30-雀さんと見送りのあたし
「お姉ちゃん、行ってきます!」
よし、行ってこい!
お姉ちゃんは、まといの背中を押すよ。もっのすごく! さみしいけどね。
『それではの。約束するとは申せずすまぬが、姉君とマトイが連絡を取れるように最善を尽くす故』
ありがとう雀さん。お迎えが貴方でよかったよ。
たぶん、本当にぎりぎりまで待っててくれたんだよね。もうすぐ午前零時。明日になる直前に出発だね。
「精霊さん、本当に、異世界で私が転生する方は、お姉ちゃんに嫌な事とかしませんよね?」
これは、まといが何度も何度も確認したこと。
『うむ。間違いない。我が保証する。必ずや姉君を敬うものだ』
雀さんの答えも変わらない。
やっぱり、いい人なんだね、異世界からの同居人さん。
……あたし、あんまり敬われても困るんだけど、まあ、それは追い追いということで。
「お姉ちゃん、皆によろしくね! あ、あと、恋人さんに一度会いたかったな! 妹がよろしく言ってましたって、ちゃんと伝えてね!」
ああ、それは。
「『大丈夫』」
あたしと雀さんの台詞がかぶった。
「え、私恋人さんを見たことあったの? お姉ちゃんのオンライン飲み会で挨拶した人達の中に居たの?」
「まあ、雀さんが大丈夫って言ってるんだから安心しなさい。それよりほら、なんか光ってるよ」
「あ、うん。雀さんが言うなら大丈夫なのかな。……え、あ、本当だ。私、光ってる! すごい! あ、お姉ちゃん、チュン右衛門さん、行ってきます!」
『ありがとう。姉君、そして、若き茶色のものよ。世話になりもうした。マトイのことは任せてほしい。……さらば』
「
住宅ローン絶賛返済中の2LDKのマンションのクリーム色の壁に吸い込まれるように、膨らんだリュックを背負った光るまといは消えていった。
……最後に見た顔が笑顔で良かった。あたしの顔も、そうできていたと思う。
「あ、危ない」
壁にもたれかかっているリュック無しになったまといの体を支えて、横たわらせる。
後で、部屋に寝かせてあげよう。
「あー、何とか落ちついた」
見送りのやり直しみたいになっちゃったけど、こんなのもいいよね。おかげで泣かずにすんだよ。
あたし、上手く笑えてたかな。お姉ちゃんらしくできてたかな。
チュンチュンチュン。
大丈夫。そう聞こえた。もう美声の日本語じゃないけど。
「異世界からの人が来るまでいてくれるのかな? ありがとね」
ぺこりん。おじぎがかわいい。
愛する妹は、異世界に飛んだ。
雀のチュン右衛門さんは、精霊さんに体を貸すというお役目が終わったのに、まだあたしの隣に居てくれるつもりらしい。
渋い美声じゃなくなったけれど、チュン右衛門さんはやっぱり紳士な雀さんだった。
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