第11話 伸びてない!

【根源世界】に来てから、ちょうど、100日ってとこだろうか。



この約3ヶ月の間に、【根源世界】には、いろんなものが増えた。



なにしろ、四人でいっせいに創るから、知らないうちに、いろんなものが増えていたりするんだよね。



そう。

ウチのコは、いま、3人いるんだよ。



ちなみに。



眷属けんぞく創造】には、【能力を共有する】っていうのがあったけど、アレは、《共有》だった。


なんと。


ウチのコは、最初から、オレと同じ、【無限創造_Lv20】だったんだよ。

なんか、とんでもなくオトクな仕様だよね。




まあ、それはさておき。




ウチのコたちと、いっしょに暮らすようになったからね。

まず、おうちを創ったよ。


みんなでネットで見本を探して、お祈りして、和風のお家にした。

まあ、最終的には、オレの趣味(っていうか夢?)に合わせてくれたけどね。



お家が出来たら、やっぱり家具がるよね。

カーテンとかも。


だって、今は10歳だけど、もう少し成長したらさ。

お部屋のなかで、ウチのコたちと、ひっそりと共同作業にいそしむことになるじゃない。


やっぱり、女のコって、雰囲気を大切にすると思うんだよ。

だから、カーテンしないわけにはいかないよね。

もちろん、外からのぞくような他人やつなんて、どこにもいないんだけどさ。

この世界には、オレたち4人しかいないんだからね。


まあ、そんなわけで、家具屋さんを創って、家具をそろえたんだよ。



それから、家電だね。

こっちも、家電量販店を創ったよ。


デパートって、家具とか家電は、申し訳程度にしか置いてないじゃない?

だから、デパートだけじゃ、ぜんぶそろわないんだよ。

いらないモノは、山ほどあるんだけどね。



家電もね。

ひととおり揃えたんだけどね。

使わないものばかりのような気もするんだよ。



たとえば、掃除機とか洗濯機。

この世界って、基本的に、ほこりも汚れもないからね。

使うことあるんだろうかって思う。



それから、冷蔵庫に、電子レンジ。

この世界のモノって、冷めたり、ぬるくなったりしないんだよ。


だから、アイスクリームとかも、食べない限りは、溶けないんだよ。

最初は、食べても溶けなかったらどうしようかって、不安だった。


でも、《食べる》っていう行為が、なにかのスイッチみたいになってるのかな。

食べたら、ふつうに溶けたよ。



あとはね。

天井につけたLED照明かな。


この世界って、どこもかしこも、すっごく明るいんだよ。

そもそも、夜なんてないからね。

暗くなりようがないんだ。


それに、家の中も、照明なんかつけなくても、いつも明るい。

そりゃそうだよね。

太陽みたいな光源があるわけじゃないんだから、家のなかに入ったからって、暗くなる道理がないよね。


じゃあ、何で、あちこち明るいんだよ…ってたずねられても、わかんないだけどさ。




もちろん、ちゃんと使ってるものもあるよ。


ひとつは、やっぱりパソコンだね。

ひとり一台は持ってるし、毎日、使ってるよ。


なんと。

ウチのコたちが、【FSO(ファンタジック・ストーリー・オンライン】をやってたよ。

もちろん、自分のキャラを操作してた。

これこそ、まさしく《アバター》だなって感心したよ。

《アバター》って、もともと、自分の《化身けしん》とか《分身》とかって意味だもんね。


でもね。


3人とも、オレに、自分のゲームキャラを使わせてくれないんだよ。

なんか、エッチなとこばっかり見るからダメっていうんだ。

ひどすぎるよ。

でも、まあ、そんないじわるするところも、かわいいよ。



それから、TV。

TVもね。

お家の壁にあるアンテナの端子につないだら、ちゃんと映ったよ。



ネットもそうだけど。

これって、リアルの日本につながってるんだろうか?

それとも、【情報カルマの集合体】が、一種の仮想(むしろ偽装?)サーバーのような機能を発揮してるんだろうか?

