29-大切な婚約者と旅立つ俺

 王宮主催のパーティー程ではないが、きちんとした正装。婚約者に対して礼を示したエスコート。


 王立学院高等部二年次終了前のダンスパーティー。


 拍手と共に、手を取り入場。


 ファーストダンスは俺、第三王子ニッケル・フォン・ベリリウム・コヨミと婚約者ナーハルテ・フォン・プラティウム筆頭公爵令嬢が踊る。


 パートナーをきちんとホールドする。

 楽曲に合わせて、ワルツの3拍子のリズムに合わせて背筋を伸ばし、華麗に、美しく。


 王立学院のパーティー用ダンスホール。

 天井のシャンデリアがきらめき、耳目が俺の婚約者に集まる。


 そうだ、彼女は誰よりも凛々しく、美しい。俺には眩し過ぎた白金はっきんの光彩。


 異世界の転生人殿が、君を更に照らしてくれたら良いのだが。


 生まれて初めて、俺は大切な人を輝かせるために踊っている。


 今日の俺は飾り。ただひたすら、彼女を美しく魅せる為の。


 口には出せないが、謝りたい事は幾つもある。

(ありすぎだ)

 ……少しでもこのダンスで伝わればいいが。


 婚約者としての初めての顔合わせの時、君の目を見なかった事。

(白金の美しさに戸惑った)


 王立学院入学式の際に、代わって挨拶をしようとした事。

(君にしては緊張しているように思えた)


 召喚大会で事故召喚を招いた事。

(面目次第もない。ひたすら調子に乗った)


 あっという間のダンス。万雷の拍手。


 次は、スズオミ・フォン・コッパー侯爵令息と聖女候補セレン-コバルトが踊る。


「ありがとうございました、王子殿下。素晴らしいひとときでした」


 ナーハルテが礼を言ってくれた。

 今日の俺は、婚約者をきちんとエスコートできたようだ。


 ありがとうございました、か。


 こちらこそ、だ。

 そして。


「これから俺は、君を苦しめるかもしれない。だが、必ず君を助ける人が現れる。君はいつも、俺を信じてくれていた。最後にもう一度、信じてほしい。……尊敬する、貴女に」


「……最後? 何を仰いますの?」


 疑問に思うだろう。当然だ。


 それでも、セカンドダンスの前奏が始まり、彼女は正面を向いた。……さすがだ。


 こっそりと横顔を見る。

 やはり、ナーハルテ・フォン・プラティウムは美しい。


 最後に、この白金の輝きを見られてよかった。


 もう少し。あと少しで俺の旅が始まる。


 ありがとう。さようなら。大切な婚約者。


 どうか、これからも、君の白金の輝きが曇りませんように。


 ……異世界の地からもきっと、俺は願うよ。


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