第4話 何者
「ところで、ここは
肩に薬を
「分かりません」
「あの……分からないとは、どういうことだ?」
「私は斯野国をずっと歩いてここまで来ましたが、まだ
これで現在地が分かると
しかし、歩いて来たというのなら、それほど遠くの住人でもないだろう。ある程度、この周辺の地理は知っているに違いない。
そう期待して、俺はさらに問うた。
「そなたはどこに住んでいるんだ?」
「今はずっと、ここで寝泊まりしています」
一瞬、どう意味を取ればいいのか分からなかった。
ずっと、ここで?
「そなたは猟師にも
「
「いや、たどり着いたからといって、なぜ……」
「小屋の中を見ると、打ち捨てられたような様子だったので、もう誰も使わなくなったのだろうと判断しました」
会話が
誰も使わない小屋がたまたまあったとしても、普通は住み着いたりせんだろう。
「では、そなたがここに来る前に、元々いた所というのはどこなんだ」
俺の質問に、心なしか少年の顔が
「もはや、捨てた場所です。今の私には関わりがありません」
捨てた場所? どういうことだ?
何やら、話を聞けば聞くほど理解から遠ざかっていく。
俺は気を取り直し、少し話題を変えた。
「そう言えば、まだ名を聞いてなかったな。何というんだ?」
「名も捨てました」
取り付く島もない。
さすがに俺も、少々いら立ってきた。
「捨てたとしても、元々名乗っていた名があるだろう。それすら言えないのか? これでは、そなたを呼ぶことも出来ん」
「名前をおっしゃっていないのは、あなたも同じです」
「あ」
こちらの
いかん。これではただの
「失礼した。俺の名は……」
「私はあなたの素性も事情も聞こうと思いません。こちらのことも、どうか、
「……」
俺はひとまず、あきらめた。
他に人がいるわけでもない。名など呼ばなくても、誰のことかは分かるだろう。
人を助ける親切さと、人を
詮索しないでくれと言われても、やはり気になる。
少年は薬を塗り終えた肩に、再び
いったい何者なのだろうと考えつつ、俺はその様子にちらりと目をやり――。
あれ?
何だろう、この感じは。ずっと以前にも、どこかで似たような感覚を経験したように思うが。誰といる時だったか。
ああ、そうだ。
孫の俺ですら、近づきがたい時が多々あった。
そう言えば、爺様が住んでおられた
豊かさとは無縁の、人が暮らすのに最低限必要なだけの空間。それでいて、生命の
心を過去と現在の
「終わりました」
と声をかけられ、我に返った。
「ああ。かたじけない」
俺が礼を述べると、少年は、
「完全に治るまで、出来るだけ肩を動かさないようにしてください。もう少し良くなるまでは、歩き回るのも
と言い置いて、薬を片付けに行った。
貴公子のごときその姿は、爺様とは似ても似つかない。口振りも、身のこなしも違う。
それでもどこか、
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