第13話 境界

【境界創造】っていうのは、文字どおり、【境界】を創ることだった。


【境界】っていうのは、《さかい目》のことだよね。


つまり…


【根源世界】と、【外界】との《さかい目》の世界。

それが、【境界】なんだ。




『【創造の根源】すなわち【根源世界】は、【無限の霊力】が絶えず湧き出る世界です。

 そして、あなたたちの【身体】は、この【霊力】で構成されています。

 いわば、【霊力体】ですね。

 この【霊力体】のままでは、成長はできません…』




きっと、【根源世界】っていうのは、【不変】の世界なんだろうね。

【不老】も【不死】も、【不変】ってことだし…。

食べ物なんかは、その本来の目的からして例外だったはずだけど。

そもそも、食事を前提としてない世界だからね。

もしかして、ほんとうに食べちゃったオレたちのほうが、イレギュラーだったのかもしれないね。



『…これに対して、【外界】は、【魔力(魔素)】によって構成された、ごくふつうの世界です。

 【魔力】で構築された存在。いわば、【魔力体】は、【不老不死】でも【不変】でもありません。

 そのかわり、いえ、それゆえと言うべきでしょうか。

 あなたの望む、【成長】が可能です』



【外界】って呼ぶのは、【根源世界】から見て、外の世界だからだよ。

それは、元地球人のオレにとっては、【異世界】なんだ。

例の、地球の西洋中世っぽい世界だよ。



「じゃあ…、【外界】に出てって、自分の体を【魔力体】にしちゃえばいいんだね!」



柑子ちゃんが、元気いっぱいに言うと…



「でも…、どうやって…、自分の体を…【魔力体】にすれば…いいの?」



橙花ちゃんが、すかさず、質問したよ。



『それは、ただ、【外界】に【転移】すればいいだけです。

 そもそも、【外界】では、【霊力体】を構築することはできません。

 【魔力】では、【エネルギー】が全く足りないからです』



「【霊力体オレたち】って、そんなに燃費の悪い【身体からだ】だったんだ…」



オレは、思わず、つぶやいた。


 

『とうぜんでしょう。

 でなければ、【不老不死】でも【不変】でもありえません。

 【エネルギー】が無限でもないのに、どうやって、存在を永久に維持し続けるのですか』



それもそう…なのか?

まあ、納得するしかないよね。

疑ってもしかたがないんだから…



「じゃあ…、たとえば、【外界】に【転移】して、【魔力体】になって、半日過ごせば、その半日分だけ【成長】することができるんですね」



真白ちゃんが、話をまとめてくれた。

さすが、真白ちゃんだね。



半日なんて、ケチなこと言わないで、ずっと【外界】に居つづければいいじゃないか…って?



それは、無理だよ。



【根源世界】では、最低でも、21世紀の日本と同じ、快適な暮らしができるんだよ。

その上、欲しいものは何でも手に入る。

 

それなのにさ。


いまさら、あんな中世の西洋レベル世界に、一日中いるなんて、ぜったい無理だよ。


それに、今回は、【転移】であって、【転生】じゃないんだよ。

高位貴族の家にでも【転生】すれば、いくらかマシかもしれないけど…。

それでも、21世紀の日本の暮らしとでは、比較にならないよ。


だいいち、【根源世界】を有効活用しないのは、もったいないよ。



それにしても…



半日、【外界】にいるだけでも、けっこう苦行なのに…。

2年で、やっと1歳ほど【成長】できる計算か。

仮に、15歳を目指すとなると、10年かかちゃうよね。



「うーん。なかなか、遠い道のりだね…」



オレは、思わず、つぶやいた。




『…そうでしょう。

 そこで、【境界】の出番です。

 【境界】は、あくまでも、【根源世界】の一部にすぎません。

 ですから、【根源世界】で創造したモノを、すべて、そのまま持ち込むことができます』



「【根源世界】と同じような快適な暮らしができるんだね!」



『そうです。

 そして、【境界】では、【霊力】と【魔力】が共存できます。

 つまり、【霊力体】でいることも、【魔力体】でいることも可能です』



「…そっか。じゃあ…、【魔力体】の…まま、【境界】で…、過ごしていれば…、その分、さらに…【成長】できるんだ」



『…そのとおりです。

 ただ、【外界】と全く同じ…というわけにはいきません。

 それでも、可能なかぎり【外界】に近い環境をつくれば、その分だけ、【成長】しやすくなるのです』



この場合の《近い》っていうのは、【魔力】の量のことだよね。



「…要するに、【外界】の【魔力】を、【境界】に、たくさん取り込めってこと?」



『…ええ。でも、【魔力】そのものを取り込むことは、非常に難しいのです。

 ですから、【魔力体】をたくさん取り込むのです』



「でもさ。【境界】って、【根源世界】の一部なんだから、最初は【霊力】しかないんでしょ。

 そんな世界で【魔力体】が生きられるの?」



柑子ちゃんが、めずらしく鋭い質問をした。



『…それは、むしろ逆です。

 【霊力体】を【魔力】で構築するのは不可能でも、その逆は可能です。

 たとえば、【外界】から、《魔物》を【境界】に転送すると…

 【霊力】という高エネルギーで、あっという間に、【魔力体】を構築します。

 それだけではありません。

 【霊力】の中に居続ければ、たえず、余剰となる魔力が発生するので、それを放出するようになります』



ちなみに…



魔物が、【霊力】を吸収しても、【霊力体】にはなれないらしい。

【霊力体】になれるのは、【根源世界】で【身体】を構築した者だけ。

【霊力体】っていうのは、それだけ特殊な存在なんだろうね。

なにしろ、【不老不死】だからね。



「つまり、魔物が…、【霊力】を…【魔力】に変換する…装置に…なるの?」



『…そのとおりです。話が早くて助かります』



…なるほど。要するに。



【外界】から、魔物とかをどんどん【境界】へ転送すればいいんだ。

もちろん、生け捕りだけどね。

それで、【境界】内の【魔力】が増えていけば、オレたちも、増えた分だけ【成長】しやすくなるんだな。



【外界】にずっととどまらなくても、【成長】できるのは、ありがたいよね。





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