第17話 すこしレベルアップ

【異世界】に【転移】してから、一週間ほどになる。

もちろん、毎日、暗くなる前には、【根源世界】に戻ってるよ。



だってさ。

そのくらいの時間帯になると、馬車を連ねたニンゲンがやってきて野営を始めたりするんだよ。



こんな…、街からもけっこう離れた街道横の広場で、10歳児がぶらぶらしてたら、怪しまれるでしょ。

その上、【鑑定】でもかけられたら、面倒なことになるに決まってるもの。

ステータスが赤ちゃん並みの10歳児って、ちょっとした怪異だよ。



ただ、そんなに神経質になって隠れてたわけじゃないからね。

もしかすると、昼間に、ここに立ち寄らないで通過していった人たちには、ちらっと見られてるかもしれない。

まあ、それはしかたがないよ。

四六時中、ぴりぴりしてるわけにはいかないからね。



ちなみに、この一週間の成果は、こんな感じ。






名前 シンイチ・タムラ

性別 男

年齢 10歳

職業 なし


レベル 5(UP!)


HP 15(UP!)

MP 99


体力  G

魔力  F(UP!)

素早さ G

運   S


魔法 火    G

   水    G

   風    G

   土    G

   光    G

   闇    G 

   聖    G

   無    G

  *空間   S

  *重力   F[軽減(範囲小)・加重(範囲小)](New!)

  *時間   G


スキル なし

 

加護 なし

称号 なし



------------------------------------------------------------------------------------



*万物創造[言語・鑑定のみ]

*境界管理[倉庫のみ]

*転移[思念体モード・魔力体モード]・帰還・ゲート展開

*転送[接触転送(単体)・遠隔転送(単体)](New!)



*印は、基本的には、現地人には見えない項目だったよね。






ようやく、【レベル】が【5】になって、【HP】が【15】になった。

コレでもう、転んでも死なないんじゃないかな。


それに、なんと。ジョギングができるようになった。

たらたら走れば、けっこう長い時間つんだ。

まあ、歩いてるより少し速い程度だけどね。


さらに、ジョギングしながら、近くにある小石や木切れを、そのまま【転送】できるようになった。

ようするに、【転送】したいものを、じっと見つめて、『転送』って強く念じれば、しゅって消えるんだよ。



【重力魔法】でいちいち浮かせる必要がないから、すごく、手早くなった。もちろん、かがむむ必要もないよ。



ふふふ…。まあ、それなりに順調って感じ?



………



まあ、レベルアップしたお話はこれくらいにして…。



作業を再開しなくちゃね。



オレは、地面に手をついた。

じっとりと湿った感じが手のひらに伝わってくる。

ちょっと、ひんやりして気持ちがいい。



じつは、最近、ようやく気がついたんだけど、こっちの世界は、いま、夏みたいなんだよ。まあ、季節の変化があれば…って話だけど。



少し前までは、何しろ【HP1】でしょ。

なにやっても、冷や汗ものだからね。

季節感とか感じる余裕がなかった。


でも、いまはさ。

【体力】そのものは、まだ【G】ランクだけど、【レベル】も上がって【HP】も増えたでしょ。

だから、ようやく、もしかして夏?って感じで気づいたんだよ。



だけどさ。



さっきは、じっと見つめたら【転送】できるって言ってたのに、なんで、地面に手をついてるんだ?って思うよね。



じつはね。

いま、森のなかにいるんだ。

転んでも死ななくなったからね。

今朝から、森に入ってるんだよ。


そして…ね。


オレは、地面に触れている両手に、感覚を集中して唱えた。


(転送っ!)


すると…


どすん!…って感じで、地面が沈んだ。

まあ、地面って言っても、1メートル四方くらいだし、沈んでも30センチくらいなんだけど。



そうなんだよ。



いよいよ。地面っていうか、土?を【転送】できるようになったんだよ。



これからはね。

① 土をたくさん【転送】してね。

②【境界】に、土の地面を造って…。

③ それから、樹木を【転送】して…。


そしてね。


④ 森を造るんだよ。



…わかってるよ。



すっごく、遠大な計画だよ。

でもね。

気持ちは、《塵も積もれば山となる》…だよ。

愚行ぐこう、山を移す》…だよ。




オレは、森のなかを蛇行しながら、作業を続けた。

人工林じゃないからね。

まっすぐ進むと、すぐ樹木にぶつかっちゃうんだ。

まだ、地面に生えている木を、まるごと【転送】するのは無理だしね。



…………



……ふう。



オレは、立ち上がって、腰をとんとんした。

ずっと、四つんいで作業してるからね。

腰が痛くなるんだよ。



森の中で、ずっと四つん這いになってたら、キケンじゃないのかって?

