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 闇の奥から足音がした気がした。

 薄明かりで目が闇から戻ってしまったので目を細め睨む様に奥を見つめる。

 黒の先から声がした。

「チカ……。アマちゃんが、目を覚ました」

 現れたのは目を腫らしたユウだった。

「ユウ、戻っても?」

 俺の言葉にユウは小さく頷き踵を返した。

 病室に戻るとアマフミくんは身体を起こして俺とユウの顔を交互に見て微笑んだ。

「はじめまして、ですわね。ユウが何時もお世話になっております」

「それはこちらの言葉だね。ユウの面倒を見てくれてありがとう」

「チカさん、ユウはもうワタシのモノなの。クーリングオフなんてしないわよ?」

 アマフミくんは傍に立ったユウを抱き寄せその胸に頬を寄せた。

「大丈夫だよ。俺が思っていたよりユウはずっと大人になった」

「やっぱり、親目線だったのかよ」

 アマフミくんの頭を撫でながらユウは溜息を吐いた。

「それは仕方ないわ。ユウってば子供だったから」

「アマちゃんまで……」

「精神年齢が幼い?」

 俺はシユの呟きを聞いて吹き出した。

「そうだなあ。ユウは俺らの中で一番幼い。そう思っていたんだけど……」

「思っていたんだけど?」

 俺に肩を寄せてシユが問うた。

「俺らも幼かったんだなって。みっつに別れたのがそうさせていたのかも」

「実は一番大人だったのがユウかもしれないわね。地頭の良さと身体の良さを抜いたら最後に残るのは家庭的強さかもしれない」

「それは無いな」

 俺が即答するとアマフミくんが「家政夫って大仕事を続けてるわよ、ユウは」と首を振った。

「ユウさん。お料理できるの?」

 シユが顔を上げてユウを見る。

 目が合ったユウは頬をかいてもごもごと呟いた。

「一応。家庭料理の域は出ないけど」

 その囁き声を捉えたシユは頬を桃色に染めてこぶしを握った。

「チカちゃんの好きな料理教えて。謝礼も払う」

「いや、チカの彼女からカネは取れないよ……。しかもチカの好きな料理って、あれだろ? 卵焼き、甘いやつ」

 その言葉にアマフミくんが吹き出した。

「チカさんは甘い卵焼きが好きなのねえ……。ユウはだし巻き卵が好きなのよね。キイさんはどんな卵焼きが好きなのかしら」

「キイはゆで卵だ」

「あいつは好きって言うよりもトレーニングの一環って感じだけどね」

 へー、と同じ様な顔をしたシユとアマフミくんを見て俺とユウは笑ってしまった。

 今、キイはくしゃみでもしているのだろう。

 多分やきっとじゃない。

 確信して言える。

 それくらい俺らの繋がりは、太い。

 

 ひとしきり笑った後、俺は先ほど思いついた話を3人に伝えた。

 内容を簡潔に言うと「トリプルデートをしよう」だ。

 その話を聞いたユウは「えっ!? キイにも彼女が居るの?」と驚いていた。

 アマフミくんは「外に出るのはちょっと戸惑うわね」と嫌そうにしていたが目的地を伝えると端末を引っ張り出して「あっ、ここなら行けなくないかもしれないわね」と賛同してくれた。

 シユはにこにこと俺の隣に立っていた。

 

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