Going to fall.

 



「助けてよお、アマえもーん」

 実家から逃げ出した俺は情けない声を上げながらマンションの一室に飛び込んだ。

 俺の叫びを聞いて同居人氏は仕事の手を止めて顔をこちらに向けた。

「どうしたんだい? ユウ太くん。またいじめられたのかい?」

 くすくすと笑いながら言う同居人氏に俺は氏の存在がバレた事を伝えた。

 すると同居人氏はあごに手を置いて首を傾げ「ま、順当ね」と微笑んだ。

「ユウは分かりやすいから1度でも実家に行ったらバレると思っていたわ」

「俺ってそんなに分かりやすい?」

「そうね。大体が顔や仕草に出るから簡単よ」

 俺は自分の顔をもにゅもにゅと揉んで顔の筋肉を引き締めてみる。

「これを維持したらいける?」

「表情が変わらなくても動きでわかるから無駄な努力よ。やめておきなさい」

「うー、アマちゃん。俺ってそんなポンコツ?」

 机に突っ伏した俺は上目遣いに同居人氏、アマちゃんを見た。

「そうねえ。お互いにポンコツじゃないかしら」

 アマちゃんは椅子から立ち上がるとすっと俺に近寄って覆いかぶさった。

「アマちゃん。当たってるし重い」

「当ててるし、重くしてる」

 アマちゃんの吐息が耳をくすぐる。

「あむっ」と声を出してアマちゃんが俺の耳を甘噛みする。

「みみはっ、弱いから、やめてって」

 もむもむと甘噛みされ俺は身体を震えさせた。

「ユウ? 震えたけど、出ちゃった?」

 アマちゃんの言葉に俺は小さく頷いた。

「シャワー浴びて、着替えてくる……」

 

 冷たいシャワーを浴びて気持ちを口にする。

「何時もながら、やんなるね……」

 いっつもこうだ。

 アマちゃんからの軽いスキンシップだけで出てしまう。

 いくら直そうと思っても体質、と言うよりも頭の良さを兄のチカに、身体の強さを弟のキイに渡してその余り物で出来たのが自分だと、そう理解するしかない。

 本当は違うのだろうけど。

 でも、でもそれでも。

 俺にあるのは何ともならない弱い弱い身体と頭。

 俺にとっては何処もアウェーだった。

 外に出てもアウェー、家に居てもアウェー。

 落ち着ける場所なんて無かった。

 だから実家から逃げ出したんだ。

 もう帰るつもりはなかった。

 でも、アマちゃんと住むようになって家族が恋しくなった。

 だから勇気を振り絞って帰ったけどやっぱりアウェーはアウェーだった。

 ゆっくりシャワーの温度を上げて冷えた身体を温める。

 大きな溜息と共に。

 

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