18-ライオネア・フォン・ゴールド様と獅子騎士様応援会の私

「素晴らしいご活躍でしたね」


 隣席の、獅子騎士様応援会に所属する女子学院生に声を掛けられ、私は心から頷きました。

 本当に。本当に素晴らしい!


 皆さんは剣術大会の決勝の感動の嵐の中ですから、私が少しだけ回想に耽りましても、どなたも気にはなさらないでしょう。


 私の名前はサマリ・フォン・ランタン。男爵令嬢です。父が男爵家の家長で、母が王国騎士団の会計部の部長を務めております。


 母のおかげで学院にも近い騎士団の騎士舎に住む事ができております。その為に男爵位ではありますが、平民いじめの噂もある一般寮のお世話にならずに済みました。


 母が幼少期から会計の計算機器等に触れさせてくれ、父もそれを是とする性質の人だったので、会計分野の技能は高いと自負しております。その技能と母の縁で、学院高等部の皆の憧れの君を応援させて頂く獅子騎士様応援会の事務局長を担当させて頂いております。


 あれは中等部卒業間近の時でした。

 母がいつになく神妙な表情で、

「高等部に入ったら高位階級の方の応援会を設立、運営してはもらえないか」

 と言うのです。正直、何の事やらと思いました。


 訳を聞きますと、次年度から高等部に入学される女性のお歴々は全員超難関の選抜クラスに合格され、首席たる法務大臣のご令嬢は筆頭公爵令嬢様、次席は公爵令嬢にして騎士団団長ご令嬢様……と高位階級にしてご本人達も実に煌びやかでおられるが、対する男性のご婚約者陣が前代未聞の全員普通クラス、そして王位継承権最下位の王太子ではない第三王子殿下、副団長令息にして侯爵令息……。


「まあそういう事だ。何もしなくても女性の方々に尊意が集中してしまうだろうから、君には是非、学院生達が高位女性階級に対して節度のある応援ができる様に手助けをしてあげてほしい。応援する人物の選定は君に任せる」

 母も王立学院生の時分に同じ様に応援会を指揮したそうです。


 そして母から渡されましたのは、腰部に巻く事ができる型のマジックバッグ。

 中に入っているのは、応援会の設立手引書、資金、設立に必要であろう魔道具等。

 マジックバッグだけでも我が家では絶対に弁済ができない品物ですからおののいてしまいましたが、万が一があれば母の元に戻る様に回帰魔法が掛けられているそうです。そして、母が許可した私のみ、出し入れが可能との事でした。


「この経験のおかげで私は学院高等部卒業後、士官学校を経て、この仕事に就けた。君にもいい経験になる筈だ」

 士官学校の同窓生で、父が母に頼み込んで婚姻を結んだ(父本人が申しております)為か、母には爵位婦人らしさがあまりございません。それでも、多くはない領民の皆と部下の方々には敬愛されている人です。

 とりあえず私は、本件をお引き受けしました。


 それからは皆様のご想像通りです。

 入学式における第三王子殿下のされた行い、学院長先生の怒号、その後のナーハルテ筆頭公爵令嬢様の優雅なお振る舞い、それを補佐されたあのお方……。

 そうです。その瞬間、私はライオネア・フォン・ゴールド公爵令嬢様、即ち獅子騎士様応援会の設立を決めたのです。


 改めまして、私は獅子騎士様応援会の事務局長を担当しております者です。


 本日は皆が待ちに待っておりました剣術大会の日。


 私達、獅子騎士様ことライオネア・フォン・ゴールド公爵令嬢様を応援する者達は、ライオネア様の出場される試合をきちんと、礼儀正しく、節度を持って応援いたしました。


 特に、ライオネア様と試合をされる方をおとしめる様な声を上げてはなりません。それは規則として徹底しております。


 応援会が剣術大会に先んじて設置しました獅子騎士様応援ボックス(マジックバッグの収納品です)も、応援会に所属していない学院生であってもライオネア様の応援ができるよう、お守りやお手紙等を集める魔道具でした。


 お渡ししてもご負担にならない物、極端に高額だったり生ものであったりという物は受け付けない様に識別魔法が掛けられた特殊な箱です。

 昨年度、初めて設置した際には驚かれたものですが、先生方がしぜんに受け入れて下さったので、学院生達もそういうものなのだと受け止めてくれました。先生方もどなたかを応援されていたのかも知れません。


 今年度は昨年度以上に成果がありました。ライオネア様がお住まいの高級学院生寮の寮官さんにお預けする品々が普段の五倍程になりましたが、この時期はねえ、大丈夫だよ、あのお方は力持ちでいらっしゃるしマジックバッグもお持ちだから、と笑って頂けました。


 決勝戦はと申しますと、獅子騎士様と婚約者様、スズオミ・フォン・コッパー侯爵令息の素晴らしい試合は一進一退、最後に空を舞われたライオネア様が一閃を決められ、優勝されたのです!


 現在は表彰式の最中です。

 学院長先生が壇上に上がられました。

 まず、準決勝に進まれた騎士クラスの方に、続いてコッパー侯爵令息に勲章型のメダルが付けられます。


 そして、獅子騎士様には優勝のトロフィーが授与されました! 万雷の拍手です。

 続きまして、花束の贈呈です。昨年度に続いて、ナーハルテ・フォン・プラティウム筆頭公爵令嬢様から。


 この贈呈式は剣術大会実行委員会が企画したものですが、僭越ながら、獅子騎士様応援会からも予算を出させて頂きました。

 昨年度、ナーハルテ様が獅子騎士様に花束を贈呈された時のお二人のお姿は何とも麗しいものでした。


 あら? 花束の贈呈が始まりません。どうしたのでしょう。しかも、何故か私の周囲がざわめいています。


「ランタン様、貴女の頭上に……」

 近席の学院生達に言われて上を見ますと、確かに頭上に何かが。

「転移陣?」

 思う間もなく転移しておりました。


 そこには。

「いつも自分を応援してくれてありがとう。これは貴女に差し上げたい」


 ええと、私は獅子騎士様の試合に感動し過ぎて、白昼夢を見ているのでしょうか。

 近い。近いですライオネア様が。しかも、花束を私に向けておられます。


「皆様、ライオネア・フォン・ゴールド公爵令嬢を陰ながら励まし、応援をして下さっている獅子騎士様応援会の事務局長、サマリ・フォン・ランタン男爵令嬢様です。よろしければ拍手を!」


 白昼夢ではありませんでした。恐れ多くも、ナーハルテ筆頭公爵令嬢様が私の名前を。


「サマリ嬢。貴女達の応援に心からの感謝を。良ければこれからも自分を励ましてほしい」

 ライオネア様、お声が、耳に近いです!


「……顔が赤い。転移陣のせいかな。それとも自分の圧力か? 試合後で顔が緊張していて怖いかな。面を被ろうか?」

 違います。圧力でしたら顔面の凛々しさとかお声とかそちらです!


 ……と、叫ぶ訳にもいかず、男爵令嬢の矜持で何とか花束を頂戴して、その上で気絶せずに耐えている私に向けられたのは。


「良かったですねぇ、貴女頑張っていらしたもの! 貴女が叱ってくれたから、きちんとお守りをお渡しできました。ありがとう!」


 わざわざ聖魔法で音響を高めた紫色の髪と瞳の聖女候補嬢の声でした。


 あの方にはライオネア様達の婚約者様達とお親しいとの噂があったので必要以上にきつく当たってしまっていたのですけれど。


 ……これはやはり、もう一度獅子騎士様応援会にお誘いしなくてはなりませんね。

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