The Darkness of Thinking.

 


 その病室は個室だ。

 夜、いや、闇だった。

 一番奥の病室でそこだけが闇に満ちていた。

 病室前の廊下に付けられた電球は外され、窓から日が差し込まない様にブラインドが閉じられていた。

 暗い廊下を見て俺と彼女は呆然としてしまった。

 俺たちは顔を見合わせ、闇の中へと一歩一歩足元を確かめる様に進んでいった。

 病室の扉をノック、はせずに取っ手にゆっくりと手をかける。

 少しずつ扉を引いてゆくと中から声がした。

 か細いが俺と同じ声。

「チカ……」

「ユウ、来たよ」

 俺が口を開く前に彼女がすっと室内に入りユウに詰め寄った。

「廊下の電球が無いのと窓が塞がれているって事はその子は光にアレルギー反応を起こすの?」

「えっと、チカ。この人、だれ?」

「大丈夫。俺の彼女」

「はじめまして、ユウさん。チカちゃんの彼女をしてます、セイ・シユです。それよりも、先ほどの質問にお答えを」

「あ、光全部じゃ無い。太陽光アレルギー、ってアマちゃんは言ってた。実際、太陽光を浴びると当たった所に爛れが出来てたし」

「ふうん。でも、電球まで外してあるのは?」

「アマちゃんが言うには太陽光の波長が含まれるとダメだって……。WEBカメラもダメだって言ってた」

「へえ、おかしな症例。どうしてこうなったのか教えて」

「俺の不注意、としか」

「状況を詳しく教えて欲しい。あなたの主観じゃなく」

「誕生日、だったんだ。アマちゃんの」

「出かけたのね?」

「俺が無理やり誘ったんだ」

 そう呟いてユウは顔を手で覆った。

「話が途中」

「ユウ。しっかり話せ。その子を助けられるのはお前。一番近くで見ていたお前だよ」

「……、風。風でアマちゃんの帽子とベールがめくれて……」

「直射が当たった訳?」

 彼女の問いにユウは項垂れという形で答えた。

「アナフィラキシーショックの様。でも、原因は身体性では無い」

 彼女の言葉に俺とユウの「えっ?」という声が揃った。

「多分、恐らくだけど心因性の陽光アレルギー。この子は外界との接触を限りなく断つ為に自分の精神こころの中でアレルギーを作り出した」

「でも、そんな事って……」

「あり得る。熱い熱いと思い込んで点いていないストーブを触って火傷した事例は有名」

 

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