第15話 森

まだ、【魔力体からだ】を構築するには、【魔力】が足りないみたい。【人体ゲージ】は、腰までしか埋まっていないからね。



じっとしていても、退屈なので、すこしぶらぶらしてみることにした。

夜目に慣れたのか、けっこう明るく感じる。

でも、目そのものがないのに、夜目って言うのもおかしいんだよなあ…。



まず、森の、すこし上空に出た。

森の中だと、木々に視界をさえぎられて、あんまり遠くまで見えないからね。



どっちに行こうかな…。



…って、ナニコレ…。



視界いっぱいに延々と森が広がってるんだけど…。

どんだけ広いだろう、この森は…。



後方には、ずっと遠くに、山岳地帯が見える。

だから、そこがようやく、森のいちばん端だね。


いずれにしても、見渡す限りの大自然だな。


まあ、異世界なんてこんなモンか。

むしろ、ニンゲンの手で荒らされていないのは、けっこうなことかもしれない。



とくにあてもないので、正面方向に進むことにした。



すると、ぴこんって鳴った。

今度は何だろうと思うと、【転移ゲート】ってタブができていた。

さっきまでいた場所が、登録されたみたい。


一定時間、留まっていたら、自動的に登録されるんだろうか。

すごく便利だけど、後で整理するのがたいへんそう。



………



ほんの少し進んだところで、さっそく、何か見えてきた。



…遺跡だろうか?



ほとんど地中に埋まってるみたい。

その上、木々に囲まれているから、よく見えない。

ただ、屋根の一部らしきものが、地面からかろうじて顔をだしている。

そこから、内部っていうか、地下に潜れるようだ。



…神殿。



なぜだろう。

ふと、そう思った。



埋もれた屋根のあたりを見下ろしていると、何かが光った。



眼光…?



今度は、ふと…思ったわけじゃないよ。

《意思》の宿る光は、眼光だもの。



案の定。

屋根のあたりから、人影が現れた。

おそらくは、黒のローブ。そして、杖。


リッチ…?


もちろん、お金持ちって意味じゃないよ。アンデッドだよ。

今は、【思念体モード】だから、残念ながら気配までは感じとれない。


だけど、こんな深い森の、さらに、遺跡?とおぼしき地下で、のほほんと暮らしてるニンゲンなんているはずないよね。

なんか、けっこう堂々としてるから、高位魔道士の成れの果てアンデッドってとこじゃないかな。



めんどうだな…



こっちは、【思念体モード】だから、たぶん、見つかることはないだろうけど。

相手も、マトモじゃないからな。


それに…


なにより、元ニンゲンだ。

ふつうの魔物なら、ウチの【境界】で魔力変換係をしてもらたいけど、ニンゲンは、ちょっとイヤだな…。



あの遺跡は、けっこう気になるけど、リッチにはあまり関わりたくないな。

オレは、引き返して、山岳地帯の方角に進むことにした。



………



どのくらい飛んだろうか。

かなりの速度で飛んでる気がするけど、眼下の森を見たら、酔いそうなので、まっすぐ前だけ見て飛んでいる。



じきに、山のふもとに着いてしまった。

空気抵抗がない思念体からだとはいえ、尋常じゃない速さだ。

便利には違いないけど、うっかりすると目的地をあっという間に通り越してしまいそうだね。



眼の前には、それなりに高い岩山がそそりたっているけど、コレも、奇妙だ。

洞窟があるんだけど、入り口の大きさが異常なんだよ。

10階建てのマンションくらいの高さはあると思う。

しかも、まるで刃物で削りとったみたいなキレイな入り口なんだよ。



岩肌を削って神殿でもつくってるなら、人工的な建造物とも思えるんだけど、実際には、ただ、洞窟があるだけなんだよね。



うーん。…ってことは。



たぶん、知性のある動物で、すごくデカいヤツが住んでるんだろうね。

そんな大物なら、ぜひ、ウチの【境界】に来てもらって、魔力変換器になって欲しいけど、今はまだ、時期尚早しょうそうかな。


相手を魔力変換器にするどころか、オレのほうがえさにされそうだからね。



やっぱり、この場からも離れることにしたよ。



………



しばらくの間、あてもなく飛んでいると、だんだん夜が明けてきた。

森に接した空が、夕焼けみたいに、だんだんと真っ赤に染まってゆく。

いや。朝だから朝焼けか…。



ちょっと、見とれていると、手元で、ぴこんと鳴った。



【人体ゲージ】が満タンになったみたい。

いよいよ、【魔力体】として実体化できる。



うーん。



だけど、【思念体】では、気配を察知できないんだよね。

もちろん、知覚する能力はあるんだけど、気配まではだめみたいなんだよ。

近くに魔物がいることに気づかないで、実体化した瞬間にパクリ…じゃ、笑い話にもならない。



オレは、すこし開けた場所をさがして、もう少し飛んでみることにした。



すると、街道が見つかったよ。

ニンゲンの生存圏内に入ったって感じだね。


街道に沿って飛ぶと、ちょっとした広場もあった。

いちおう整地してあるから、馬を休めたり、野営したりする場所みたい。



ここなら、けっこう見通しも利くから、いきなり後ろからパクリ…はないと思う。



うねうねと続く街道を、さらに眼で追うと、けっこう先に街が見えた。

高い壁に囲まれていて、それなりに大きな街みたい。

うん。この中世の西洋っぽさ。いかにも【異世界】だね。



いまのところ、街に興味はないから、街道横の広場に降りた。

うっかり空中で実体化したら、落ちて死んじゃうからね。

【魔力体】になった瞬間、地面に激突死とか、さらに笑えない。


いくら、【根源世界】で復活できるからって、無駄に死ぬ必要はないよ。



オレは、地面ぎりぎりのところまで降りて、【思念体モード】から【魔力体モード】に切り替えた。



おおーっ!



みるみるうちに、10歳児が完成!

もちろん、真っ裸じゃないよ。

いつもの、フード付きパーカーとスウェットパンツ。

色はね。ライトグレー。これなら目立たたないと思うから。

ちゃんと、ウォーキングシューズもいてるよ。



【魔力体】って、要するに、ふつうの【身体】だよね。

ふふふ…。じつは、楽しみにしてることがあったんだ。


オレは、声高らかに唱えた。


「ステータス・オープン!」



実は、コレ。【霊力体】には、ないんだよ。

必要ないからだろうけど。



ひゅんって感じで、右下のあたりに画面が現れた。

ひさしぶりのステータス画面だ。




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