第6話 妄想-両方を選んだ場合-

(がーっ!!これも、ダメだっ!)


希一は再度頭を振ると、繰り広げていた妄想を頭から消し去った。


(どっちか1人を選べなんて、無理な話なんだよ。だいたい、『貧乏神と福の神とは、一対の神』だって、自分らで言ってたじゃねぇかよなぁ)


 『私たちは、それぞれふたつずつ、あなたの願いを叶えることができます』


福と楽が希一に告げた言葉。


(もし、叶える願いが1人ひとつずつになったら・・・・もしかして2人とも選ぶ、っての、アリなんじゃねっ?!)



******************************


「って訳で。オレ、欲張り過ぎた。『美人な彼女が欲しい』と『就職したい』だけでいいから、2人とも消えないでくれ!」


希一の必死の頼みに、福と楽は困った表情を浮かべて暫くの間顔を見合わせていたが。


「想定外ではありますが、あなたがそうお望みになるのであれば・・・・」

「えっ、マジっ?!」

「うん。願い事一つ叶えるだけなら、私達両方とも消えないで済みそうだし」

「よっしゃー!」



「あー、悪りぃ真人。今日もヘルプ、頼めるか?」

”仕方ないなぁ・・・・キイっちゃんの頼みなら、断れないよ”


仕事帰り、楽から『助けて!』のメッセージを受信した希一は、そのままスマホでいつものように真人に電話をかける。

楽がこんなメッセージを送って来る時は、決まって、家の中が大変な事になっている時だ。

5歳児を筆頭に、3歳、2歳、0歳児を抱える希一の家は、福も懸命に育児と家事を手伝ってくれてはいるものの、それでもひっちゃかめっちゃか状態だ。

もちろん、子供たちは全員、希一と楽の子供。

福は希一の義姉として、楽の姉として、子供達の伯母として、それはもう、毎日奮闘してくれている。


「ただいまー」

「お帰り、希一!」

「お帰りなさい、希一さん」

「遅いよ、キイっちゃん!」


希一の帰宅を、楽、福、真人が出迎える。

続いて。


「お帰りなさい、お父さん!」

「おかえない、ぱぱ!」

「ぱぱー!」

「あー」


可愛い子供達が希一を出迎える。

その向こうに見える部屋の中は、子供達が散らかした玩具やら、どう言い聞かせてもやめない壁の落書きやらで、毎度のことながら頭が痛くなるほどにひっちゃかめっちゃかだ。

だが、希一は心から幸せを感じていた。

決して余裕のある生活ではない。

それでも、食べるには苦労はしない程度の稼ぎはある。

それになにより。

福の笑顔と楽の笑顔がそこにはある。

・・・・時折、福に見惚れている真人の笑顔も。


「キイっちゃんてばっ!いつまでぼーっとしてんだよ、早く子供達お風呂に入れないと!楽ちゃんも福ちゃんも今手一杯なんだからな!僕もここの片づけで手が離せないし」

「わりぃわりぃ、すぐやる!」


真人は未だ、年齢=彼女いない歴を更新中とのこと。

中堅どころの手堅い会社に就職して、女子社員との出会いもあっただろうに、浮いた話は一切聞かない。


(真人は、福が好きなんだな、きっと)


「福ちゃん、これどこにしまったらいいかな?」

「あ、それはこちらに・・・・あっ」

「大丈夫っ、福ちゃん!」


出しっぱなしの玩具に足を取られ、よろけた福を真人が抱き留める。


(あーあー、2人して茹でダコみたいになってら・・・・)


「希一っ!早く子供達お風呂入れてあげてってばー!」

「おー、わかってるって」


福と真人の微笑ましい姿を見ながら、希一は子供達を連れ、風呂場へと向かった。

鼻歌など、歌いながら。

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