28-異世界に転生する妹とあたし

 連休8日目、残り1日。

 ……明日は最愛の妹の、運命の日。


『魂の転生になるでな。マトイが心配することにはならんぞ』

「本当ですか! お姉ちゃんが頑張ってローン返してるこのマンションが事故物件になるのは! と思ってたから安心しました」


 二人の家が事故物件になることはないらしい。


 あたしは異世界の同居人をむかえる訳だ。

 妹はゲームには全く出てこないすご腕の女性騎士団員とかかな、とか言っているけどそうなるとナーハルテちゃんを物理的にお守りすることになるよね。

 それでもいいのだろうか。いやたぶん、いいのだろう。


『姉君、コヨミと連れ合い殿の墓に参らせてもらえたこと、心より感謝申し上げる。ご家族にお会いできたことも嬉しく存ずる』


 異世界からの精霊さん(かもしれない)雀さん。ものすごい美声。

 よく出来たぬいぐるみのふりをして一緒に田舎に行ってお墓参りをしてきた。もうさすがにあたしもこれは現実だと思っている。


 いつの時代のご先祖様かは判らなかったけど、雀さん曰く、

『確かにコヨミの『気』を感じた。間違いない』そうだ。


 ……ご先祖様達も嬉しかっただろう。


 まといは仕事の関係で遠くに行くことになるかも知れないのでいきなり来ちゃった、な感じだったが、何だかんだで家族と話は色々できた。


「お姉ちゃん、実家に誘ってくれてありがとね! 行ってよかった!」


 1泊2日で急いで移動して戻って来て、まといは在宅でできる仕事をやれるだけ片づけて、今は荷造りをしている。


 雀さんが、

異世界こちらでは平生の力が出せぬですまぬが、少しでも』

 と、体力回復と気力回復じゃ、とかわいい茶色の全身を輝かせたら、仕事中のまといの動きがなんかすごくなってた。


 五人くらいいるみたいな動きでノーパソカタカタ。

 ついでにあたしも恋人との旅行先→帰宅→実家→帰宅の疲れが消えてた。すごい。雀さん、これが本気じゃないのか。


「なんか半年分くらい仕事できた。これなら准教授がだらけても私の次の方が慣れてくれるまで持つかも……。ありがとうございます妖精さん!」

 まといはめちゃくちゃ感動している。


『よいよい。とにかく一番の気に入りの鞄に、荷物を詰めなさい。封がしまらなくとも良い。我が何とかするでな』


 雀さんがそう言うので、一番大きなリュックにまといが一番好きな銘柄のビールと焼酎、あたしのお土産のご当地ビール。

 あとは、好みのふりかけと焼き海苔と味付け海苔とカップ麺とカップうどん、それと毎週マンション近くの公園に来てくれるお豆腐屋さんのおすすめ国産大豆(おやつとおつまみ用)を詰めさせた。


 ……ゼリーとか、常温保存のものを他にも色々入れてあげよう。

 スマホも入れていいらしい。あとは愛用のノートとペンケースとノーパソ。

 ……これ、いいの?


『大丈夫じゃ。あちらに相応しい魔道具に変換されるでの。書物も持つと良いぞ』

「じゃあ、キミミチの超豪華設定資料集と愛読書を何冊か。まだ入るね。スマホに入ってるのは読めるのかなあ」


 読めるかどうかは分からないけれど、できるだけダウンロードしていきなよ、とまといに言う。あと、音楽も。


 あたしは、そうだ、無制限に入るなら、と非常袋から非常食、常備薬、簡易救急セットなどの諸々と、冷蔵庫に常備しているミネラルウォーターとスポーツドリンクも入れさせた。


 キミミチの中で日本食らしいものは普通に食べられていたのでお米は少しだけ持たせることにする。あと調味料! 

 それから、手ぬぐい、タオル、軽い着替え。下着とか、他にも……。

 あ、薬と箱ティッシュ、トイレットペーパーも!他にも思い付く限り、入れておこう。


 どんな人に転生するか分からないけど、あってもいいでしょ。誰かの、何かの役に立つかも知れないんだから。


 もっともっと、色々入れてあげよう。


 念の為帰省帰りの駅ビルで100均に寄って正解だった。他にも異世界でまといが驚く位沢山入れるぞ!


「なんだか軽装の引っ越しみたいだね」


 言ってしまってからあたしはしまった、と思う。


 ……引っ越しみたいだけど、場所が場所なのに。


『念の為に聞くが、姉君、マトイは本当に異世界に転生することになるが良いのかな?』


 雀さん、不意打ちだよ。たぶん、心読んでるよね?


「いい……わけないですよ。でも」

 そうだ。いいわけないじゃん! 大好きで大切な妹だよ?


 ……でも。


「妹が、あんな嬉しそうだったの、初めてなんですよ」


 そう。


「え、じゃあ、ナーハルテ様の幸せのお手伝い出来るんですか?」

 2日前、雀さんと普通に会話をしているまといを大物だと思った。


 だけどあれは、ゲームの中の思い人を助けられる嬉しさから、無意識にしていた会話だったんだ。


「雀さん、本当のこと言って下さい。まといは、行きたがってますか。いませんか。雀さんなら、分かるんでしょう?」


 これでいい。


 あたしと現世こっちにいたいか、異世界あっちに行きたいのか。


 ……まといの意志を尊重するよ。


「お姉ちゃん…あたし」

『姉君』


行きたい『行きたいと』


 ほらね。分かってたよ。


 ……だってあたしは、お姉ちゃんだから。

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