第12話 成長できない?

『…要するに、あなたはまた、私の話を聞いていなかったのですね』



【導く者】さんの、少しあきれたような声が、頭に響いた。



「……………うん。そうみたい」


いや。きっとそうなんだろう…



『私は、いちばん最初に、伝えましたよね。

 《この【根源世界】で創造した【身体】は、不老不死にして不変。

 ですから、悔いのないように、慎重に創造することです》…と』




…ああ、たしかに。

いま、思い出したよ。



【不老不死にして】って、言ってた。


【不変】って、《成長しない》って意味でもあったんだ。

【不老不死】のほうに気をとられて、適当に聞き流してたよ。



だから、髪も爪も伸びなかったんだ。

花のつぼみも、咲くことがないんだ。



おそらくだけど。

【無限創造】は、《完成体》を創って、ソレを永久に維持する能力なんだろう。


ココでは、この10歳児の【身体】も、《完成体》なんだ。



…ということは、やっぱり。



「オレたちは、永遠の10歳児…なんだね」



オレは、目の前が真っ暗になった気がした。

どこもかしこも、真っ白な世界なのにね。



すると…



「私たちは、大丈夫だよ。真一くん」


真白ちゃんのやさしい声が聞こえてきた。


「そうだよ。10歳だって、なんにも困らないよ!」


柑子ちゃんも、元気いっぱいだ。

たしかに、柑子ちゃんなら、何歳でも困らない気がする。


「…そうそう。…だから、そんなに…落ち込ま…ないで…」


橙花とうかちゃんまで、オレを励まそうとしてくれてるのか…



橙花ちゃんは、3人目のウチのコだよ。


他のふたりと同じ長い銀髪だけど、目の色はみどり

ちょっと眠そうな半眼をしてるし…

話し方も、たどたどしいところがあるけど…

けっこうクールな女のコなんだ。



3人とも、オレが洗面所に駆け込んだのを知って、すぐに駆けつけてくれたんだ。



「…あ、ありがとう」



みんな、やさしいね。

あの無茶な【試練】に耐えた甲斐があったよ。



でもね。



じつは、困るのは、オレなんだよね。


10歳児の【身体】だとね。

《めくるめく愛の日々計画》に、支障をきたしちゃうんだよ。


【FSO(ファンタジック・ストーリー・オンライン】をやっていた間、ずっと夢見ていた…

あーんなことやこーんなことが、できなくなっちゃかもしれないでしょ。



でも、いまは、そんなこと。

言える雰囲気じゃないよね…



『…まったく、あいかわらず、困った人ですね。

 説明を、ちゃんと最後まで聞かないから、そういうことになるのです。

 それに…、私は、《成長できない》…とは、言っておりませんよ』



「…えっ、ホントに?」



『もちろん、この【根源世界】に留まっているは、成長することはできません。つまり、永遠の10歳児です。

 あなたがたの【身体】は、【霊力】でできていて、その【霊力】は無限に湧き出てくるのですから…』


 

「じ、じゃあ…。もしかして、別の【世界】に出れば、成長できるってこと?」



『そうですね。【外界】に出れば、いままでどおり成長できます。もちろん、【不老不死】ではなくなりますが…。

 ただ、それも、【外界】、【不老不死】ではないというだけです。

 【根源世界】の住人となった以上、【外界】で【身体】を失ったとしても、【根源世界】で【身体】を再構築することは、いくらでも可能です』


 

 ただし…と、【導く者】さんは、声を低めて言った。



『【外界】とは、以前、あなたが《異世界》と読んでいた、世界のことですよ。

 あなたは、世界に戻っても、かまわないのですか?』



………



要するに、【歴劫の試練】を過ごした《異世界》の、どれかに戻るってことなのかな。

死にまくり、殺しまくった世界。

正直言って、あんまり、戻りたいとは思えないな。


ただ…。


転移先を自分で選ぶのは、無理だとしても…。

ある程度は、ランダムで決まるんじゃないだろうか。


それなら…。


場合によっては、【歴劫の試練】とは無関係の異世界に、転移できるかもしれないよね?



『…何を馬鹿げたことを。

 あなただって、よく知っているはずですよ。

 【情報カルマは、えにしを引き寄せる】

 それは、【世のことわり】でしょう。

 見知らぬ世界に転移することがありえると、本気で思ってるのですか?』



そうだよね。

まあ…、あるわけないよね。



なべて、世界は、【情報カルマ】によって制御されてる。

それが、【因果応報】ってことだよね。

そこに、《偶然の幸運》を期待するのは、愚かなことだよね。



それなら、それでいい…



「オレ、行くよ…。外の世界に…」



オレは、決意した。


ウチのコとの愛の日々のためだもの…

また、いくらでも、頑張れるよ。



「…いいの?」

「真一。無理することないよ!」

「私たちは…、このまま…でも、いいんだ…から…」



「…みんな」


そんな心配そうな顔しなくても、大丈夫だよ。

それしか方法がないなら、それをやればいいんだ。

そうやって、みんなと一緒にいられるようになったんだから…



オレが、気持ちを決めたせいだろうか。



ぴこん!

ぴこん!


…って音がして。


眼の前に…


【境界創造】って項目と、

【転移】って項目が、ポップアップしてきた。



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