5-まぬけな王子様と金色の騎士様とプラチナ色のお姫様とあたし

 二の都市はあたしからしたら大都市だった。


 蛇口を捻ればいつでもお湯が出せるし、下級貴族や平民が多く住む一般学院寮にはシャワーが付いていて好きなだけ使えるのだ。

 八の街では公衆浴場に通うのが当たり前だったのに。

 あたしの家は患者さんの清潔の為にお湯が出せる蛇口があったけど、たくさんの水の魔石と火の魔石に魔力を満たすのがたいへんだよとよくお父さんが言っていた。それでも、お母さんとお父さんが共に魔力持ちだったからこそできた事だった。


 聖魔力を入れた魔石は珍しいから高価らしいので、司祭様に伺って聖教会本部の許可を頂いて、たくさん作って家に置いてきた。便利な魔道具が買えていたらいいなあ。


 難しい試験と初めて見た竜族の学院長先生(この国を作った伝説の人!)と知の精霊珠さん(本物!)に驚いたけど何とか及第点は取れたらしくて、三つある普通クラスの中では1番上のクラスに合格させてもらえた。良かった。


 超ものすごい人しかいない選抜クラス、かなりすごい人しかいない上クラス、わりとすごい中上クラス、あとは一般の学校と比べたらすごいけど、な普通クラスという感じで考えたらいいみたい。

 それ以外はまた別な感じで騎士クラスとかもあるんだって。


 あたしが合格できた普通クラス一組には第三王子様とその取り巻きさん達がいた。騎士団副団長の息子さんとか国の二番目に偉い人達の息子さん達。


 第三王子は髪の毛とか目の色が銀色だった。白金しろがね色だって。ものすごいイケメンだったけど、頭は王族さんの割にはそんなによくないよね?

 平民のあたしが必死に勉強して入れるクラスって王子様がいても大丈夫なのかな。

 入学の時に1番で合格した婚約者さんの代わりに普通クラスなのに代表挨拶をしようとして学院長先生に怒られて気絶したまぬけ王子......って、だめだめじゃん!


 目をつけられませんように、と思って小さくなって過ごしていたら向こうから声を掛けてきた。コヨミ王国にはあんまりないらしいけど平民差別ってやつかな。いやだなあ。


「君が聖女候補か。慣れない学院に戸惑う事もあるだろうが遠慮なく何でも聞くといい」


 良かった。王子様は王子様っぽい言い方で優しくしてくれただけだった。婚約者の筆頭公爵令嬢さんは選抜クラスの1番さんだから、女の子に何かを教えてあげられるのが嬉しいのかも。筆頭公爵令嬢さんには教えてもらうばっかりだったんだね、王子様。


 ありがとうございます。にこりとしたら、王子様と周りのイケメン達が真っ赤になった。あれ、皆素敵な婚約者さんがいるはずなのに変なの。あたしくらいの笑顔が何でそんなに嬉しいの?


 それからあたしは第三王子様達にちやほやされる様になった。ヘンな事はされた事はない。皆すごく優しい。優しすぎ。


 できたら女の子の貴族さんとかを紹介してもらいたかったんだけど。あとちやほやされるならせめて婚約者さんがいない人が良かったなあ。


 それでも、何とかなりそうだよ安心してね、と家族に手紙を出せるくらいには学院生活に慣れた頃、あたしは騎士様を知った。


 金色の髪と瞳。背が高くて姿勢が良くて何から何までカッコいい。まだ騎士様じゃないけど、騎士クラスの人よりも強いんだって。


 ライオネア・フォン・ゴールド公爵令嬢さん。騎士団団長さんのお嬢様。普通クラスの副団長さんの息子君もかなりのイケメンだけど、度合いが桁違い。


 聖魔力を込めたお守りを作って金色の袋に入れて渡す機会を伺っていたら、獅子騎士様応援会っていうファンクラブの人に抜け駆け禁止(とは言われてないけどそんな感じ)って叱られた。

 そうだ、八の街でも食堂のイケメンコックさんにはファンクラブがあって、仕事終わりにお話する順番を守らない子は出入り禁止になってたっけ。


「すみませんでした大丈夫です。あの人はすごくすごく美形ですけど、女性だからもういいです」


 相手の男爵令嬢さんはびっくりしていた。本当は違った。第三王子様とは違う、あの金色の騎士様なら男性女性関係なかった。ファンクラブ、入りたかったな。

 でも安心してね。貴族の皆の大切な獅子騎士様は取らないよ。貴族の女の子達は婚約者さんがいたり、自由に誰かを好きになる事が難しい子も多いから、憧れの存在はとてもとても大切だよね。


 何処かで、伝令蝶の気配がした気がした。でも、早足で立ち去ったからいまいち自信は無い。


 そう、それに、よく考えたらライオネア様はあのお姫様の騎士様だと思う。


 ナーハルテ・フォン・プラティウム筆頭公爵令嬢さん。

 最初にご挨拶に行った時に見学させてもらった王都の聖教会本部の聖博物館に飾られていた本物のプラチナの指輪の色のお姫様。金の騎士様と並ぶと、二人はものすごくお似合い。


 第三王子様と騎士団副団長の息子君には、あのお二人は勿体ない。


 第三王子様達にはあたし位がちょうどいいよね、とあたしは何故かその時思ってしまった。自分でも何考えてるんだって感じだけど。

 でも、二人の婚約者さんは勿論だけど、他の皆の婚約者さん達も、皆すごい美人だったりめちゃくちゃ賢かったり、大人気な人達なんだもの。


 そう思ったら、応援会なんてあるわけない彼らをあたしが応援しよう、そうだよ、たまには皆だって活躍したいよねって、まぬけ王子さん達に優しくしてあげたくなってきた。


 確か、今度行われる精霊獣さんの召喚大会に普通クラスからも一人だけは出場できたはず。


 あの中の誰か、出場できるかな。もし出場できたなら、あたしの聖魔法ですっごい身体強化をしてあげよう!

 その次は確かそう、剣術大会だ!



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