Snow White.

 



「だとしたら、俺は……。俺と結婚したのは間違いだったんだ」

 ユウはそう呟いた。

「俺と結婚して、外に出る事は殆ど無くなった。それがダメだったんだ」

「おい、ユウ」

「ユウさん」

 シユの手がユウの肩にそっと置かれる。

「白雪姫って映画を知っている?」

「え……? えっと、知ってるけど」

「シユ……。まさか、まさかじゃないよね?」

「そのまさか」

 驚く俺の方を向いてシユが微笑み頷く。

「えっ……?」

 ユウはまだ掴めていない様だった。

「白雪姫は永遠の眠りに落ちていた。真実の愛のキスが毒の魔法を打ち消す」

 その言葉にユウの顔が強張りから困惑に変わる。

「アマちゃんが白雪姫で、俺が王子役?」

 シユの頭が小さく縦に揺れる。

「マジで言ってる?」

「本気で言ってる」

「ユウ。一回試してみよう」

「チカもマジで言ってる?」

「シユはこう見えて名の知れたカウンセラーだ」

 俺はシユの頭にぽんと手を置いた。

「厳密には違うけど、今はいい。はやく、キスしてあげて」

「……、いや。じっと見られて状態でするのはちょっと」

「さっさとキスしろよ、ユウ。シユ、一旦出るぞ」

「う、観察したい」

 駄々をこねそうなシユを引きずる様にして病室の外に出る。

 すっかり目が慣れてしまった真っ暗な廊下を少し歩いて薄明かりが差し込む窓の前まで来た所で俺はある疑問を口にした。

「シユ、あの子は何時目が覚めていたと思う?」

「流石チカちゃん。話しているあいだ」

「じゃあ、あの茶番は?」

「あの子も何時目を覚ましたら良いのか図りかねていたみたいだったから、ね?」

 そう悪戯っ娘の様な笑顔を見せる彼女を俺は抱き寄せて思いっきり頭を撫でた。

「チカちゃん。ちからになれたかな?」

「ありがとう、シユ。きみは何時も俺のちからになってくれる」

「一緒に居るところ、見られたら危険じゃない?」

「もう腹を括ったさ。ユウも階段をあがったみたいだし、この際オープンしていこうかなって思ってね」

 そうだ、この際だからキイのやつも巻き込んだらいいかもな。

「チカちゃん、悪い顔してる」

「え? 本当に?」

「サプライズプレゼント計画していた時の顔と同じだった」

「あれ? あの時、驚いてくれてたのは?」

 彼女は口を両手で塞いでそっぽを向いた。

 それは答えと同義だった。

「そうか、シユは、気が付いていたのか……」

 肩を落とした俺にシユはぎゅっと抱き着いてきた。

「わかりやすいところも、すき」

 抱き返しながら俺の胸の中にはひとつの疑問がぐるぐると回っていた。

 

 俺ってそんなにわかりやすいのか?

 

 

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