第6話 妄想-両方を選んだ場合-
(がーっ!!これも、ダメだっ!)
希一は再度頭を振ると、繰り広げていた妄想を頭から消し去った。
(どっちか1人を選べなんて、無理な話なんだよ。だいたい、『貧乏神と福の神とは、一対の神』だって、自分らで言ってたじゃねぇかよなぁ)
『私たちは、それぞれふたつずつ、あなたの願いを叶えることができます』
福と楽が希一に告げた言葉。
(もし、叶える願いが1人ひとつずつになったら・・・・もしかして2人とも選ぶ、っての、アリなんじゃねっ?!)
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「って訳で。オレ、欲張り過ぎた。『美人な彼女が欲しい』と『就職したい』だけでいいから、2人とも消えないでくれ!」
希一の必死の頼みに、福と楽は困った表情を浮かべて暫くの間顔を見合わせていたが。
「想定外ではありますが、あなたがそうお望みになるのであれば・・・・」
「えっ、マジっ?!」
「うん。願い事一つ叶えるだけなら、私達両方とも消えないで済みそうだし」
「よっしゃー!」
「あー、悪りぃ真人。今日もヘルプ、頼めるか?」
”仕方ないなぁ・・・・キイっちゃんの頼みなら、断れないよ”
仕事帰り、楽から『助けて!』のメッセージを受信した希一は、そのままスマホでいつものように真人に電話をかける。
楽がこんなメッセージを送って来る時は、決まって、家の中が大変な事になっている時だ。
5歳児を筆頭に、3歳、2歳、0歳児を抱える希一の家は、福も懸命に育児と家事を手伝ってくれてはいるものの、それでもひっちゃかめっちゃか状態だ。
もちろん、子供たちは全員、希一と楽の子供。
福は希一の義姉として、楽の姉として、子供達の伯母として、それはもう、毎日奮闘してくれている。
「ただいまー」
「お帰り、希一!」
「お帰りなさい、希一さん」
「遅いよ、キイっちゃん!」
希一の帰宅を、楽、福、真人が出迎える。
続いて。
「お帰りなさい、お父さん!」
「おかえない、ぱぱ!」
「ぱぱー!」
「あー」
可愛い子供達が希一を出迎える。
その向こうに見える部屋の中は、子供達が散らかした玩具やら、どう言い聞かせてもやめない壁の落書きやらで、毎度のことながら頭が痛くなるほどにひっちゃかめっちゃかだ。
だが、希一は心から幸せを感じていた。
決して余裕のある生活ではない。
それでも、食べるには苦労はしない程度の稼ぎはある。
それになにより。
福の笑顔と楽の笑顔がそこにはある。
・・・・時折、福に見惚れている真人の笑顔も。
「キイっちゃんてばっ!いつまでぼーっとしてんだよ、早く子供達お風呂に入れないと!楽ちゃんも福ちゃんも今手一杯なんだからな!僕もここの片づけで手が離せないし」
「わりぃわりぃ、すぐやる!」
真人は未だ、年齢=彼女いない歴を更新中とのこと。
中堅どころの手堅い会社に就職して、女子社員との出会いもあっただろうに、浮いた話は一切聞かない。
(真人は、福が好きなんだな、きっと)
「福ちゃん、これどこにしまったらいいかな?」
「あ、それはこちらに・・・・あっ」
「大丈夫っ、福ちゃん!」
出しっぱなしの玩具に足を取られ、よろけた福を真人が抱き留める。
(あーあー、2人して茹でダコみたいになってら・・・・)
「希一っ!早く子供達お風呂入れてあげてってばー!」
「おー、わかってるって」
福と真人の微笑ましい姿を見ながら、希一は子供達を連れ、風呂場へと向かった。
鼻歌など、歌いながら。
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