第28話 恋した私と想われたあなた—②

 滝みたいな温泉から出て、露天風呂にやってきた時、私はその日抱えていた疑問をまなかさんにぶつけてみた。


 「みそのが別行動になった理由?」


 ともすれば、あの行いは拒絶やそっけなさにも見えてしまう。正直、二人がそういう壁のある関係には見えないからこそ違和感があった。


 そんな私の疑問に、まなかさんは露天の空を眺めながらぼんやりと声を漏らす。


 「あー、そっかそうだね。知らないと確かに違和感あるか」


 それから私をちらっと脇目で見て、声を漏らした。何気なく、なんとなく、とても当たり前のことのように。


 「別にそんなにややこしい理由じゃないよ。


 そう告げた。


 「―――っていう、ただそれだけの理由だよ」


 私はそんな返答をどことなくぼんやりとしたまま聞いていた。





 ※





 「みそのの性的な指向は、割とがっつり女子限定でさ。それに加えて、結構、あの子せーてきな欲求が強いから。まあ要するにえろいから、見れるんならがっつり見ちゃうわけ」


 そうやって、私が説明するのを、ここちゃんはどことなくぼーっとした表情で聞いてた。


 「まあ、言ったらあれだけど。あの子に裸みられるのって、異性に裸晒すのとあんまり変わんないんだよね。で、みその自身もそれがよくよくわかってる」


 「で、私達が温泉でこうやって、公然とお互いの裸を晒せられるのって。まあ要するに『基本的に同性なんだからお互い性的な眼では見ませんよ』って暗黙の了解があるからじゃん?」


 「でもあの子はそうじゃない。あの子にとって、私達の裸を見るっていうのは、意味も含んじゃう」


 「だから、私達は、お互いの裸は見ないっていう約束をしてるの。……ちょっとドライじゃないかって? まあ、そうだね。でも、この約束、言い出したのはみそのの方だよ?」


 「どうしても、我慢できないから。眼で見ちゃうから、お互い、身体は相手に晒さないようにしましょうって。一緒に住んでた頃に言われたんだ」


 「めんどくさい性格してるでしょ? 自分でむらむらしてるくせに、自分でそれに蓋してさ。言わなきゃ、そんなことこっちは気づきもしなかったのに」


 「というわけで、これが私とみそのがお風呂では別行動な理由だよ。え、ここちゃんをこっち側に連れてきた理由?」


 「……そんなの、君もあの子に眼で見られてるからに決まってるじゃん」


 「だって見てればわかるよー。時々、みその目がえろくなるから。風邪の時に身体拭く―とかさ、意味もなくマッサージとかさ、されてない?」


 「されたんかい。……はは、そういう時、あの子こっそり性欲発散させてるから」


 「あんま際どいとこは許しちゃダメだよ? まあ、ここちゃんが、別に抱かれてもいいって想ってるなら止めはしないけど。むしろ応援するけど」


 「ただ、心がついていってないのに。勢いで身体だけ渡しちゃだめだよ。後々でここちゃんの心が傷ついちゃうからさ」


 「人間、いくら恋してても、愛してても、どれだけ想ってても。身体が許せるラインっていうのは、なんかもっと根本的なとこで決まってるからさ。本能っていうのか、直感ていうのか……。何はともあれ、本当に自分が許せる範囲でだけ触れ合うことだよ。同性同士だからこそ、そこらへん見誤りやすいからね」


 「ふふふ、悩め悩め恋する乙女よ。あー、可愛い。みそのが入れ込む理由もわかるよ、ほんと」


 「え? いやいや入れ込んでるよ。みそのはね、がっつり。え、ここちゃん自覚ない?」


 「じゃあ、一個だけ教えてしんぜよう。みそのはね、ドはまりした相手にはえろいこと一杯考えるわけ。多分、あの子の妄想の中で、きっと私は何度もえろい目にあっていることでしょう」


 「でも誰でもいいわけじゃないの。ちゃんと心を許した相手だけ。むしろ信頼がないとあの子、性的にも興奮できないから。つまり信頼フェチみたいな?」


 「事実、あの子そこらへん歩いてる。女の子とか、アイドルとかみっじんも興味ないんだよね? 何故なら、交流がないから、信頼がないから」


 「じゃー、問題です。みそのがここちゃんをえろい目で見てる理由は? 今回、私だけじゃなくて、ここちゃんもみそのと別行動な理由は? それにみそのがなーんにも言わず、納得したわけは?」


 「考えると楽しいでしょ。あはは、あんまり顔真っ赤にするとのぼせるよー?」


 「まあ、焦んなくていいからさ。じっくりやりなよ。大丈夫、ここちゃんが想ってるより、みそのは君のこと好きだから」

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