第10話 ウチのコ③

もう、まる一日くらいになるだろうか…


オレは、宙に浮かぶ白い球体をじっと見上げている。

なかには、もちろん、ニンゲン版の真白ちゃんがいるはずだ。



ちょうど今、球体の内部で、肉体が構築されているのだろうか。

そう思うと、つい、想像してしまうよね。


………


うーん。


ちょっと、グロい想像しちゃったよ。

内臓がね。

こう…。ぐにょぐにょって、組み合わさっていくような…。


でもさ。


どんな美少女でも、皮膚の下には、筋肉やら血管やら内臓が詰まっているんだよね。もちろん、骨も。


それならさ。


美人だ。イケメンだって言っても、ほんの薄皮一枚の造形ことにすぎないのかもしれないね。

まあ、骨格が無関係とは言わないけどさ…。


…やっぱ、ニンゲンって、そんな薄皮の形よりも、心のあり方のほうに価値があるのかもしれないね。

なんか、そんな気がしたよ。



………



白い球体の回転が、だんだんゆっくりとしてきたよ。



まもなく、球体が消えて、真白ちゃんが現れた。



仰向あおむけに寝そべったまま、宙に浮かんでいるよ。

真白ちゃんは、まだ、目を閉じていて、まるで眠っているみたい。



…ああ。



まちがいなく、真白ちゃんだ。



オレは、ほっとした。



実はね。

オレ、すごく不安だったんだ。


《中身なし》だったらどうしよう…とか、そんな戯言たわごとじゃないよ。

あんなのは、夢のお話にすぎないよ。悪夢だったけどね。



【FSO(ファンタジック・ストーリー・オンライン)】には、顔の造形パターンが何種類かあるんだ。

まあ、ちょっとリアルっぽいものから、アニメ風のものまで。



ウチのコは、みんな。

アニメみたいにデフォルメされた、顔の造形なんだよね。

まあ、そこがかわいいんだけどさ。



だから、もし、そのまま、ニンゲンとして創られたら、なんかこう、ソフビみたいになっちゃうんじゃないかって不安だった。



だってさ。



実際に、そういう等身大のお人形ってあるんでしょ。

エッチなことをするための専用の。


日本の南極観測史にも、《南極1号》さんていうのがあるじゃない?

アニメの話じゃないよ。実話だよ。


まあ、けっきょく、当時の人形の完成度の低さと、あまりの寒さのために、実際に使われることはなくて、《処女》のまま帰還したとか書かれていた気がしたけど…。


ちなみに、隊員たちの間では、《べんてん様》とか呼ばれていたらしいから、名前だけなら女神さまだよね。



まあ、そんな昔の話は別としても。



現代でも、バーチャルコンサートとかやってる初音◯クちゃんは、まさに、ソフビって感じの3Dモデルだよね。


あの、某大手メーカーのゲームPVで使われている、3Dモデルのことだよ。

アレって、リアル系とは、ほど遠いモデルだよね。

とくに、口元なんて、ソフビそのもの。

だから、口だけみると、まるで、キュー◯ーちゃんみたいだよね。

マヨネーズの、キュー◯ーちゃんのことだよ。




でも、初音◯クちゃんは、ソフビ感ばりばりでも、なぜか、すごくかわいいんだよね。



だからさ。



万が一、ウチのコたちが、ソフビっぽくても、なんとかなるんじゃないかとは思っていたんだよ。

まあ、そういうのもアリかなって。


でも、ソフビ仕様じゃなくてよかったよ。


こうして、ニンゲンらしい真白ちゃんを眺めていると、つくづくそう思う。


いま、眼の前で眠っている真白ちゃんはね。

【FSO】の真白ちゃんを、リアル系にリメイクした感じかな。


ああ…、たしかに、真白ちゃんをニンゲンぽくしたら、こうなるよな…って感じの、納得のゆくお顔だった。



まさに、神業かみわざ



ありがたい…よね。

涙ながらに感謝したら、【万物創造】レベルもあがっちゃったよ。



………



しばらくすると…



真白ちゃんは、ゆっくりと、お布団に着地した。

もちろん、仰向あおむけに寝そべったままだよ。


そうだよ。


ちゃんと、お布団を敷いておいたんだよ。

も、もちろん、やましい気持ちなんてないよ。

お互い、まだ、10歳だし…。


ただ、床っていうか、この白い地面の上に、大切な真白ちゃんを降ろすのは、どうしてもいやだったんだよ。



真白ちゃんは、まだ、目を閉じたまま眠っている。



胸のあたりが、かすかに上下してるから、生きているのはわかる。

お胸はね。

ほんのちょっとだけ、ふくらみがあるんだよ。

やっぱ、お胸には、夢が詰まってるでしょ。

いくら10歳とはいえ、真ったいらはないよね。



オレのときは、素っ裸だったんだけど、真白ちゃんは、ちゃんと服を着ていたよ。



だってさ。


ゲーミングノートで【FSO】にログインして、ちょうど、真白ちゃんを呼び出していたでしょ。

それを見ながら、【眷属けんぞく創造】したからね。

ゲーム内と同じ服装をしているんだよ。

まあ、とうぜんっていえば、とうぜんなのかな。


セーラーえりのミニ・ワンピースだよ。

もちろん、パ◯ツは見えないよ。

ちょうど、ふとももの間に、スカートが挟まってる感じ?


