11-朱色の精霊獣殿と婚約者殿と自分
ナーハルテ・フォン・プラティウム筆頭公爵令嬢が王立学院高等部精霊獣召喚大会に出場していたその日、自分ことライオネア・フォン・ゴールドは婚約者殿との茶会に出席していた。
スズオミ・フォン・コッパー侯爵令息。
見た目だけなら爽やかな美男と言えるだろうな、とは婚約を打診された際の騎士団団長たる父の弁である。仮にも娘の婚約者候補に対して仰る事ですか、と仮にも、を何度も繰り返した社交界の薔薇と呼ばれる我が母がたしなめたところ、お父上であられる副団長閣下は
「正直いつ破棄されても愚息の不徳の致す所と存じております。そもそも、破棄権はそちらにのみございます事、重々承知しております」
と言われたていたらしい。
まあ、お互い婚約者がいても良い立場と年齢であるので、この婚約は結ばれた。取り敢えず、そんな感じの婚約関係である。
ナーハルテ筆頭公爵令嬢の婚約者であられるニッケル・フォン・ベリリウム・コヨミ第三王子殿下の親友でもあるこの青年は、できる事ならこの様な茶会に出るよりも、召喚大会の会場に馳せ参じたいに違いない。間違いない。
自分もそうなのだから、良く理解できる。
「第三王子殿下はどの様な精霊獣を召喚されるおつもりなのかな」
今大会、普通クラスから唯一の出場枠を第三王子殿下が勝ち取った。友人たるスズオミ達高位貴族令息達も熱心に特訓に付き合い、件の聖女候補セレン-コバルト嬢も聖魔法でかなりの回復支援をしたらしい。
彼女は今日も会場外の救護テントに詰めているとの事。
どうせなら自分も救護テントに置いてもらい、担架の代わりにでもしてくれればという気分だ。女性なら何人か、男性でも二人くらいは自分だけで運べるだろう。
ナーハルテ筆頭公爵令嬢の応援をしたい余りについつい現実逃避をしてしまったが、聖女候補セレン嬢は意外にも授業態度は非の打ち所がないらしく、今回ばかりは第三王子殿下以下略の面々が聖女候補を見習い、勤勉になったのではという珍しくも良い噂になっている。
少しは学業に身を入れる気になったならば、あとは婚約者ご令嬢達への態度を改めよ、という王配殿下からのご指示によって、召喚大会という喫緊の予定がある二人以外は皆、この様な婚約者同士の健全なお付き合いというやつをさせて頂いているのだ。
この場はコッパー家のメイド達が準備万端整えてくれていて、呼ばない限りは二人きりだ。
綺麗に剪定され、わざと一部だけ整えていない所が実にいい緑達が美しい。
メイド達もキビキビとしていて好ましかった。こういう席なら良かろう、と思って「ありがとう」と笑ってみたつもりだったのだが、メイドの一人の指を震わさせてしまった。
……やはり、自分の笑顔は女性には畏怖の対象なのだろうか。スズオミに聞いたら苦笑された。
「……蝶、蛇、あとは鳥くらいかな。無論、ナーハルテ筆頭公爵令嬢が昨年の大会で呼ばれた鳥の精霊獣殿の様な訳にはいかないが」
苦笑したままの顔で返されはしたが、一応会話らしい会話ができている。
それにしても、昨年ナー姫(もう愛称でも良かろう)が召喚した鳥の精霊獣殿はお美しかった。
ごくたまに気まぐれに彼女の伝令鳥になって下さる朱色の鳥の精霊獣殿。彼女とナー姫とが戯れる様子は名匠の手による絵画の様だ。
「まあ、あの様な美しい存在はそう簡単に拝めるものではないだろ……う」
一応今は淑女という前提で婚約者殿の茶会に臨んでいる(パンツタイプのドレスだが)のだが、もう少しでカップを揺らしてしまうところだった。
「言葉に詰まるとは君にしては珍しい……な!」
全くこの婚約者殿は、高い魔力を極たまにしか活用しない男だ。
正に今話していた鳥の精霊獣殿、飛翔される美しい朱色のお姿が自分達の視界近くにいる事に気付いたか。
……そしてその後すぐに、彼女から召喚大会の顛末をお聞きした我々は。
「「
と、婚約以来、初めて息を合わせたのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます