13-ナー姫の面会と大切な盟友達と自分
「朱色の精霊獣殿がいらしていたのか。あの日は本当にありがたかった」
召喚大会から日を置いて、ナーハルテ・フォン・プラティウム筆頭公爵令嬢への面会が許可された。
すると、自分に先んじて、朱色の鳥の精霊獣殿が見舞いに来て下さったことを聞いた。
喜ばしいことに、ナー姫は一両日中には復学できるという事だ。
あの日、朱色の鳥の精霊獣殿から事情を伺う事ができた。
聖女候補に掛けてもらった聖補助魔法に浮かれ、実力よりも遥かに上の階層に属する精霊獣殿を呼んでしまい、危うく大規模な事故召喚になるところを知の精霊珠殿の助力のもとナーハルテ・フォン・プラティウム筆頭公爵令嬢が正しく我が身を挺して大召喚に挑んでくれたのだ。
お陰で精霊王様の直参という最高位に近い白色の高位精霊獣殿をお呼びして、事故召喚に巻き込んでしまった鬼属の高位精霊獣殿に無事にお帰り頂くというその状況では最善の策を行う事ができた。
我が国と学院は精霊界との不和を生じるという最悪の状況を回避したのである。
そうそう、共に召喚大会での第三王子のやらかしとその後の顛末を聞いた我が婚約者スズオミ・フォン・コッパー侯爵令息は、婚約者こと自分、このライオネア・フォン・ゴールド公爵令嬢が第三王子に対して何かするのではないかと戦々恐々としていたが、そんな事はする筈もない。想像ならば確かに行ったが。
コヨミ王国重鎮の家系に属するものとして、有り得ない。
「何かがあるとするならば、個人に対してだ」
そう言って微笑んだら、おののかれた。
迫力があるのは自覚しているが、曲がりなりにも婚約者に対して失敬な、と思ったが、
「こういう事情なら婚約者同士の茶会は終了して良かろう。学院に戻り、情報収集と状況確認だな。勿論秘匿事項が山積みだろうが、ここにいるよりは良かろう。それでもまだ怒りが静まらなければ、僕で良ければ発散に付き合おう」
驚いた。彼が自分の事を
ひょっとしたら、彼は本気で聖女候補嬢に恋をしていて、きちんとした形での婚約解消(彼等からの破棄はこの婚約では望めない)を望んでいるのだろうかと思ったほどだ。
この仮定は勿論、婚約者に伝えてはいないが。
もしかすると、第三王子殿下の今回の暴走も、聖女候補嬢の聖魔法の強さを示す為?
まぬけな王子殿下も聖女候補嬢に本気で恋をしているのか?
そう考えると、召喚大会への出場で多少上がったものの、第三王子殿下のやらかしで地に落ちた乱高下中の婚約者達の株が再度上昇した気分になった。それでもまだかなり低くはあるのだが。
婚約者がいる分際で、というのはここでは置いておく。あくまでも自分の憶測だ。
ああもちろん、やるべき事を終えた後はスズオミに思い切り鍛錬に付き合ってもらった。それはそれ、これはこれだ。
本当は、あらゆる手を用いてでも第三王子殿下を剣術大会に出場させるか、無理なら特別試合を組んででも
一応、第三王子殿下も医療大臣閣下を通じてナー姫宛に見舞いのカードを預けてくれたらしい。きちんとした謝意と見舞いの言葉。以前に比べれば成長が見えなくもない、と医療大臣閣下が言われていたと自分達の盟友でもある医療大臣令嬢から聞いている。
そういう経緯で、やっと面会の許可が下り、久しぶりに拝見したナーハルテ・フォン・プラティウム筆頭公爵令嬢の姿はむしろ召喚大会以前よりも血色が良く、艶やかだった為に心から安堵した。
自分よりも先にいらしていたという朱色の鳥の精霊獣殿も、さぞ安心された事だろう。
「これは我々の大切な友人達からの見舞いの品だよ」
医療大臣令嬢からはナー姫が好む香りの手製のクリーム、財務大臣令嬢からは美しい特殊紙のカード束とレターセット。魔道具開発局局長令嬢からは高品質の魔石。
「本当にわたくしの欲しい物を選んで下さったのね。嬉しい事」
「お礼の伝令鳥はまだやめておいてくれたまえ。我々の大切な友人達をまた心配させてしまうよ。カードを書いてくれたら自分が渡そう」
そして、自分はナー姫が休んでいた間の事を話した。
自分と同様、大切な友人の危機を知らずに婚約者殿と過ごしていた皆にも学院長先生からの伝令鳥が届き、皆で学院に合流し、状況確認を終えた後、少しでもナー姫の心づもりが無くなればと、召喚大会会場に向かい、先に精霊界に戻られた鬼属の精霊獣殿以外の召喚精霊獣殿達へのもてなし、会場の片付け等を手伝い、皆様に無事にお帰り頂けた事。
事情を知らない者が見ても問題ない程度の状態、軽い片付けが必要な程度にしつらえた後は、全てを学院長先生と知の精霊珠殿にお任せしてお開きになった事。
恐らくナー姫が心配していたであろう事、召喚魔法の先生が第三王子殿下を救護テントではなく医療大臣直轄の王立医療機関に転移魔法で送って下さった事も伝える事ができた。
自分の婚約者殿はそちらに付き添った。
また、コッパー侯爵令息以外の令息達には今回の件の詳細は知らされてはいない。
そうそう、ナー姫と自分がいるのは筆頭公爵令嬢のご自宅の特別室だ。
「ここは王宮よりも安全だな」
かつて、騎士団団長たる我が父もその物理防御と魔法防御の高さに嘆息していた場所である。
「他の皆もナー姫のお見舞いに来たがっていたよ。ただ学院生達が君の不在を心配していてね。彼女達はできうる限り生徒の質疑に対応してくれているんだ。代わりに皆の心を込めた物を預かってきた。我々の仲ならばこれで気持ちも伝わるだろうと」
今回の召喚大会は白き高位精霊獣殿が映像水晶を操作して下さって、ナー姫が余りにも高位の存在を召喚した為に第三王子殿下が召喚された精霊獣が緊張してしまわれ、帰って頂くまでがたいへんだったという流れになっている。
他の出場者が召喚した場面はきちんと残された上でだ。
なお、出場者の記憶は朱色の鳥の召喚獣殿が上手く上書きして下さっている。
「皆は本当に丁寧に学院生達の心をいたわってくれているよ。お陰で自分も剣術大会に向けた準備を進められている」
「皆様の友愛に心からの感謝を。勿論ライ、貴女にも」
「ありがとう。自分も今年の剣術大会では全力を尽くそう。君の勇気に敬意を表して」
ナー姫の血色のいい爪が嬉しい。自分は彼女の指先に唇を落とし、そう伝えた。
剣術大会での勝利を、貴女に捧ぐ。心中でそう誓った。
……聖女候補セレン-コバルト嬢に対する婚約者達の真意についての推察は、彼女には伝えようとも思わない。
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