ついつい、そこに目が釘付けになっちゃってね。

なんかこう。

むらむらと湧き上がるリビドーを感じるよね。



《中身あり》か、こっそり確認しなくていいのかって?



いや。もちろん、確認したいよ。


でも、もう、ゲームの3Dモデルじゃないでしょ。

だからね。

そんなふうに、自分の衝動のままに、触れちゃいけないと思う。

自分が創ったものだからって、何をしてもいいってわけじゃないからね。


それにさ。


真白ちゃんは、いま誕生して、はじめて覚醒めざめるんだよ。

そして、このオレと、出遭うんだよ。


ボーイ・ミーツ・ガールっていうの?

オレと真白ちゃんにとっては、いわば歴史的な瞬間だよ。


それなのに…


覚醒めた瞬間、オレが、《中身あり》の確認作業なんかしてたら、もう、最悪だよ。

オレの存在ことなんて、キモいヘンタイとして、り込まれてしまうよ。



………


………


真白ちゃん。

なかなか目を覚まさないなあ…


もう、【身体】は完成してるはずなのにね。

なんで、こんなに時間がかかってるんだろう。



でも、まあ、いいか…



【歴劫の試練】では、それこそ、何度も何度も何度も転生して、気の遠くなるような時を過ごした。



そして、いま、眼の前に、ウチのコはいる。



なら、いくらでも待てるよね。いまさらだもの…。



オレは、真白ちゃんのとなりに寝転がって、しずかに目を閉じた。



…………


…………


…………


どのくらいの時間がたったのだろうか。



オレは、ほおに何かが当たった気がして、ふと、目を覚ました。

どうやら、いつの間にか、眠っていたらしい。



【根源世界】では、眠る必要はないけど、こんなふうに、いつでも眠ることができるんだ。

便利だよね。…たぶん。



目を開けると、すぐ眼の前に、真白ちゃんの顔があった。



真白ちゃん…。



なぜ、泣いてるの?

まさかのヘンタイ疑惑?



「…どうして?」



真白ちゃんのやさしい声が聞こえてきた。



「…どうして、あんな無茶なことばかりしたの?」



「…えっ?」



「…あんなに血を流して、あんなに苦しい思いをして」



「…ああ」


そうか。


見ちゃったんだね。真白ちゃん。

オレの【情報カルマ】を共有したから…。


だから、泣いて…くれてるんだね。


でも…


殺しまくったほうを、おびえたり責めたりしないで。

死にまくったほうを、悲しんでくれてたんだね。


やっぱり、やさしいなあ…。真白ちゃんは。



「…もう、だめだよ。絶対に…。いくら、わたしたちのためでも、もう、あんなに簡単に死んじゃだめ」



「…うん。わかったよ」


あの頃は、敵が強すぎたし…。

どうせ、何度も転生するのはわかりきってたし…。

だから、さっさと死んだほうが、効率がよかったんだよね。



「これからは、もう大丈夫。だから、…安心していいよ」



あの頃の敵に比べれば、これから敵対するやつなんて、みんな、ザコだろうし…。


それに…


オレたちって、【不死】だから、絶対、死なないんだよ。

もう、何があったって、へっちゃらだよ。



「…やくそくだよ」


真白ちゃんは、頬の涙をぬぐいながら、やさしく微笑んだ。


それから…


お布団のうえに、座り直すと…、


「ふつつか者ですけど、よろしくお願いします」


…恥ずかしそうに、そう言って、ぺこりと頭を下げた。


「う、うん。…よろしくね」


…なんかさ。オレ。

涙声になっちゃったけど、なんとかこらえたよ。


うれしいよ。


ようやく、心の底から安心できたよ。

ウチのコに、受け入れてもらえたんだから。



だってさ。


いまだから言えるけど…、


『あんた誰?ちょーキモいんですけどぉ』


…なんてののしられたらどうしようかって、内心、びくびくしてたからね。


情報カルマ】を共有しておいて、ほんと、よかったよ。



それにしても。



人生やり直そうって感じで、10歳にしちゃったけど。


10歳だと、ふたりでこうして、お布団の上でもじもじしてても、これ以上、どうにもならないんだよね。


だって…。


お医者さんごっこをするには、年を取り過ぎてるでしょ。

10歳っていえば、小学4年生くらい?

その年齢で、お医者さんごっこしようなんて言い出したら。

もう、立派なヘンタイだよね。


でも、本格的にエッチをするには、若すぎるんだよね。

この年齢って、ようやく、おっきするか、どうかってとこだからさ。


なんとも、中途半端な年齢にしちゃったよ。


まあ、最初から、エッチなことばかり考えてるオレが、間違ってるのかもしれないけど…。


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