17-剣術大会と婚約者殿と自分

 カキ、カキカキ、カキン。


 広い大会会場に剣戟けんげきが響く。


 昨年より遥かに打ち合いの回数が多い。

 王立学院剣術大会決勝戦。

 相対するは自分こと前回優勝者ライオネア・フォン・ゴールドと、前回準々決勝出場者スズオミ・フォン・コッパー。


 厳重に防御魔法を付与された面で顔を保護され、更に全身も同じ様に防御魔法に守られた試合用の簡易鎧を着用しているので、事情を知らない者が見たならば、公爵令嬢と侯爵令息の試合とは思うまい。


 キン、キン、ギン。

 刃を潰した試合用とは言え、重ねた剣が衝撃波を生む。


 自分も鍛錬を重ねてきたが、やはり、今年の婚約者殿は昨年とは気合が違う。

 第三王子殿下以外の、大切な存在ができたからだろうか。


 ……嬉しい。そして楽しい。

 このまま時間まで打ち合いたい所だが、そうも行くまい。


 ガキン。

 力を入れて、思い切り振り下ろす。この為に滅多にない社交の時には30キログラムの負荷を付けた魔法扇を携えているのだ。


 勿論、負荷が掛かるのは自分だけになる様に重力魔法を掛けている。請われてドレス姿で女性と踊る事も、緊急時に馬や騎獣に乗る事もあるからだ。因みに、敵には自動でいっそうの負荷が掛かる様になっている。


「何の!」


 驚いた。婚約者殿は、この攻撃に耐えている。てっきり、相手の剣を弾き飛ばせると思っていたのだが。


 返す剣で振り下ろされた。自分の肩口ががら空きなのだろう。

 しかし。


 瞬時に体勢を整え、自分は……飛んだ。


 そして婚約者殿……否、スズオミの頭部に一刀。


 カラン、カラカラ……。


 スズオミの手から剣が落ちた。


 ガクリ。膝から落ちかける……だがまだまだ立っている。素晴らしい!


 もしかしたら、まだ戦う気か?


 念の為戦闘体勢を取り、待つ。


 そこに、声が掛かった。


「時間です。試合規定により、優勝者、ライオネア・フォン・ゴールド公爵令嬢!」


 そうか、一定の時間、剣から手を離した時は敗北。

 これは試合だ。つまり、規定ルール内の戦い。


 いつの間にか忘れていた。それ程の戦いだった。


「ありがとう、


 面を外し、自分は手を出す。

「昨年は済まなかった。冷徹筋肉などと。君は強い。また試合を申し出ても良いだろうか」


 スズオミが、握る。

「無論だ。だが、あのあだ名は自分には尊称だ。筋肉も冷静さもまだまだ足りないが。これは返上するつもりはないぞ」

「かなわないな」


 面の下で、スズオミが笑っていた。


 会場から、拍手と歓声が聞こえた。


 自分達は、手を振ってそれに応えた。


 ……皆の声援に感謝を。

 スズオミも同じ様に思っているのだろう。


 多くの人が、自分達を称えてくれている。


 その中に、勝利を捧げると誓った親友の顔も、確認する事ができた。

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