではなかったのですね!
そう、殿下はこうも仰いました。
「もう一度、信じてほしい」と。
心の中がすっと、落ち着いて参りました。
あの御方にまたまみえることができるのであれば、わたくしは第三王子殿下が辛いことを仰られても、きっと、この場に立っていられる筈です。
そう、確信致しました。
「皆の者、聞くが良いぞ! 僕、コヨミ王国第三王子、ニッケル・フォン・ベリリウム・コヨミは、ここに於いて、婚約者ナーハルテ・フォン・プラティウム筆頭公爵令嬢の断罪を執り行う!」
……断罪。
会場がざわめきます。
ライオネア以外の盟友達も、それぞれの婚約者様達と共にこちらに来てくれました。
コッパー侯爵令息だけは、第三王子殿下と共にあります。
殿下の隣には、セレン-コバルト様が。何故か、殿下の手を取られています。
殿下はサードダンスを聖女候補様と踊るおつもりだったのでしょう。
これから、断罪と言う名前の何かが始まるようです。
しかしながら、わたくしには、もう震えはございません。
そうです。
第三王子殿下が信じてほしいと仰るそのお言葉と、黒曜石の御方の面影が、わたくしにはございますもの。
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