第3話 苦渋の選択

「・・・・は?ナニコレ?新手の詐欺デスカ?」


状況が理解できず、ポカンとする希一の顔を見て、女子2人は軽やかな声を上げて笑う。


「お兄さん、なかなか面白い事をおっしゃいますね」

「そうよ、私たちに向かって、詐欺、なんて」


コロコロと笑う2人の声は、聞いた事も無いような心地の良い声。

それでも希一は油断を解くことなく、宙に浮かんだままの女子2人に言った。


「どんな仕掛けがあるんだか知らねぇけど、オレんとこには金なんてねぇぞ。相手が悪かったな」

「お金が無いのは、存じております。ついでに、就職先も見つかっていないし、彼女さんがいらっしゃらないってことも、存じております」

「そうそう。さっき、随分熱心にお願いしていたもんねぇ?『美人な彼女がほしい。就職したい。宝くじ当たりたい。金持ちになりたい』って」

「えっ?!」


(それって確かさっきの祠でオレがつい・・・・嘘だろ、オレ、声になんて出してないぞ?!)


「ね?信じてくれた?オ・ニ・イ・サ・ン」


フワリと宙から舞い降りた美形女子に至近距離で微笑まれ、希一は思わず後ずさる。


(なんだ、こいつら?本当に神様なのかっ?!)


「お兄さんが怖がっているじゃないの。ダメよ、まずはきちんと、お分かりいただけるまで説明をして差し上げないと」

「はぁ~い」


続いて宙から舞い降りて来た地味女子が、美形女子の手を取り部屋の中央まで戻ると、優し気な微笑みを浮かべて、ドアの端まで後ずさって怯えている希一を手招く。


「お兄さん、どうぞこちらへいらしてください。順を追って、説明いたしますので」

「そうそう、お兄さん、こっちへおいで」


(・・・・つーかここ、オレの部屋なんだけど・・・・)


そう思いながらも、希一は言われた通り部屋の中央へ進む。

そして。


「どうぞ、お座りになって」


の言葉に言われた通りに従うと、女子2人組も背筋を伸ばして希一の正面に座った。


「私達は先ほど申し上げたとおり、あなたの願いを叶えるために参りました、貧乏神と福の神です。ではなぜ、あなたの元へ参ったのか。そのいきさつを説明させていただきますね」


地味女子が希一に話した内容は、次のようなものだった。



私達があの祠に奉られ始めたのは、もう何百年も前の事です。

あなたは不思議にお思いになるかもしれませんが、貧乏神とて神です。以前の人間達は、手厚く奉ってくれたものなのですよ。

そして、貧乏神と福の神とは、一対の神なのです。

私達姉妹も、一対の神として奉られていました。

ですが、人間達の繁栄と時代の移り変わりと共に、私たちの祠を訪ねてくれる人間は次第に少なくなり、ここ暫くは誰も訪ねてくる人間はいませんでした。

私達は、人間に奉られてこその神。

奉る人間がいなくなってしまえば、消えてなくなるしかないのです。

今日はその、最後の日。

今日までの間に誰も私たちの祠を訪ねて来る人間がいなければ、私たちは消滅することが決まっていました。

ですが、さきほど。

あなたが訪ねて来てくれました。

私たちがどれほど嬉しかったか、あなたにはお分かりになるでしょうか。

訪ねてきても、一方的に願いを告げる人間が多い中、あなたは今までの不敬を詫び、これからは度々訪れると約束してくださいました。

私達は既に消滅する運命を受け入れておりましたから、消滅することには何の迷いもありません。

人間達へも、もはや何の期待もしておりません。

ですが、最後に訪れてくれたあなたにだけは、せめて神として礼を尽くしてから消滅したいのです。

できることならば、私達2人ともに礼を尽くしたいところではありますが、残念ながら既にもうその力は残っておりません。

ですから、どちらか1人。

あなたに、選んでいただきたいのです。

お願いです。

私たちのどちらか1人に、神として礼を尽くさせてください。



「マジか・・・・」


俄かにはとても信じられない話ではあったが。

それでも、切々と訴える地味女子の言葉は、希一の胸に響いた。


(とりあえず、信じてみるか?悪い奴らでは無さそうだし)


「うん、悪い奴じゃないよ。だって私達、神様なんだから」

「えっ」


(心ん中、読まれてるっ?!)


「あ、ごめんね。なんか、分かっちゃうんだよね、アハハ」


ペロリと舌を出す美形女子。


(全然らしくないけどな、とくに、こっち)


「ひどーいっ!」

「いい加減になさい」

「・・・・はぁい」


地味女子に一喝されてシュンとなる美形女子を前に、希一はしばし考え込んだ。


(どっちか選べっつったって・・・・どうやって選べってんだよ?)


「あ、申し遅れましたが」


地味女子までもが希一の心を読んだかのように、口を開く。


「私は福の神の『ふく』、こちらは私の妹で貧乏神の『らく』です。そして、私が叶えられる願いは、「就職したい」「金持ちになりたい」のふたつ。楽が叶えられる願いは、「美人な彼女が欲しい」「宝くじ当たりたい」のふたつです。どうぞ、ご参考になさってください」


(ご参考に、ったって、なぁ・・・・)


地味女子こと福の言葉に、希一はますます頭を悩ませた。


(普通ここは、福の神の福ちゃんだよなぁ、選ぶとすれば。でも、貧乏神ったって、楽ちゃん選べば美人な彼女はできるし、宝くじ当たるんだろ?)


「なぁ、オレが選んだ方は、どうなるんだ?」

「あなたが生を終えるまでは、あなたのお側にお仕えいたします。その間に力を蓄える事ができればそのまま存在することも可能でしょうが、力が無くなってしまえば、消滅するでしょうね」


希一の問いに、福が即答する。


「じゃあ、オレが選ばなかった方は・・・・?」

「即、消滅~!」


今度は、楽が楽し気に答える。


福と楽。

選んだ方は一生側に。選ばなった方は、即、消滅。


(オレ、なんかとんでもない事、選ばされてるような・・・・)


「さぁ、どちらになさいますか?」

「ちょっと、待って、待ってくれよ!」


福と楽を前に、希一は頭を抱え、必死に考えを巡らせた。


(どっちだ・・・・どっちを選ぶべきなんだ、オレはっ!)

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