まあ、考えてもわかるわけないから、そういうもんだと思うことにしてるよ。



家電はこんな感じかな…



あと…



ショッピングモールも創ったよ。

いろんなお店がたくさんそろってる、巨大スーパーみたいなやつだよ。

《モール》には、大規模な商業施設って意味もあるからね。


デパートってさ。

食料品を買うには、地下に降りないと行けないし、何かを探すにも、エスカレーターに乗って、いくつもの階を渡り歩かないとダメじゃない。

けっこう、めんどうだよね。


やっぱり、ふだんの生活に必要なものは、ショッピングモールみたいなところが、便利だよ。

もともと、デパートなんて、めったに行ったことなかったしね。



どれも、オレが住んでいたS市にあったお店だよ。

オレにとって、見慣れたお店は、ウチのコたちにとっても、馴染みやすいものだからね。

コレって、【情報カルマ】を共有したお陰だよね。




もちろん、欲しいモノをピンポイントで創ったりもしてるよ。



でもね。



やっぱり、みんなでお店を見て回って、欲しいものを見つけるほうが楽しいよ。

お店をのんびり眺めていると、『ああ…、これもあったらいいね』って感じで、見つけることもあるからね。

そういう発見って楽しいよね。



そもそも、ショッピングってさ。

実益も兼ねた娯楽みたいなもんだと思うんだ。


もちろん、そんなことが言えるのは、どれも【無限創造】のお陰で、無料で手に入るからだけどね。






お家ができると、ウチのコたちは、庭をつくったり、お花畑をつくったりして楽しんでいた。

こういうのを見てると、女のコといっしょに暮らすっていいなあって思うよね。

オレひとりだと、家を創ることすら、考えなかったからね。



だって、【根源世界】ってさ。



地面は、柔らかめの真っ白な床だし。

空も真っ白で、もちろん、雨なんて降るわけもないし。

気温も一定で、暑くもなく寒くもないんだよ。

家が必要だなんて、全く思わなかったんだよね。



…………



…とまあ、こんなふうに、ちょっとしたスローライフを楽しんでいたんだけどさ。



例の、ウチのコが創ってくれた花畑のお陰で、オレは、とんでもない事実に気づくことになったんだ。




ある日のこと。



柑子みかんちゃんが、オレの部屋に来て、花瓶かびんしていた花を取り替えようとしたんだよ。



柑子みかんちゃんは、もちろん、ふたり目のウチのコ。

いつも、元気いっぱいって感じの女のコだよ。



この花はね。

オレが、花畑からんできたものだよ。

そして、ショッピングモールの雑貨屋さんで手に入れた、ガラスの花瓶に挿してたんだ。


せっかく、ウチのコたちが花畑を創ってくれたんだよ。

有効活用しないと、申し訳ないよね。



「あれ?柑子みかんちゃん。ソレ、まだ枯れてないのに、取り替えるの?」


花だって生きてるからね。

咲いている間は、飾っておいてやりたいんだ。



すると…



柑子ちゃんは、大きな紅い瞳をくりくりさせながら、不思議そうに言った。



「真一…。何言ってるの?お花は、枯れたりしないよ」



「…えっ?」



「…だって、ココは【根源世界】だもの。お花だって【不老不死】だよ」



「……あっ」



そうだった。


この…、常時、エネルギー満タンの【根源世界】では、存在するものは、絶えず更新されてるから、ずっとそのままだった。


あやうく、同じ花を、永遠に眺めてるとこだった。



【不老不死】おそるべし…だよ。



「じ、じゃあ…。せめて、まだ、つぼみのままなのは、咲くまで待ってあげようよ」



オレは、真っ赤な薔薇ばらの蕾を指さした。

がんばって蕾にまで成長したんだから、咲かせてあげたいよね。



「うーん…、真一。どうしちゃったの?コレ、蕾だよ。蕾が、咲いたりするはずないじゃない」



「……えっ」



蕾が…。

咲かない…?



………


………


………


……はっ!


………


…ってことは!



オレは、思わず駆け出した。



そして、洗面所に飛び込んだんだ。

洗面台には、大きな鏡がついてるからね。



「や、やっぱり!……の、伸びてない!」



身長のことじゃないよ。

いくらオレでも、100日で背が伸びるとは思ってないからね。


髪の毛だよ。

髪がね。まったく伸びてなかったんだよ。



「…ま、まさか!」



オレは、恐る恐る、自分の両手を見た。



そして…。



がっくりと、ひざをついた。



………



「つ、爪も…、まったく、伸びてない…」



両手の爪を見たらね。

まるで、ついさっき切りそろえたように、短いままだったんだ。


この100日間、一度も切ったことなんてなかったのにね。



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