12-コヨミ王国初代国王と白くて大きくてふわふわな我

白様しろさま、ナーハルテちゃんの所に行ってきたわよ。魔力水もなじんでいるし、前よりももっと美味しい魔力になっているからもう大丈夫ね。今日は親友のライオネア公爵令嬢、ほら、格好いいから伝令鳥や伝令になりたがる子が精霊界に多いあの騎士団団長令嬢ちゃん! が面会に来るそうよ。嬉しそうにしていたわ』


 ふむふむ、それは重畳。

 ナーハルテの見舞いに行けた事が嬉しくてたまらない朱色のものの話は続く。


『そうそう、白様が映像を直された召喚大会の映像水晶を見たらしくてね、猫属の巨大精霊獣でいらした白様の凜々しさに驚いてしまいましたって笑っていたわ。あと、ナーハルテちゃんが眠っていた時に見た夢にも凛々しい白様がいらしたって言ってたわよ。ああ、あたしもナーハルテちゃんの夢に出たーい!』


 そうか、ナーハルテは意識を失っている間に、われが異世界の遊具の中で活躍する様を見ていたのだったな。


 そして、コヨミと同じ名前を持つ、黒曜石の髪と瞳の持ち主をも。


 我の真名まな毛羽毛羽もふもふ。モフモフと読むのも良い。

 仮名かりな毛々もも。偉大なる精霊王様の直参精霊獣、純白の精霊鳥である。仮名を授けたものにはふわふわ、フワフワと呼ぶ事も許しておる。最も多く呼ばれる呼び名は白様という。


 想像の通り、もこもことした柔らかな姿が真の姿だが、凛々しき白き猫属の精霊獣の姿が仮の姿である。


 この国が今と異なる名前であった頃、精霊界と結んでいた良き縁を乱した人間達がいた。

 その人間達は自国の民をも苦しめた為、悪しき存在に制裁をと善良な民と民と親しき精霊達が、精霊王様へと願ったのだ。

 その訴えを是とされた精霊王様は、自らの直参の高位精霊と竜族の若い学者とを選び、その地へ遣わし、残りの一人には異世界の住人を選ばれた。


 長く連れ添った最愛を看取り、子供とその家族達と親しくしていた異世界からの転生人。思い残す事がない様にしたいからと家族に言葉を尽くし、旅に出た人であった。

 説得をしたのは、異世界の高位精霊殿が体を借りた獣達と伝え聞く。

 我が主精霊王からの頼みを諾とした異世界の高位精霊殿が、その徳で精霊達を導き、獣と心を通わす人を選び、説得をされたのだ。


 その人コヨミは、慣れぬ異世界で人族は勿論、精霊、精霊獣、高位精霊、高位精霊獣と竜族、獣達とも親しくなり、協力し、悪しき存在を遠ざけ、新しい国を作り上げた。


 我もそれに協力した。コヨミは本当に、精霊も精霊獣も竜も獣も恐れなかった。

 本当に恐ろしいのは人の心だという事を知っていた。


 我の事は、

「真のお姿は白きシマエナガ。仮のお姿は模様の無い真っ白なユキヒョウの様です。どちらもとても素敵でいらっしゃいます」

 そう言って、破顔しておった。


 コヨミは異世界の言葉や知識を惜しみなく晒し、この世界に伝えてはいけないものは残さない様にしてほしいと頼む、私欲のない異世界人であった。転生人が多くはないこの世界に、かけがえのない存在が現れてくれたのである。


 異世界で看取った連れ合いを心から思っていたので、他の誰とも結ばれる事はなかった。

 自らが初代国王になる事は辞したが、自分の腹心が王になる事は喜んだ。


 そして、

「もしも、のちに自分と血が繋がらない事で王を責める存在があるといけないので」

 と、自分の血を魔石に与え、赤き石として腹心の体に吸収させる事に成功した。


 コヨミが転生をした時に、精霊王様がお渡しになられた霊力をもって、我はコヨミの精神の力を魔力へと変えた。そしてその魔力量は厖大であった。


 同様の方法で、我はこの度、ナーハルテの体調の回復を早めてやる事ができた。死後もなお、自国の民を救う偉大な国王と言えよう。


 本人は固辞していたが、腹心が王になる際に自分の名字を腹心が名乗る事は快諾していた。王になる事を最後まで固辞し続けたコヨミは多くの存在に見守られ、去って行った。

 あのものの事だから、名前を持たぬ国に己の名が付く事は予期していたかも知れない。初代国王にされる事は予期していても否であっただろうが。


 コヨミの死後、多大な貢献に謝意を示された精霊王様は、魂の半分をこの世界に、半分を亡骸と共にコヨミが嘗ていた所に戻された。


 連れ合いの墓の隣で、安らかな笑顔で亡くなっていたコヨミを見付けた家族は、悲しみつつも喜んだという。

 長い長い月日が過ぎていたというのに、旅に出ると出て行った日から変わらない姿ではあったが、血縁はコヨミを穏やかに迎えたのだ。


 ……朱色のものよ。それほどナーハルテの事を好むなら、真名を渡して契約をすれば良かろう。そもそも、我がナーハルテの召喚に応じようぞと言うた時、


『白様、絶対に! あげるなら仮名にして下さいね! 真名を渡すのはあたしが先ですからね!』と叫んでいた程なのだから。


 この朱色の孔雀(これもコヨミが国に与えた言葉だ)に似た美しい鳥の精霊獣は、ナーハルテの事をとても気に入っている。

 我の血脈に連なる程の地位のものなのだが、好んだ人間に素直になれない所がある。コヨミは朱色のもののそんな所も理解していたのだが、今度はどうなる事やら。


 実は、今日もナーハルテの前では

『多忙なあたくしがお見舞いに来てあげたのよ! これはあくまでも魔力を頂く為ですからね!』等と、不承不承の様に振る舞いながら、

 我の前では斯様に、

『やり過ぎちゃったかしら……』と後悔しているのだ。


 これはいわゆる『つんでれ』というやつなのだろうか。


 実は、異世界の高位精霊殿のつてで、我らは今コヨミの故郷を探索している。


 コヨミと別れてから何百年か、我らや竜族にはあっという間の時であったが、人から見れば多くの時が流れた。

 更に時の過ぎ方が異なる異世界の、この国を再び良きものにしてくれる『気』を持つものを求めて。


 異世界の住人達には、似てはいるが非なるコヨミ王国の様子を『乙女げーむ』というものにして、この国に触れてもらっている。


 ナーハルテよ、我と其方が存在していたのは異世界の遊具の箱の中じゃ。


 コヨミに面影が似た黒曜石と其方がよんだものの名前は……まあ、その内にの。

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