27-パーティー直前のあれこれと僕達

第一ファーストペアは確定なので、決めなければいけないのは第二セカンドペアだな」


 ここは、王国騎士団副団長の父上と僕ことスズオミ・フォン・コッパー侯爵令息が暮らすコヨミ王国騎士団特級騎士舎の談話室。

 防音等も申し分ない。父上に借りて頂いた。


 それにしても、

「私は団長殿と本気の戦いでも生き残る自信ある。お前がライオネア殿と本気で戦っても生き残る自信ができたら言うといい」

 許可を頂いた際にこう言われたのだが、これはやはり、婚約解消を願い出るのは命懸けだから心せよ、と言うことだよな。


 しかも、もし生き残れても僕には元金階級の冒険者殿がお控えだ。


「あたしのパートナー、やっぱり、コッパー様なんですよね」

 今まさに僕が思っていたその人物、元金階級の冒険者、今は強すぎる薬師と言われる父君を持つ平民の聖女候補セレン-コバルト。

 あからさまにがっかりしないでくれ。まあ、きちんとコッパーと呼んでくれているのは及第点だが。


 ファーストダンスは第三王子殿下たるニッケル・フォン・ベリリウム・コヨミとその婚約者ナーハルテ・フォン・プラティウム筆頭公爵令嬢のペアで確定なので、セカンドを誰が踊るかを確認しておく必要があったのだ。


「やはり、スズオミと聖女候補殿に踊ってもらうべきだろう。そして、三番手を自分が務めれば良かろう。なにしろ、自分のお相手は多いからな」


 ライオネアが予想通りの事を言ってきた。

 彼女はダンスのパートナーの順番を手帳で確認している。ちなみに、全員女性だ。

「そう言えば、ダンスのパートナーを記した手帳は女性が持つものだが自分が持っても良いのだろうか」

 真顔で言われたが。

 ……どう答えたら正解なんだ。


「いいんです! ライオネア様ならなんでも許されます! あ、私も踊って頂きたいですもの!」

 自信満々でセレンが応える。

 本音が漏れてはいるが、自分からはダンスに誘っていないからぎりぎり許容範囲か。

 いや、礼法の試験なら赤点だ。


「そうか、ありがとうセレン嬢。もし君の手帳に空きがあれば、自分ともぜひ一曲踊ってくれ給え」

「は、は、はひっ。じぇ、ぜひ!」

 セレンは、それではまた、と簡易転移陣で退出したライオネアの残像を潤んだ目で見つめている。


 ……自分から誘った事にしている辺り、我が婚約者ながらライオネア、恐ろしい女性ひとだ。


「ああ、素敵。もしかしたら、本当に踊って頂けるかも……」

 おい、君、本気でダンスパーティーを楽しみにしていないか? 僕達も打ち合わせをしないとだろう?


 もうすぐ、親友との別れの日。

 ……いや、出立の日と言うべきだな。


 聖教会本部、聖魔法の王国一、もしかしたらこの世界で一番の遣い手であられる聖魔法大導師様からの許可を頂き、僕、スズオミ・フォン・コッパーは婚約者ライオネア・フォン・ゴールド公爵令嬢ではなく、聖女候補セレン-コバルトをダンスパーティーにエスコートすることとなった。


 聖女候補の礼法の確認と王立学院の子女の憧憬のひとつを叶えるためという学院長先生のご提案を聖教会本部にご理解頂けたという形だ。


 セレンの礼法はともかく、子女の憧憬とは何ぞやと思われた方もおられるだろう。


 男性の礼装の獅子騎士様と一曲でいいから踊りたい(礼装でなくても嬉しい)という切なる願いだ。

 これが、年に数回行われる聖教会本部の聖教義会の後の相談会の際にかなりの数の相談が寄せられていたらしく、許可が下りた。


 聖女候補に含意がないと確認されたのも大きかった。

 邪な感情があればすぐに露顕する術式が込められた書簡が聖女候補から聖魔法大導師様に渡され、その結果、委細問題なしとされた返信が彼女の手を介して王立学院学院長宛に届いている。これ以上の保証はあるまい。


 セレンの郵便配達はやはり超大物同士のやり取りだった。


 つまり、あの『乙女げーむ』の聖女候補のように、セレンがありもしないでっち上げで婚約者の座を奪おうとするような女(失礼だがこう呼ばせて頂く)なら不可だったという事だ。


 それにしても、僕に断罪劇場の演技などできるのだろうか。


 事情を知らないライオネアは実に楽しそうだった。


「学院長先生と聖教会本部のご判断だろう? 当然了解しているよ。父上からも聞いているし、自分と踊りたいと願ってくれる女性がそれほどとはね。ところで、平民の学院生ならリフトをしても許されるだろうか? 本人だけではなく、ご実家の許可も取るべきかな」


 先日、楽しそうに言われた。

 ライオネアの男性パートのダンス練習中にだ。僕が女性パート。リフトもしてもらったとも。決まっていたよ。

 お見事です、と、ダンスの先生のお墨付きだ。笑いたい方は笑ってくれ。


 だが、ライオネアの練習相手を女性が務めるのは、色々な意味で危険だ。 特に、女性の心臓が。

 本人は万が一の為に僕に頼んだようだが、

「そうか。やはり自分が持ち上げたら高すぎて萎縮させてしまうな、控えよう」と言われた。


 ……多分、ライオネアは女性達の感情の機微はあまり分かっていない。


「殿下とナーハルテ様が踊ったら、あたしが殿下のところに行って、無理やり踊ろうとするんですよね。ただ、あたし達も一曲踊ってからの方が良くないですか?」

「ああ。とにかく、ライオネアが踊る前に片を付けないと」


 獅子騎士様と踊るはずの令嬢達が全員心労で倒れでもしたらどうなることか。


「そうですよね。あたしも踊って頂けるかもかもしれないんだし! 頑張らなきゃ! あー、それにしても、聖女候補のダンスパーティー用のドレスを貸与されたの嬉しい!あの『乙女げーむ』のくそダサいハデハデなやつ着るとか、嫌すぎでしたもん!あ、あとの為に!」


 やっぱり、ライオネアと踊るのが一番なのか。


 まあ、でも、そう言ってもらえると、ニッケルも嬉しかろう。その為にも、この最終確認は大事だ。


「セレン、学院一般寮への対処は出来ているね?」

「ばっちりです」


 学院長先生に伺った『乙女げーむ』の人気の展開の一つに、断罪された罪のない婚約者(悪役令嬢と言うらしい)が、性悪ヒロイン(本来は主役の女性)に対してざまあ、という勧善懲悪をするものがあって爽快らしいのだが、目指すのはその展開だ。


 だが、僕達の断罪対象は別にいる。


 ……そうなる事も知らないで、ざまあされる連中は今頃枕を高くしている事だろうなあ。

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