24-キミミチとイケボな精霊(?)さんと姉と私
「ただいまー! あ、やってるんだねゲーム」
連休6日目。残りあと2日。
姉が帰ってきた。イヤホンしてたから気が付かなかったよ。ごめんなさい。
「いいよいいよ。予定より早いしね。セーブできるの?」
完全攻略後に見られるギャラリーだから大丈夫。
電源を落とすと、姉が旅行先で撮った写真を次々にスマホで見せてくれた。でも、相変わらず恋人さんとの写真がない。
「二人の写真は恋人さんのスマホで撮ってるの? お姉ちゃんのスマホの写真、風景ばっかりだね」
「うん。ごめん、必ずそのうち紹介する。まといに大切な人ができたらね。男女どちらでも」
真剣な表情で言われてしまった。妹思いな姉だから、願掛けでもしてくれているのかな。
あと、相変わらず性別不問なんだね。お姉ちゃんらしいな。
「有難いんだけど、今一番夢中になってる人って、ゲームのキャラクター……」
「そっかー。その人が現実に存在したらいいのにね」
自分でもここまで、というくらいの夢中ぶりなのだが、慰めとかではなく、本気で言ってくれている。
……私はこの姉が大好きだ。
「旅行中にホテルで少しあたしも調べたよ。まといの好きな子。いい子だね。ちょっと年下だけど、まといは高校生にも見えるし。この子なら安心して妹を任せられる」
いつの間にか並べられた旅行先の限定缶ビールと厳選おつまみと冷蔵庫に常備しているチェイサーのミネラルウォーターとスポーツ飲料。
……既に1缶空けている。
姉も私もお酒は好きでわりと呑むけど自分達の適量しか呑まないから大丈夫。
私はキミミチの話をしたいから今日はビールはやめておいた。
「お姉ちゃんもそう思う? そう、ナーハルテ様って若いけど頼りがいあるんだよね。でももっと周りを頼ってほしいんだよ! あ、そうだ。今朝電話くれた時に騒いだから恋人さんに怪しまれてないか心配だったんだ-」
「だから大丈夫だって。説明したでしょ、相手もこのゲームやってて、ハマってたって言ってたし」
今朝、チェックアウトしたよーと姉から電話がきたとき、よりによってナーハルテ様の召喚大会をやり直していたので、
それならなぜまた姉の帰宅時にやっていたのかと言われる方もおられるだろうが、ギャラリーだったし、到着は本来、今日の晩の予定だったのです。
姉が聞いてくれるのが嬉しくて、謎展開の話までしてしまったら、
「まといがナーハルテさんのこと好きだから見えた特殊な展開とか? まあ、ラッキーでいいんじゃない。その後ゲームできてるんだから」
「そうだよね、幻でも謎でもナーハルテ様を多く見られたことに感謝しよう。お姉ちゃんに話して良かった」
姉と話すのは楽しい。
呑まなくても嬉しくて楽しい。
ちなみに今はまだ夕方になりかけの時間帯。
ベランダのプランターの虫を食べに来た雀さんがチュンチュン鳴いている。
「あ、チュン
雀のチュン右衛門さんは、うちのベランダによく来る雀さんだ。最初の頃、雀は雑食だからプランターの野菜を食べられちゃうかな対策しないといけないかなと二人で話していたんだけど、びっくりするくらい紳士的(性別不明ですが)な雀で、虫以外食べないしベランダを汚さない。
たまにパンくずをあげるとチュンチュン、とお礼っぽい鳴き方をする。頭も下げてくれる。
鳩やカラス(!)を追い払ってくれたこともあるし、カーテンを閉めていて誰も気付いてなかった突風を教えてくれたこともあるのだ。お陰で洗濯物が飛ばずに済んだ。
本当にびっくりするくらいの賢さ。だから雀、ではなく雀さん、になり、名前も付けた。二人でふさわしい名前を考えた。
「あ、本当だ。チュン右衛門さん、お久しぶり。今日帰宅しました」
姉がビールを置き、片手を振った。
……すると。
『お初にお目にかかる。我はこことは異なる世界の精霊界に住まうもの。今はこの茶色のものの体を借り、会話をしておる。さっそくで申し訳ないが、其方の妹御に異世界への転生をお願いしたく、参上いたした次第。話を聞いて頂けるだろうか』
「……まとい、ごめん。お姉ちゃん旅行で疲れてたみたい。いくらなんでも缶ビール1缶で酔うなんて。水分取ったらすぐ寝るよ。キミミチの話、また聞かせてね」
ううん、お姉ちゃん多分酔ってないよ。
チュン右衛門さんがベランダからワープしてきてもっのすごい渋くて超絶イケボな声で話してるの、1口も呑んでない私にも見えてるし、聞こえてるから。
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