もちろん、アブナイよ。地面ばかり見てるからね。



でも、【境界】から、ウチのコたちが、オレの周囲を見張ってくれてるんだよ。

そして、いざとなったら、【強制帰還】させてくれる。

転んでも死ぬことはないけど、大型の魔物にいきなりパクリってされたら死ぬからね。

油断はできないんだよ。



…さて。



もう少し頑張りますか。



オレは、再び、地面に手をついた。



すると…。



目が合った。



大丈夫だよ。

魔物でもないし、ヘビでもないよ。



リスだった。

シマリスだっけか。シマシマだからね。

どんぐりみたいなのを両手で抱えて、じっとこっちを見ている。

オレが立ち上がって腰をとんとんしてるのを見て、そのきに、どんぐりを拾いに来たのだろうか。



そのとき、オレの頭のなかに、ウチのコたちの声がびんびん響いた。



『『『かわいいーーーっ!』』』



【思念体通信】ってやつだよ。

ボリュームとかないんだよ。



『真一。真一。ボク、そのコ欲しい! ぜったい捕まえて!』


柑子みかんちゃんが、なんか熱狂してるみたいだ。





ああ…、柑子ちゃんは、動物とか、《可愛いモノ大好き》っていう設定だったけ…。

元気いっぱい、好奇心旺盛、思ったことはつい口に出しちゃう、そして、可愛いモノ大好き。


もちろん、【FSO(ファンタジック・ストーリー・オンライン)】をやってた頃の、オレの脳内設定だけど…。

ちゃんと、リアル柑子ちゃんに、反映してるみたい。


ホント。いい仕事してるね、【万物創造(眷属創造)】。



柑子ちゃんの、切羽詰まったような声が聞こえてきた。



『早く早く! 逃げちゃうよ!』


あー、はいはい…。


オレは、あらためて、リスを凝視した。

離れたままでも、じっと見つめたら、【転送】できるからね。


シマリスは、いつの間にか、ほっぺたをたいそうふくらませていた。

さっきのどんぐりを、頬袋ほおぶくろに収納したんだね。


相変わらず、『なんか用事よう?』って感じで、オレをじっと見ているよ。今がチャンスだね。


オレは、心で念じた…


( 転…)



…まさに、その時だった。



「ヴゴオオオオオオーーーーーーーッ!」



すさまじい咆哮ほうこうとともに、森が震えた。



そして…



ばきばきばきばきばきーーーーっ!


どどどどどどどどどどーーーーん!



木々をなぎ倒すような音が、森の中に響いた。




ああ…、もうコレは、魔物だね。

それも、デカイやつ。


今日の作業は、ココまでかな…。

オレは、ため息をひとつつくと、さっそく【帰還】することにした。




【帰還】っていうのは、もちろん、【根源世界】に戻ることだよ。

いつでも、どこからでも、念じるだけで【帰還】できる。


いまは、【根源世界】のなかに創った【境界】に戻るように設定してある。


【境界】にも、おうちを創ったから、そこに【帰還】するんだよ。




そのとき、森の中から、黒い影が飛び出してきた。



おかしい…。

木々をなぎ倒す音を聞いている限り、まだ、もう少し時間がかかるはずなのに…。


ほら…、アレと同じだからね。

救急車が近づいてくるときの感覚…ってやつ?



「すまねえ! ちょっと、時間かせいでくれや!」



その黒い影は、ふたりのニンゲンだった。

ひとりは、肩に、ケガ人を担いでいる。

追っかけてくる魔物に一発くらったんだろうか。

まだ、生きてる感じだけど、出血が尋常じんじょうじゃないから、けっこう、ヤバそう。



ふたりのニンゲンは、オレの頭上を軽々と飛び越えて行った。

オレまだ、10歳児だからね。背が低いんだよ。



彼らは、オレの頭の上を通過するなり叫んだ。



「……様! こ、子どもですよ!」


「…なんだとっ!」




なんなの?

さっきのセリフ、やっぱり、オレに言ったの?


オレに、魔物を任せようとしたの?

でっかい木を、ばりばりなぎ倒してくる魔物でしょ。


ありえないよ…


あんたら、10歳児に、ナニ、押しつけようとしてるの。


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